デジタルは、全世界に等しく情報を提供し、すべての人々が情報を発信できるプラットフォームです。そのため、デジタルを軸に魅力的なサービスを展開すれば、オフィスを構える物理的な場所がどこであっても、ユーザーはついてきます。このシリーズでは、首都圏に本社を置かないデジタル成長企業を紹介します。第1回目となる今回は、Baseconnect株式会社の創業者、國重 侑輝氏に登場いただきます。Baseconnectは、法人営業に最適化した企業情報データベースをクラウドで提供する「Musubu」を提供する企業です。

 

現在の立ち位置:設立5期目で、全国に6万社以上の顧客

 

 

2017年の設立ですから、いまは5期目になります。6万社以上のお客様に、Musubuを新規営業先開拓のためのデータベースとしてご利用いただけるようになりました。Musubuは、全国140万件の企業情報・事業所情報を網羅したデータベースで、活動実態のない会社や資産管理会社など、営業先として適切でないものは外すようにしています。移転や社長交代などの情報を迅速にキャッチアップして日々メンテナンスし、可能な限り最新の情報をお届けできるようにしています。

基本的に「営業先探し」に最適化しているのですが、提携先の選定や、近くの専門業者を検索して購入先を探すなど、お客様の活用の方法も多様化してきました。最近では、学生さんが就職活動に利用してくれたケースもありました。やりたい仕事の内容が明確な学生さんにとって、中小企業も網羅しているMusubuは魅力的に映ったようで、私たちにとっても新鮮な驚きでした。

 

創業に至るまで:大学を休学し、ビジネスの現場で経験を積む

大学進学にあたり、京都で一人暮らしを始めました。実は、大学には10日で通うのをやめてしまったんですけれどね。学費から計算すると、授業当たりの単価は5000円。果たしてそれほどの価値はあるのかと。学費を自分で払っていたので、そこに疑問を感じてしまいまして……。休学して、いまで言うところのインターンに近いアルバイトをしたり、長期で海外へ行ったりしていました。

アルバイトの中で印象的だったのが、フルコミッションの営業ですね。受注できなければ交通費だけでマイナスという、いまで言うブラックな職場でした。当時は買ってくれそうな会社をフィルタリングする手段がなかったので、週の前半に渡されたリストに対して1日500件くらい電話をしてアポを取り、木曜・金曜に訪問するというスタイルです。そのうち、相手が「もしもし」と言う声を聞いただけで、アポを取れるかどうかわかるようになってきました。この経験が、いまのサービスに結びついているのかもしれません。当時、Musubuがあって、そのサービスを私しか知らなかったら、すぐにトップの成績を挙げられたはずです(笑)。

 

紆余曲折:データベース型の検索エンジンをB2Bで

 

 

手掛けていたのは、データベース型の検索エンジンです。最初に作ったのは芸能人やスポーツ選手のデータベース。女優さんのメイクについて知りたい人などをターゲットにリリースしました。しかし、マネタイズに苦しむことになります。多くの人が興味を持ってくれる対象であっても、お金を払うとなると別問題です。そこで、B2Bにシフトすることにしたのです。

リリースに1年半をかけて、京都と大阪の40万社を登録してスタートし、自転車や電車で訪問できる範囲で、サービスの説明をして回りました。当時はオンライン営業で売れる時代ではなく、営業のアルバイト時代を思い返しても、単価4万円の求人広告ですら直接会って話さないと受注できませんでした。サービス内容がほかにないものですし、きちんと説明する必要もありましたが、当時は「近くに物理的に存在する営業先を知りたい」というニーズがほとんどで、まずは周囲からという発想は当時としては自然なものでした。いまでは約7割のお客様に、オンラインで契約していただいています。わずか5年ですが、隔世の感がありますね。

 

サービスの現状:コストをかけて正確性を担保

私たちは、高度な検索技術があるわけでも、優れたプラットフォームを提供するわけでもありません。“データの製造業”という立ち位置です。最新かつ正確な情報を作り続けることで、お客様に満足いただく必要があるのです。現在、社員は33人で、アルバイトは130人くらい。そのほか、データ製造は、社外のクラウドワーカーに、1000人規模で外注しています。製造はできるだけ外注して、検品を社内で実施するというイメージです。企業のWebサイトを自動クロールできる部分もあるのですが、最後は人の目で確認することが必要。コストはかかりますが、正確性を担保してお客様が必要とするまさにそのタイミングで最新の情報を提供するために、製造業として避けては通れないプロセスです。

掲載する企業数は、そろそろ上限でしょう。ビジネスの実態を伴う企業や事業所というフィルタがありますから、日本にあるすべての会社を登録するわけではありません。私たちとしてもコストをかけて情報を整理するだけの利益がなければ、データベースに入れておく意味はありませんし、そのさじ加減がちょうどお客様のニーズにマッチしていくレベルを維持していきたいです。ただ、データの幅は広げていて、最近のニュースや、社長や事業所長の人物像なども掲載できれば面白いのではないかと考えています。

コロナの影響で、社員の出社日数は制限しています。しかしながら、まだまだ若い会社で、いまは社内文化を醸成して育てていく時期にあります。在宅勤務をしやすい業務プロセスですが、感染対策をしっかり実施した上で、週に1度か2度は出社してもらい、顔を合わせて仕事をできるようにしました。文化を創るというプロセスは、フルにオンライン化してしまうと難易度が相当に高くなります。集まることの大切さが、よくわかりました。

 

近い将来の展望:データ製造業者として着実な成長を

 

 

お客様から、「訪問営業しようと行ってみたけれど、そこにオフィスがなかった」「社長が交代していた」などとお叱りをいただくこともあります。すべての情報をリアルタイムに更新することは現実的に難しいとはいえ、少しでもそこに近づけられるよう、日々改善活動に取り組んでいます。

いまは、アクセス元IPをたどることで、どの会社の人が、どんなサイトを見ていて、どんなことに関心を持っているかがわかる時代です。そうなると、検討段階でタイミング良く営業をかけられれば、受注確率を高めることができます。そうした仕組みと私たちのサービスを上手に組み合わせることで、営業効率を大幅に高めることができるでしょう。まだ文化を創っている段階ではありますが、近い将来はそのような大きな枠組みの中でお客様をサポートできるデータ製造業でありたいと考えています。

 

創業地、京都:製造業と親和性の高い文化

私は大阪・岸和田の出身で、いわゆる“京都人”ではなく、個人的な愛着や特別な思い入れがあって京都に本社を置いているわけではありません。ただ、京都には大きな魅力がありますし、京都に本社を置くことが合理的であると考えています。最も魅力的なのは、京都という土地に製造業の文化が色濃く根付いていることです。私たちはデジタル企業と見られがちですが、先ほどお話ししたように、ビジネスの本質はデータの製造業で、ものづくり文化と親和性が高いのです。

人材面でも恵まれています。きちんと企業文化を整えて、成長していこうとしていますから、製造業の文化の濃い地域で育った人材を採用しやすいことはほかの地方に比べると大きなアドバンテージになります。大学が多く、アルバイトやインターンとして優秀な学生に手伝ってもらいやすいこともメリットです。

そして、みなさんが応援してくれること。地元の若い企業として気にかけていただいていますし、物心両面でさまざまなご支援もいただいています。売上が全く立たない段階で、銀行から融資をしてもらった経験もありました。これからも、いただいた応援に報いられるように、この京都で成長していきたいと考えています。

 


 

 

【語り手】

Baseconnect株式会社

代表取締役社長 國重 侑輝 氏