近年その重要性が叫ばれている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と、私たちの生活に関わり始めてきた「AI」。それぞれの概要について大まかなイメージは理解できているものの、両者の関係性を把握できている人は少ないのではないでしょうか。

この記事では、デジタルトランスフォーメーションとAIの関係性、抱えている課題や成功事例などを紹介します。

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)とAIの関係性

経済産業省はDXを下記のように定義しています。

「これまでの、文書や手続きの単なる電子化から脱却。IT・デジタルの徹底活用で、手続きを圧倒的に簡単・便利にし国民と行政、双方の生産性を抜本的に向上します。また、データを活用し、よりニーズに最適化した政策を実現。仕事のやり方も、政策のあり方も、変革していきます。」

引用元:「経済産業省のデジタル・トランスフォーメーション(DX)とは

AIは、このDXを実現するためのデジタル技術、すなわち「道具」です。

 

AIは何ができる?

AIは、データに対する「認識」と「予測」を得意としています。画像や音声のような既存の技術ではうまく認識できなかった情報を扱うことができ、過去のデータをもとにした将来の高精度な予測が可能です。

例えば、これまでは人間が手作業で確認しなければならなかったデータを自動で処理することや、店舗売り上げや顧客ニーズを勘に頼らず客観的な数字から予測できます。

AIについては以下の記事でより詳しく解説しています。ぜひあわせてご参照ください。

Salesforce「人工知能をもっと知る

 

AIが担うデジタルトランスフォーメーション(DX)の役割

「道具」としてDXの実現を助けるAI。膨大なデータを取り扱い事業に役立てる存在として期待されています。

DXの必要性の1つには、「爆発的に増加し持て余しつつあるデータの有効活用」があります。従来の技術では扱いきれないほどのデータを処理し、多方面からビジネスを発展させていくのがAIの役割です。



デジタルトランスフォーメーション(DX)にAIを活用する際の課題

 

AIはDXに欠かせないものですが、実際に活用するなかではいまだ課題も残っています。

 

AI人材の不足

最初に挙げられる課題が、AI人材の不足です。経済産業省によるとIT人材の不足は、現状の約17万人から2030年には約79万人に拡大すると算出されています。

参照元:経済産業省「AI人材育成の取組

AI人材は、以下の3種類に分類できます。

 

・AI自体を進化させる人材:AIの基礎的研究に携わる研究者

・AIを具体化させる人材:データサイエンティストやエンジニア

・AIをビジネスに活用する人材:プランナーやコンサルタント

 

上記のうち、多くの企業に必要なのは、具体化とビジネス活用に関する人材でしょう。このような人材の早急な確保が、多くの企業で喫緊の課題です。

 

AI技術の導入障壁

人材だけでなく、事業に関わる人々の意識面にも大きな障壁があります。AIが具体的にどのようなメリットを及ぼすのか多くの社員が正しく理解していなければ、スムーズな導入は叶いません。また、AIはデータ量が足りないと実力を十全に発揮できないため、データ量の確保と予算の割り当てが必要となる場合もあります。

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)にAIを取り入れるには

企業がAIを取り入れDXを進めるために必要なポイントを見ていきましょう。

 

具体的な目標を決める

最も大切なのは「目標の明確化」です。AIを導入しDXを推進することは、既存の社内体制を大きく変革することを意味しています。経営に携わるトップ層から実務部門まで、明確なイメージを共有できていなければ、社内が混乱に陥ってしまいます。

 

データを保証する

これまで人が関わり収集してきたデータに比べて、画像認識等の技術で得られたデータはまだまだ品質が低い傾向にあります。「異常値」や「確信度」のような正確さを評価する指標を作り、数値の低いものは修正あるいは取り除くなど、信頼性を保証する取り組みが大切です。

 

AI人材の教育体制を整える

希少なAI人材を確保するための教育体制も重要です。「企業の目標達成のために必要なAI人材」がどのような人材かを明確化し、それに応じた教育が必要です。近年では、AI人材の育成に特化した教育サービスを展開している企業もあり、自社での対応が難しい場合は、そのようなサービスを活用するのもよいでしょう。

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)にAIを活用した事例

大手企業を中心に、すでにAIを活用したDXに成功した事例も確認されています。代表的なものを紹介します。

 

セブン銀行

コンビニなどで見かける機会の多い「セブン銀行ATM」。2019年9月から導入が開始された第4世代以降の機種では、AIを活用した「ATMの現金需要」と「部品の故障タイミング」の予測がおこなわれています。現金切れや故障によるATMの休止状態が可能な限り発生しないよう、運営を効率化する取り組みです。

 

ファンケル

化粧品・健康食品メーカーとして有名なファンケルは、ハガキ・FAXなどのアナログ手段による注文の受注処理を効率化するためにAIを導入しました。画像認識等によって顧客情報のデータ化が容易となった結果、注文1件にかかる処理時間が15分から3分にまで減少し、月間でおよそ500時間もの処理時間削減に成功しています。あわせて、これまで12名いた対応要員も2~3名ほどに削減できるようになりました。

 

LINE Score

2019年に開始したスコアリングサービス「LINE Score」では、属性に関する質問(家族構成、居住形態、勤務先や年収など)とLINE上での行動からAIがスコアを算出しています。ユーザーはこのスコアをもとに、ローンの申し込みや割引クーポンの獲得を行います。AIによってビッグデータを活用し、正確なスコアリングと作業負担の削減を実現した例です。スコアリングによって貸付ビジネスといった新規事業を立ち上げたことはDXの有効な活用方法でしょう。

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)とAIがもたらす影響の展望

AI技術は今後も発展を続けると考えられます。それにともないDXの推進も加速すると予想されます。企業にとっては、AIの用い方を学ぶことや対応できる人材の育成が急務です。

AIは人間がおこなっている各種作業の効率化や自動化を実現します。受注業務に活用したファンケルの例のように、今後のDXは「非効率であった作業を効率化するプロセス」から推進されるでしょう。

このことは、人口減による労働者不足に対してもプラスに機能すると推測されます。パーソル総合研究所と阿部正浩教授(中央大学経済学部)の研究によれば、2030年、日本では644万人もの人手不足に直面すると推計されています。将来に備えるためにも、AIとDXに対する正しい知識の習得と対策がより求められていくでしょう。



まとめ

ここまで、デジタルトランスフォーメーション(DX)とAIの関係性を解説しました。

DXを実現するうえでAIは欠かせない「道具」であり、今後も導入に向けて動く企業はますます増加すると予想されます。AIの役割やDXの目標などを明確化し、AI人材の確保・育成に取り組むことは、もはや当然の流れといっても過言ではありません。