国内のあらゆる業界でデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が推進されるなか、金融業界は大きく出遅れているようです。古い体質やセキュリティ要件がネックになり、時代に取り残されている印象です。

インターネットバンキングや *金融EDIが当たり前になり、DXの必要性がますます高まっています。そこで本記事では、金融業界のDX推進ポイントや課題を解説します。

*EDIとは、電子データ交換のことで、電子データ形式のビジネス文書をインターネットなどの通信回線を通し交換することを指します。

 

ITと金融業界

まずは金融業界のIT化と、これまでの流れを振り返ってみます。

 

早期のIT導入がDXの妨げに

金融業界のIT導入は他業種より比較的早く、1970年~1980年代には一定の完成度に達していました。しかし、金融業界特有の高度なセキュリティを実現するために堅牢さを追求した結果、柔軟性が低く手間もコストもかかるシステムが完成しました。

1990年代以降は一般消費者にも広くインターネットが普及し始めましたが、金融業界は時代に合わせたシステムを刷新できず、思うようにIT化が進められないまま現在にいたります。

 

外部システム連携は想定されていなかった

従来の金融系システムは、より強固なセキュリティ維持のため、外部アクセスを遮断する方法が取られていました。導入当初、外部システムとのデータ連携はほとんど想定されていなかったのです。現在までに、この体系を抜本的に見直すことができず、古いシステムを使い続けています。これが、金融業界のIT化を妨げる大きな要因です。

 

オープンネットワーク化を目指すフェーズへ

金融EDIやインターネットバンキングなどが一般的になり、さまざまなシステムの連携に対応する「オープンネットワーク化」が求められる時代になりました。古いシステムに縛られ続けるのではなく、新しいITのあり方を見直す時期に来ています。

参考

>>日本銀行 金融機構局金融高度化センター「ITを活用した金融の高度化とDX

 

DX実現のためのポイント

金融業界がDX実現のためにクリアにすべきポイントを解説します。

 

ペーパーレス化を妨げる紙文化

日本特有の紙文化、印鑑文化は、RPAなどの業務自動化ツール推進の妨げになるだけでなく、リモートワークなどの働き方改革を阻害する要因です。保管スペースを圧迫し、印刷コストを増幅させます。セキュリティ重視の金融業界では、ペーパーレスの推進こそセキュリティ向上に直結するのではと思えますが、移行時のデータ消失やシステム構築が足止めの理由となっているようです。

 

クラウドとオープンAPI

DX推進は、ITベンダーが提供するクラウドやオープンAPIを積極的に活用し、スピーディーな環境整備が求められます。クラウド会計や金融EDIの活用、*PFMとインターネットバンキングの連携が有効です。アメリカ金融業界では2013年の段階で、すでに7000社のうち20%以上がPFMを提供しているというデータもあります。

*PFMとは、日本語で個人財務管理のことを指します。複数の口座情報を一元的に表示させることです。

参考

>>NRI「金融機関におけるPFM(Personal Financial Management)の活用

 

DX実現によるメリット

 

次に、金融業界がDX実現で見えてくるプラスの効果を見てみましょう。

 

融資の緩和による新規ビジネスの可能性

従来の融資業務では、企業の与信評価は財務実績が基準とされていました。そのため充分な財務実績を持たないスタートアップ企業の融資は難しく、将来性がある有望な企業でも資金調達が困難なケースは少なくありませんでした。

しかし、クラウドとオープンAPIを活用してECサイトの売上実績や商品の返品率、不良率、購入者の声などのデータを与信評価の基準とすれば、財務実績の乏しい企業に対する融資が可能になります。これまで融資が難しかった企業に資金調達の道が開かれれば、新たなビジネスが生まれる可能性がさらに高まります。

 

「ファストパス」で融資がスムーズに

融資商品の「ファストパス」は、審査内容に行内情報だけでなく他行の口座情報なども取り入れることにより、融資の可否を即日通知できます。融資までの時間が短縮されることで、企業はよりスピード感を持った事業展開が可能になります。

なお、現在の審査は内外の口座情報を主な判断基準としていますが、今後は決済・取引情報や物流の在庫状況、AIの活用なども検討される予定です。

 

DX推進による働き方改革

DXは顧客サービスだけでなく働く側にも大きなメリットをもたらします。最後にDX推進がもたらす「働き方」改革についてご紹介します。

 

働き方改革=優秀な人材の確保

企業がワークスタイルを変革する目的は、

・働きやすい環境の整備による優秀な人材の確保と流出防止

・業務効率化による長時間労働の是正と生産性向上

・働きがいの提供

などでしょう。DX推進は、働き方改革に大きく貢献し、社員のモチベーション向上が期待できます

 

実現への課題

働き方改革を実現するためには、社内の人事制度の見直しや老朽化したIT環境の整備、組織内部の意識改革などが必要不可欠です。また、金融業務は対面が前提であるという既成概念を払拭する必要があります。

DX化することによるセキュリティの強化やプライバシー配慮も求められます。とりわけ個人データの利活用に関しては世界的な規制強化が進んでおり、DXの実現と並行して取り組むべき課題です。


まとめ

金融データを活用して新たなサービスをスピーディーに提供するためには、これまでのITのあり方を維持し続けるのではなく、古いITを抜本的に見直してオープンネットワーク化を図ることが欠かせません。

多様な働き方が広がる現代でワークスタイルの変革を実現するためにも、デジタル化のハードルとなっている紙、印鑑文化の見直しやクラウド環境の整備を積極的に推進し、古い体制からいち早い脱却が現在の金融業界には求められています。