中小企業庁が発表するデータによると、2020年1月から9月における企業倒産の理由の約75%は「販売不振」であるとされています。

販売不振の理由として考えられることの一つは、営業力の不足です。消費者のニーズが多様化する中、個々の消費者に対応できる営業力の強化は、企業にとって今まで以上に重要となります。

そこでここでは、営業力の意味、営業力の5つの要素、営業力を高める方法、これからの営業に必要な要素について解説します。

 

営業力とは何を意味するのか

 

2015年にオックスフォード大学などによって発表された調査結果では、今後10年から20年の間に現在の職業の約半数がAI(人工知能)やロボット技術に取って代わられる可能性があるとされています。現実に、世間では無人レジ、車の自動運転、掃除や受付のロボットなどが増加しています。また、AIやロボットを導入し人員を削減する方針を打ち出している企業もあります。今後、いくつかの職業が人間の手によるものではなくなることは確実でしょう。

一方、いくらテクノロジーが進化しても、AIやロボットには代替できない仕事があります。それは、クリエイティブな能力、高度なコミュニケーション対応、データだけでは解析の困難な感覚的・直観的な判断力、抽象的な知識や理解力などが必要になる職業・仕事です。

では、営業職はなくなる職業でしょうか。

営業力の本質は、豊富な知識でも言葉巧みに話せるスキルでもありません。どんなに売り込みたい製品やサービスが他社に比べて優れていても、またそれを完璧な知識でどんなにうまくプレゼンテーションできたとしても、消費者が欲しがらなければ売れることはありません。

営業力とは、その「欲しい」という思いを消費者から引き出す力のことです。この力においては、どんな優秀なAIやロボットでも人を上回ることはできないでしょう。

 

営業力の要素を5つ紹介

営業力は大きく分けて5つの要素で構成されるといえます。それぞれについて紹介します。

 

豊かな人間性

人間性は、営業力全体の土台となる資質です。「好感を持たれる」「約束を守り信頼関係を構築できる」「仕事の進捗や結果を把握し報告ができる」など多岐にわたります。以下の4つの要素がいくら優れていても、人間性に欠けていては本当の営業力を磨くことはできません。

 

必要なスキル

営業に必要なスキルには、企画力、提案力、交渉力、コミュニケーション力、課題解決力などが挙げられます。また、顧客に予想外の感動を与えられるスキル、心理学を応用できるスキルなども有効です。

 

豊富な知識量

営業職としての基本となる要素です。自社の製品に関する知識はもちろん、消費者(顧客)が抱えていると思われる悩みに関する知識、心理学の知識など、これも多岐にわたります。

 

実際に行動する力

人間性、スキル、知識が揃っていても、相手と関わらなければ営業の仕事は始まりません。そのため、目標達成に強い意欲を持ち、自分の仕事に熱意を持って積極的に行動することが求められます。

 

次に生かす検証

営業は成功よりも失敗が多いのが一般的ですが、なぜ失敗したかを検証し、次の機会に生かしていけば、成功の確率をより高めることができるかもしれません。失敗を恐れて行動を起こさない、また失敗から何も学ぼうとしないのでは、営業職としての成長は見込めません。

人の心理はそれぞれ違うため、成功した営業方法が別の人に対しても成功するとは限りません。そのため、多くの失敗経験を積み、検証し、繰り返さないようにすることが、営業力は上げることにつながるのです。

 

会社として営業力を上げるには

 

失敗とその検証が営業力を上げることにつながると前段で紹介しましたが、営業力を上げるためには、それ以外にも、以下のような多くのスキルや知識を身につけることで、営業力はより磨かれます。

 

・情報収集力

・仮説構築力

・論理的思考力

・調整力

・データ/課題の分析力

・諦めない気持ち・継続力

・臨機応変な対応力

・質問力

・ヒアリング力

・クロージング能力 など

 

このように、営業担当社員は非常に多くのことを吸収し、学ぶ必要があります。また会社には、これらのスキルを伸ばし、関連する知識が容易に得られるよう、社員を支援することが求められます。

会社としてこれらすべてを指導・教育することは現実問題としては難しいものですが、以下の3つを制度として確立することで、効率的な支援や社員の自発的な学習が実現できます。

 

社内での情報共有を徹底する

営業に役立つ情報を蓄積・共有し、すべての営業社員が、必要な時に、いつでも、容易に利用できるように徹底することが重要です。共有化が難しいベテラン営業社員の暗黙知まで徹底して共有化できるようにしましょう。

 

明確な評価基準を設ける

営業社員の仕事に対するモチベーションを高めるには、評価基準や営業成果に対するインセンティブを明確に設けることが必要です。また、一定の評価に値する社員を表彰することも効果的でしょう。営業社員のモチベーションを高められれば、社員は自発的に様々なことを学び、吸収するようになります。

 

営業の指導方法を確立する

営業職の指導において、多くの企業では最低限の研修・教育を終えてすぐにOJTによる指導に移行します。OJTの効果は無視できませんが、OJTでは指導内容が偏ったり不十分であったりするため、均一な指導ができない可能性が高くなります。会社全体として営業力を強化するためには、指導方法・内容を常に点検し、一貫した指導方法を確立しなければなりません。

 

これからの営業に必要な要素とは

昨今、ビジネスをあらゆる側面からデジタルに変革する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進が叫ばれています。汗を流し足を使う仕事と考えられていた営業職においても、DXによって従来の営業の業務・組織を根本的に見直し、変革して新しいビジネスの方法を創出することが求められています。

これからの営業は、ITリテラシーを磨き、CRM、SFA、MA、リモート営業システムなどのITツールを活用して個々の営業社員や営業組織としての営業力を高めていかなければ、他社に後れをとることになってしまうでしょう。

 

まとめ

営業力は個々の社員の資質に依存する面も大きいと考えられてきましたが、近年はITツールの活用によって営業力の平準化も実現できるようになってきました。そうしたツールの活用は今後ますます欠かせないものとなることは間違いありませんが、その一方、複合的な判断のもとで消費者に的確なセールスを行う力は、ITの技術だけでは決して満たしきれないものでもあります。

これからの営業職には、人としての営業力と、ITリテラシー。この両方を磨くことが求められるのです。

 

参考文献:中小企業庁「倒産の状況」