多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を志向するなかで、カスタマーサクセス(クライアントの成功)の実現には、どのような取り組みが必要なのでしょうか。見込み顧客を見つけ出し、優良顧客へと導く「最短ルート」を具体的に示し、カスタマーサクセスを最大化する、その取り組みにはマーケティングソリューションの活用が必須です。
そこで、マーケティングソリューションの導入前に踏まえておきたいポイントについて、「組織的課題」「ビジネスKPIの考え方と設定方法」「DX時代に成果を出すための具体的なソリューションの活用法」「有効なデータ収集と処理」をテーマに、全4回シリーズでお届けします。
第1回は、カスタマーサクセス統括本部 デジタルマーケティング部 MCアドバイザリー石井 陽子が、デジタルマーケティングの成否を分ける組織的課題の解決に向けた取り組みについて解説します。
多くの企業がデジタルマーケティングに注力しているなか、同じような情報が同じようなタイミングで発信され、多くの顧客が「情報過多」に悩まされています。顧客に「自分にとって本当に必要な情報だ」と思ってもらうOne to Oneマーケティングの実践には、マーケティングソリューションの活用が不可欠です。
ところが、マーケティングソリューションを導入してみたものの、思うように使いこなせず効果が出ない、そんなお悩みを抱える企業は多いのではないでしょうか。
マーケティングソリューションの導入は、あくまでもデジタルマーケティングを成功に導く数多くの選択肢の中の一つ、手段の一つにすぎません。マーケティングソリューションを導入しただけでデジタルマーケティングが成功するものではないのです。
デジタルマーケティングがうまくいかない理由には、いくつかの要因が考えられますが、例えば、以下のようなケースでは、その裏側に共通する課題=「組織的な課題」が潜んでいることがよくあります。
経営者によるトップダウンで、デジタルマーケティングのための新組織を作るケースは少なくはありません。そんなとき、「組織を作ること」が目的になってしまってはいませんか? 組織を作る本来の目的は、「売上向上に貢献する」、あるいは「お客様のLTV(生涯顧客価値)の向上に取り組む」など、具体的な目標の実現に取り組むことです。組織を立ち上げるからには、「明確な『ゴール』に向かってアクションを起こすチーム」となることが大切です。
マーケティングソリューションの導入は一般的に情報システム部門が中心になって進められますが、「実際にマーケティングソリューションを使うのは営業部門」ということはよくあります。つまり、導入する部門と利用する部門が異なっているのです。
こうした場合、情報システム部門と営業部門との間で、いわゆる「組織的な壁」があると、営業部門の業務内容を情報システム部門が正しく理解せずにソリューションを選んだ結果、営業部門の業務とミスマッチであるソリューションの導入だけが先行し、結局使われないという問題が起こりやすくなります。
さらに、デジタルマーケティングの目標を達成するためには営業部門だけでなく、Eコマース部門やカスタマーサービス部門など関連する部門の協力が必要なケースもあります。組織横断的にマーケティングソリューションを活用する場合には、関連する部門を含めてどのようなマーケティングソリューションが適しているのかを検討することが大切です。
社内に情報システム部門がない企業の場合、外部のシステム会社にマーケティングソリューションの導入を任せることもあるでしょう。どのようなマーケティングソリューションが必要なのかといった、意思決定から実装に至るまでの全てを外部のシステム開発会社に任せてしまうと、営業部門が理解しないままにマーケティングソリューションが導入されてしまうといった、組織的な問題が生じます。
マーケティングソリューションの導入プロジェクトは、いわば取捨選択と社内調整の連続です。実際に活用する営業部門の業務をふまえて、「どのようなマーケティングソリューションであれば目的に合致するのか」「導入することで営業部門にどのような効果が生じるか」といったことを明確にして、必要な要素を取捨選択し、社内調整し、そして意思決定をしなくてはなりません。
ときには、企業としてのビジネスの方向性、売上げや利益に影響する意志決定も必要です。つまり、それだけの意志決定ができるリーダーを置いて取り組まなければならないのです。そうしたリーダーの存在が、社内にマーケティングソリューションの導入意義を理解させ、浸透させ、「自分たちの業務に役立つ」という認識を育てることにつながります。
ここまで示した失敗例に共通しているのは、他部門に対する「巻き込み力」の欠如です。目標達成に責任を持つ部門を巻き込まなくては、そもそもゴールが明確になりませんし、必要な機能について熟考することもできません。
それでは、どのようにして巻き込んでいけばいいのでしょうか。Salesforceがソリューション導入を進める上で重要と考えているポイントについてお話します。
山登りをイメージしてみてください。まずは、「山頂に達する」というようにゴールを明確にします。次に山頂に至る複数のルートから、自分たちの経験や体力などに合わせて最適なルートを決めます。そして、決めたルートを攻略するために必要な装備や道具などを用意していきます。
同様に、デジタルマーケティングにおいても最初に取り組むべきは、ゴールの決定です。そのゴールに到達するのに必要となる責任者、大切な役割を果たす部門を決めて巻き込んでいきます。責任者を決めた上でゴールイメージを作り上げて明確化し、共有することが重要です。
そして、責任者と部門とを巻き込んで、「いつまでに○○を達成する」という具体的な数値目標を設定します。そこではじめて「その数字を達成するためには何をしなくてはいけないか」という具体的な手段の議論を始められるようになります。
ゴールを明確にし、それに向けた最短ルートを設定する
このようにゴールを掲げ、それに責任を持つ部門を巻き込み、手段を検討していくことで、デジタルマーケティングを推進できます。ソリューションはあくまでそれを実現するためのツールにすぎないので、導入しただけでは成果は生まれません。マーケティングソリューションにはさまざまなものが存在するので、「現在の業務と、ソリューションとの関連性を明確に」した上で、目標達成に必要なソリューションを選定していくことが成果につながります。
次に、関連する部門をどう巻き込んでいけばいいのか、具体的に説明します。Salesforceでは、ワークショップなどを通して、責任者や関連する部門を巻き込み、プロセスをうまく回していくための支援をしています。
例えば、ワークショップを通じて、「見込み顧客を増やしたい」というゴールを設定した場合、次に取り組むのは「どういう顧客が条件に合った良い顧客といえるのか」を分析し、「見える化」することです。
この段階で、「ターゲットとなる見込み客にアプローチする部門はどこか」を考えて巻き込んでいきますが、その際に大切なことは「見込み顧客にアプローチすることで、どういったメリットが期待できるのか」を定量的に示すことです。根拠を明確に示した上で、合意形成をしていく必要があります。
また、他部門を巻き込む際に留意したい点が、日本の企業の問題点としてよく指摘される「縦割りの組織」という問題です。マーケティングソリューションは、組織を横断する横串にもなります。マーケティングがカバーするエリアは、見込み客を育てるメールマーケティング、ネットで商品を販売するEコマース、購入後の顧客を支援するカスタマーサポートなど広く、複数の部門にまたがることも少なくありません。ここでも巻き込まれる側の組織の立場も考慮した上で、具体的なメリットなどを定量的に示しながら合意形成を図り、巻き込んでいくことが大切になります。
また、日本の企業のなかには、扱う商材が多岐にわたり、複数の営業部門が存在する会社もあります。そのほかにも、代理店を通して販売する部門とEC販売する部門を持ち、社内で相反する立場が存在するケースもあります。商材が違えば、デジタルマーケティングの方法も変えざるをえません。カスタマージャーニーを作る際も、ターゲット顧客や部門が違う場合は、無理に統一化を狙わず、異なるカスタマージャーニーを作り対応していく必要があります。
こうしたケースで他部門を巻き込んでいくには、どうすれば良いのでしょうか。有効な手段のひとつが「成功事例」を示すことです。デジタルマーケティングによる売上向上など、成果を上げやすい部門から手を付けて成功事例を作ってから横展開していくのは、他の部門を巻き込む方法として効果的です。
Salesforceでは、ソリューションの提供だけでなく、ワークショップなど、さまざまな支援メニューを用意しており、このようなプロセスがうまく回るよう支援しています。デジタルマーケティング推進に不安をお持ちであれば、ぜひコンサルティングを含めてご相談ください。
【解説者紹介】
株式会社セールスフォース・ドットコム
カスタマーサクセス統括本部
デジタルマーケティング部
MCアドバイザリー
石井 陽子
次回は、「ビジネスKPIの考え方と設定方法」について解説します。
Salesforceプロフェッショナルサービスに聞く!
マーケティングソリューション導入前に踏まえておきたいポイント
第1回:マーケティングソリューション導入の成否を分ける「組織的課題」
第2回:成果に結びつくビジネスKPIの考え方と正しい設定方法
第3回:DX時代に成功するマーケティング施策の見いだし方と活用支援
第4回:デジタルマーケティングを成功に導くデータの「収集と整理」の仕方