CIOが顧客起点の金融サービス変革を推進するには

第4次産業革命の到来に伴い、あらゆる業界の企業が顧客中心主義の採用を迫られています。エヌエヌ生命保険株式会社のCTOを務めるRob Beattie氏に、金融業界のCIOおよびITリーダーがデジタルトランスフォーメーションを効果的に推進し、カスタマーエクスペリエンスを改善する方法について伺いました。

 

- 生命保険業界の特徴と進化について教えてください

生命保険業界は、プロセスとカスタマーエクスペリエンスの本格的なデジタル化に関して他の業界よりも総じて遅れています。規制水準が高いため、ペースが遅い場合が多く、切迫感もあまりありません。多くの点で市場での遅れが目立つにもかかわらず、これらの要因が重なることで既存の保険会社のイノベーションとトランスフォーメーションが妨げられています。その結果、フィンテックおよびインシュアテック企業が顧客中心主義を強化するための重要な推進役となっています。会社を客観的に見ることができれば、状況の「逆側、つまり顧客側」から今起こっている転換の理解につなげられます。 
 

- 御社では、顧客中心主義がどのような役割を果たしていますか?

当社が身を置くのはニッチ市場で、生命保険を中小企業に販売しています。販売は第三者の代理店を通じて行っています。顧客中心主義を強化するにあたり、各顧客の個別のニーズに適合する商品・サービスの適切な組み合わせを特定できるようにすることを目標に定めました。今では十分なインサイトがあるので、商品やサービスの追加や変更を提案することでより大きな価値を顧客に提供できています。顧客中心主義の企業にとってもう1つ重要なのが、お客様からのフィードバックと、フィードバックにもとづく行動です。当社では、「フィードバックループ」の確立を商品の販売以上に重視してきました。自分たちの仕事ぶりを測定し、フィードバックを獲得し、社内で共有することによって将来の改善や新商品などにつなげています。 
 

- トランスフォーメーションへの取り組みをどのように開始しましたか?また、なぜ重視したのですか?

3年ほど前、お客様により大きな価値を提供することの必要性を認識しました。そこで、過去に同様の変革プログラムを担当したリーダー達を先導役としてデジタルトランスフォーメーションにさまざまな面から取り組み、目標達成を見据えて新しい働き方を取り入れました。人、プロセス、プラットフォームそして企業文化という4つの主要分野に重点を置くことで、直面していた課題にぴったりと合った計画を練ることができました。また、すべての面に反復的なアプローチを採用しながら、アジャイルで積極的な思考に不可欠な「挑戦、学習、調整」という重要な心構えを実践しました。
 

- トランスフォーメーションによる変化を効果的にコントロールできた秘訣は何ですか?

当社にとって、新しい企業文化と心構えを取り入れることがトランスフォーメーションの推進には不可欠でした。そして、これが一番の課題になるだろうと当初から覚悟していました。現状にとどまるよりも変革に踏み切ったほうが業績を改善できるとほぼ全員が理解していたにもかかわらず、私たちは懸念を払拭できなかったのです。当時はウォーターフォール型の大規模なプロジェクトで期待した成果が得られなかったり、もっと正確に言えば、開発ベンダーの利用料が高いことに加えて最新のクラウドおよびモバイルベースのソリューションがないことが原因で多くのプロジェクトが失敗に終わっていました。

しかも、新たな働き方は実証されておらず、シリコンバレー色を強く感じるもので、日本の生命保険会社にはそぐわないように思いました。新しいアプローチが定着するか自信がなかったため、トランスフォーメーションを遅らせてきたであろうその他の原因をひねり出したりもしました。幸いな事に、こうした懸念を克服し、新しい働き方にメリットがあることを根拠と信頼性を持って従業員に示し、受け入れ準備を整えることができました。私たちはサンフランシスコを何度か訪問したなかで、Salesforceの支援を得て、経営陣と従業員に多様性のある企業文化やワークスタイルに触れさせることもできました。企業がテクノロジーを駆使してシームレスなカスタマーエクスペリエンスを提供している様子を間近で見るのは、驚きと発見に満ちていました。

最後に、トランスフォーメーションプログラムの支援と支持の確保を優先しました。他社のトランスフォーメーションプログラムを見渡したところ、成功の秘訣の1つは、プログラム推進者のオーナーシップと責任が明確であることがわかりました。他にも関与する人物は確かにいますが、説明責任が重要だと気づいたのです。トランスフォーメーションプログラムを総合的に支援する私には、経営陣および役員会の考えを合致させる任務がありました。幸いにも、当社のCEOには確固たるリーダーシップがあり、Salesforceをはじめとするパートナーが高い当事者意識を持ってくれていました。このことが、目標を確実に達成する上で非常に重要な役割を果たしました。
 

- トランスフォーメーションの中で、Salesforceはどのような働きをしましたか?

Salesforceは、当社のさまざまな部門やレベルにいる社員にインスピレーションを与えてくれる重要なパートナーであり、成功に欠かせない存在です。Salesforceのプラットフォームがトランスフォーメーションの重要な要素でしたが、Salesforceから得ているものはそれをはるかに上回ります。当社はSalesforceプラットフォームを最大限に活用し、コストを削減しながら新機能の開発とリリースを迅速化しました。2010年以来、Salesforceを主に営業に使用してきましたが、カスタマーサービスやマーケティングにも役立つ場面が多数あるとわかりました。そこで、完全なCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)プラットフォームを構築し、開発チームが複数の環境を自動化して管理し、リリースにあたって各環境への依存性を生み出すことなく適切なコントロールとセキュリティを確保できるようにしました。
 

- トランスフォーメーションを進めるにあたり、Salesforceとどのように連携しましたか?

トランスフォーメーションに際してSalesforce Center of Excellence(CoE)の立ち上げおよび拡張方法などを学ぶため、Salesforceに対し、専門家によるガイダンスとベストプラクティスの提供を依頼しました。Salesforce のカスタマーサクセスとプロフェッショナルサービスチームを通じて、大変優秀なSalesforceアーキテクトによるサポートの下で、既存の実装環境で抱えていたロードマップを完全なCI/CD環境に適用したものに書き換えました。これが成功したのは、まさに両社の深いパートナーシップの賜物でした。サポートが非常に優れていたので、当社ではSalesforceアーキテクトを新しいSalesforce CoEチームの一員であると考えていたほどです。私たちは一丸となり、従業員に必要な機能を組み込んだ持続可能なソリューションを作り上げました。現在はこのモデルを他のプラットフォームの実装にも応用しており、全体的な成果の向上を見込んでいます。

Salesforce Center of Excellenceは今後もプラットフォームの機能を拡張し、リリースを完全に自動化し、「開発チーム」にとってのアドバイザリとして機能し続けます。Salesforce CoEチームがベストプラクティスを共有し、組織全体の一貫性を確保しているという点で安心しています。彼らは、従業員がSalesforceをすばやく簡単に、存分に活用できるように支援する取り組みである「シチズンデベロッパープログラム」にも協力しています。イネーブルメントとトレーニングによって、手動プロセスを自動化するアプリケーションとワークフローを効率的に構築し、情報とデータにこれまでよりも簡単にアクセスできるようになりました。これによってバックログを管理しやすくなったほか、生産性と定着率も大幅に向上しています。

 



- 今回のトランスフォーメーションによって、展開するビジネスも含め会社全体としてどのような成果が得られましたか?

トランスフォーメーションプログラムを経て、顧客に接する根幹となるプロセスをすべてSalesforceで実行するようになりました。複数の機能とプロセスが単一のシステムにまとめられているので、エンドユーザの生産性と効率が向上しています。また、アプリケーションの開発コストを軽減し、すばやい配信が可能になりました。たとえば、昨年は規制の大幅な改変が行われたため、当社のプロセスも更新する必要がありました。Salesforceのおかげで、かなりスムーズかつ効率的に、すばやく更新することができました。
 

- トランスフォーメーションプログラムを率いる他のCIOに向けて、アドバイスはありますか?

自分の企業をよく知り、必ずその観点からトランスフォーメーションを推進することです。さまざまな理由を踏まえ、トランスフォーメーションの一環としてテクノロジーを変革するという判断にせっかく至ったのですから、それは確実に実行する必要があります。ただし、単に実行するだけでは不十分です。テクノロジーによってビジネス戦略を実現する方法に重点を置き、関係者が創造性、知識、顧客に関するインサイトを組み合わせて新しいソリューションを現場・市場に投入しやすい環境を作ることが重要です。私の場合、CTOである自分の役目はテクノロジーに伴うすべての課題を引き受け、それらをできる限り目立たないようにすることにあると考えています。

 

※ 本ブログはCIO.comに2020年3月に掲載された英文記事の抄訳版です

 

 

関連情報 :
Salesforce事例サイト: エヌエヌ生命保険株式会社

https://www.salesforce.com/jp/customer-success-stories/nnlife/