今や、どの業界も人手不足に悩まされていますが、外食産業は特に深刻な業界の一つです。業績を伸ばしたくても、サービス提供の担い手が確保できないという現場も多いのではないでしょうか。

外食産業の人手不足の背景の一つに、労働環境に対する不安・不満があります。つまり「働きたいと思える環境」を整えなければ、事業の存続が危ういとさえ言える状況なのです。そんな中、外食産業では人材確保のためにITを活用して“働き方改革”を実現しようと、新たな取り組みが広がりつつあります。

 

進む、外食産業のデジタルトランスフォーメーション

厚生労働省がまとめた「新規学卒就職者の離職状況」によると、宿泊業、飲食サービス業の新卒入社3年後の離職率は約50%。全産業平均約30%を大きく上回り、正社員だけでなくパート・アルバイト形態で働く人にとっても休日・労働時間・給与などを理由に敬遠される傾向にあります。人手不足による影響を抑えるためには現場の生産性を高くすることが必要ですが、それも簡単ではありません。実際に日本の外食産業は、営業時間が長い・手間と時間をかけることを重視する・店舗で提供する品種品目が多いなどの理由で、他国に比べて生産性が低いという調査結果が出ています。

国もこの事態を憂慮しており、農林水産省が「外食・中食事業者に対する生産性向上支援」の取り組みをスタート。付加価値向上と新規市場開拓によって「売上総利益(粗利)を高めること」と、IT活用により作業の無駄・無理を減らし「効率性を向上すること」の両輪で進めることを基本として支援プログラムの提供などを行っています。

 

◎農林水産省が示す「生産性向上のための3つの視点」

(出所:農林水産省HP「外食・中食事業者に対する生産性向上支援の取組-生産性向上のための3つの視点」をもとに制作)

 

農林水産省が「生産性向上のための3つの視点」として挙げている「業務の効率化・合理化の推進(視点②)」は、一人ひとりの働く環境と密接に関わっており、「従業員のスキルを高める、満足度を高める(視点③)」に深く関係しています。このことを踏まえ私たちが注目したいのは、業務の効率化は従業員の自己成長を加速させることにつながる、という点です。従業員がスキルアップすると結果的に「商品力、サービス力を向上する。新しい市場を開拓する(視点①)」ことが可能になり、生産性向上へと結びつくと考えられます。ITの力を生かして業務の効率化・合理化を図る「働き方改革」は、外食産業の発展のためのはじめの一歩なのです。

2019年9月25日には外食の未来を考えるカンファレンス「FOODIT TOKYO 2019」が開催され、外食産業のリーダーが飲食店の未来を議論。外食産業でITの導入・活用が本格化し始めていることがトピックスとして上がるなど、業界内でのIT活用の加速が話題になりました。現に電子マネーの導入やSNSによる集客はもちろん、WEB予約システム、タブレットやスマホを活用したレジシステム、UberEATSなどを目にする機会も数年前に比べて格段に増えています。

ではIT活用による「働き方改革」によって、具体的にどのような課題を解決できるのでしょうか。

 

ポイントは、従業員間の「情報共有」にあり。

在庫状況、受発注状況、売上、従業員のシフトなど、これまでの外食産業では情報管理を「紙」で行うのが一般的でした。しかしアナログで情報共有すると手間や時間がかかる上に精度も高くなく、生産性低下の原因に。従業員の「働き方」に与える悪影響として3つのポイントが挙げられます。

1つ目は、煩雑な業務による「従業員のリソース圧迫」です。アナログで情報の報告・共有を行う場合、必要な書類を用意→フォーマットに合わせて情報を記入→ファクス・郵便あるいはスキャンしてからメール送信→受け取って集計・分析→資料を整理・保管といった、報告する側・される側で多くの手間と時間を必要とします。情報の種類によって異なるルールを覚える必要もあり、本業のサービス品質向上に使うべき従業員のリソースを圧迫しかねません。

2つ目は、煩雑な作業のため情報共有が後回しになる、情報管理端末は限られた人・場所でしか使えない、などによる「意思決定の遅れ」。現場での困りごとや顧客のニーズをタイムリーに把握し経営に反映できなければ、厳しさを増す外食産業で生き抜くことは難しくなります。

3つ目は社内のコミュニケーション不足による「従業員の士気低下」。情報共有不足を原因とするミスが頻発したり、ノウハウの継承ができない状態だと、従業員は自己成長を実感することができずモチベーションも低下。離職率アップの原因になります。新たに人材を確保したとしても定着率が低いとサービス品質の低下やコストの増大につながりかねません。

しかし、IT活用により、これらの課題を解決することができます。タブレットやスマホで使えるクラウドサービスなら「いつでも・誰でも・どこからでも」、必要な情報を簡単に登録できます。情報が一元化されることで本社やマネジメント層などは全店舗の状況をタイムリーに把握でき、スピーディな分析・意思決定も可能に。また従業員同士が情報共有を密に行えるため、スケジュール・シフト管理、各自のノウハウの水平展開、会社のビジョンの共有なども日常業務の一環としてスムーズに行えます。コミュニケーションの活性化により優秀な人材の定着率アップ、さらにはサービス品質向上も可能になります。

 

サービス品質向上は、集客の「力」になる。

さらに、生産性向上のためには「集客」もあわせて考える必要があります。働き方改革によってサービス品質を向上させ、その価値を見込み客に効果的に発信、他店にない価値を感じて来店してもらうことで初めて生産性の向上につながるからです。

情報発信のデバイスやプラットフォームは多様化しています。従来のチラシ・広告・看板などリアルの情報発信だけでなく、インスタグラムなどのSNSをはじめ、グルメサイト、ニュース・クーポンアプリなどネット上での情報戦略が集客に大きな影響力を持つようになりました。そのためどういったターゲット層がどのように情報収集をしているのか、マーケティングの視点で複合的に考えなければなりません。また、全ターゲット層に対して単一のメッセージを発信すれば良いというわけではなく、パーソナライズされた情報発信で見込み客の心を掴む強いメッセージを送る必要があります。

ITは、このようなマーケティングも力強くサポートしてくれます。ターゲットごとに適切なデバイス・プラットフォーム上で、適切なメッセージを、適切なタイミングで発信することができます。モバイルアプリと連携してクーポンを発行したり、位置情報などを活用してタイムリーなメッセージを送ったりと、人の手では難しい「1対1」での顧客とのコミュニケーションをも可能にするのです。

勘・経験・運で集客するのではなく、データに基づいて“的確な付加価値発信”を行うことが求められる現代、ITを活用したマーケティングが経営戦略に欠かせない要素になっていることは明らかです。

 

IT活用でつながる。従業員も、顧客も。

企業規模や業種を問わず幅広く利用できるSalesforceは、世界中で多くの飲食店やホテルでも活用されています。Salesforceを活用することで、あらゆる情報を一元管理できるため、従業員が各自のスマートフォンで必要な情報を確認したり、社員間の引き継ぎ・シフト管理・各種情報共有も大幅に効率化できます。従業員同士のコミュニケーションが円滑になることで、従業員のスキルの底上げ・現場のモチベーションアップや業績拡大にもつながります。また顧客理解を深め、一人ひとりにパーソナライズした最適な体験やメッセージを届けることで、集客などの課題解決にも役立ちます。業務の効率化と費用対効果の高い集客活動の両輪で、外食産業の生産性向上を目指しているのです。

今切実に必要とされている外食産業の「働き方改革」。ITを活用して生産性を高めることが、これからの外食産業の盛衰の鍵を握っているのです。Salesforceが提供するソリューションについて、詳しくはこちらご覧ください。

 

参考:

  • 「新規学卒就職者の離職状況」(厚生労働省 2019年10月21日 掲載)