ブロックチェーンとは、私たちの日々の生活にとってなくてはならないもの、例えば情報の共有、物の売買、情報の信頼性の確認など、これまでの方法を根本から変化させ、私たちが日々食べる物から、私たちの存在そのものまでを変えることが期待されている技術です。ブロックチェーンはさまざまな領域にわたって安全性、効率性、透明性を高め、より簡単にします。その効果は革命的で、あらゆるビジネス、政府、および個人が利益を享受できます。
このようなことが期待されているため、ガートナー社の予測によると、ブロックチェーンは2025年までに1,760億ドル、2030年までに3.1兆ドルのビジネス付加価値を生み出すと言われています。しかし、実際のところ、ブロックチェーンは、どのようにそのようなことをやってのけるのでしょうか? そもそも、ブロックチェーン技術とはどのようなもので、私たちはどのように実際のブロックチェーンと、誇張された現実を見分ければよいのでしょうか?
多くの人にとって、ブロックチェーンは複雑なものであり、決して把握しやすい概念ではありません。今回のブログ記事は、普段のセールスフォース・ドットコムブログの記事より長くなっていますが、それはブロックチェーンを説明する上で多くのトピックに触れなければならないからです。今回の記事では、以下のような疑問に答えていきます。
簡単に言ってしまえば、ブロックチェーン技術はコンピューターのネットワークによって分散・検証することで、データをより安全に保存・追跡する新しいアーキテクチャです。
ブロックチェーンの一般的な特徴は以下のとおりです。また、ブロックチェーンや分散型台帳を、さまざまな分散型データストア間の一種の結合組織として使うことで、非常に面白いことができます。
ブロックチェーンの一般的な特徴は、大きく分けて以下の5つが挙げられます。
ブロックチェーンでは、資金の移動や財産の所有権移転など、交換を含むさまざまなタイプの取引を記録・暗号化することが可能です。
取引のリストは、1カ所の中央サーバーに格納されるのではなく、ほぼリアルタイムで多数のコンピューターに複製されます。
台帳には、更新と維持の作業を共同で行うパートナーのネットワークからのみアクセスができます。
中央で管理や統制をする機関は存在せず、第三者の仲裁者(弁護士、銀行など)も関与していません。プライベート型またはコンソーシアム型のブロックチェーンネットワークでは、管理を行う組織が存在します。
暗号化とデジタル署名で関与者の身元が検証されます。取引の認証にもこれらが使用されます。
ブロックチェーンは、パブリック型(パブリックチェーン)とプライベート型(プライベートチェーン)に大別されており、それぞれ異なる特性を有しています。
名前のとおり、パブリックネットワークはすべての人に開かれており、ここでは何百万人もの人々がいつでも参加することができるようになっています。こうした「パブリックな台帳」は身元情報を必要とせず、ほとんどのユーザーは仮名を使って取引しています。
ビットコイン(Bitcoin)は最初のパブリック型ブロックチェーンネットワークで、今でも最大規模のものの1つです。その他、スマートコントラクトを含むトランザクションを行えるプラットフォームである、イーサリアム(Ethereum)などが存在しています。
中央集権的な組織によって管理されるブロックチェーンを、プライベート型と呼びます。既存のユーザーが非ユーザーを招待し、トランザクションやインタラクションを行います。こうしたネットワークでは、台帳上のトランザクションは一般には見えず、ネットワークの存在自体が隠されていることもあります。
ブロックチェーンの種類はパブリック型とプライベート型に大別できるほか、パーミッションレス型とパーミッション型にも分類することが可能です。
パーミッションレス型は、ネットワークの参加にパーミッション(許可)を必要としないパブリック型のようなブロックチェーンを指します。
一方、ネットワークの参加に許可を要するプライベート型のようなブロックチェーンを、パーミッション型と呼びます。
パブリック/プライベートどちらのネットワークであっても、台帳上の変更はすべてコンセンサスによって行われます。つまり、台帳上の記録変更はネットワーク上の大多数が賛成しない限り行われません。
通常、ネットワークの参加者は、その変更が実際に何を意味するかの定義について、事前に合意します。例えば、ビットコインの場合、参加者は「有効な」トランザクションまたはブロックを行うにあたり、細かいルールに従わなければなりません。
ほとんどのブロックチェーンネットワークでは、悪意のある参加者がレコードを改ざんするのを非常に困難にするために、個別のメカニズムが用意されています。
例として、ブロックチェーンデータベースを使用すると、銀行振込みがどのように行われるのか見てみましょう。サイモンがスーにお金を振り込むとき、ブロックチェーンでは銀行などの1つの機関だけでなく、ネットワークの参加者すべてがこの振込み(またはトランザクション)が実際に行われたことを検証する必要があります。
ネットワーク上ですべてのトランザクションが見え、参加者すべてがデータの出どころを明確に把握できるため、誰かがトランザクションを遅らせる、元に戻すなどの検証ルール違反を行えば、参加者は比較的簡単にそれらを見つけることができます。
同時に、悪意のある誰かが虚偽の「ブロック」をレコードのチェーンに追加したい場合は、ブロックチェーンネットワーク上の50パーセント以上のコンピューターにアクセスし、コントロールしなければならないということになります。ほとんど不可能であるということはお分かりになるでしょう。
つまり、サイモンのネットワークは個別の脅威には強いということです。このようにして、ブロックチェーンは安全かつ信頼できる方法で、データや情報へのアクセスを共有できるのです。
ブロックチェーンソリューションは、さまざまな種類のコンセンサスプロトコルを使用します。一般的なものの1つに、「作業証明(Proof of Work)」アルゴリズムがあります。「作業証明」アルゴリズムでは、ネットワーク参加者はトランザクションの検証前に難しい計算問題を解かなければなりません。
解答すると、報酬とインセンティブが与えられるため、参加者は関わりを続ける、という仕組みになっています。ビットコインのようなパブリックネットワークでは、仮想通貨やトークンでインセンティブが支払われます。
次の図は、ブロックチェーンデータベースでのトランザクションの記録・検証についての詳細を示しています。
では、ブロックチェーン技術は、具体的にどのように機能するのでしょう。使用例を交えつつ、ブロックチェーンの有用性について解説していきます。
ある大手医療機関では現在、病院や医師に対し、新規および既存患者の健康状態の情報を提供するにあたり、電子医療記録に頼っています。
しかし、そういった記録は不完全であったり、情報が抜けていたりすることがよくあります。ブロックチェーンを使用すれば、統一された台帳で、医師、病院、保険会社、患者などが一様に医療記録の閲覧、更新を行うことができます。
ブロックチェーンによって、医療関係者が医療記録を閲覧、更新し、患者が自分の医療記録全体を包括的に見ることが容易になります。このため、患者が病院を移ること希望する場合、より信頼性の高い、シンプルかつ迅速なプロセスで行うことを可能にします。
次に、ブロックチェーン技術がサプライチェーンにどのような利益をもたらすかを見てみましょう。ブロックチェーンを採用している企業は、すべてのステークホルダーが、それまでは別々に保管されていたデータにアクセスしたり、そうしたデータを管理したりできるプラットフォームに基づいて、取引先と共同で信頼できるネットワークを構築することができます。このようなネットワークでは、すべての取引を閲覧することが可能であり、製品・商品のトレーサビリティ機能も持ち合わせています。ステークホルダーは、このデータに実行可能なプロセスを適用し、製品・商品についての適切な情報を顧客(消費者)に伝達することができます。
このような取り組み方は、企業がサプライチェーンのあらゆる地点でコスト、労働効率、さらには廃棄物や排気量をモニターする上で役立ちます。これは、複雑なサプライチェーンの効率性を向上させ、トレーサビリティと安全性を強化しようとしている企業にとって大きな意味を持ちます。現在進行している行程の情報に連続的かつ、ほぼリアルタイムにアクセスできれば、企業は臨機応変に出荷ルートを変更したり、生産施設、設備、インフラをよりうまく割り当て、サプライチェーンのキャパシティを最適化したりすることもできるのです。
ブロックチェーンから得られるメリットについて、ABC社の例を見てみましょう。この会社は、多くのレガシーな企業ネットワークと同様に、データをさまざまな場所に、さまざまな形式で格納しています。また、外部のパートナーとの取引の整合性を簡単に検証できることも、この会社にとって不可欠です。
「お客様(個人および法人のお客様)のうち72パーセントが、ブロックチェーン技術によって、今後5年以内に自分たちが企業に何を期待するかが変わるだろうと考えている。」
CIOのジョー・ブラックは、ABC社のデータベースがサイロ化されていたことによる、データの信頼性・正確性、古すぎたり重複したりしている記録、データの消失、管理エラーなどの問題を発見しました。こうした非効率は、料金や遅延などのコストとなってしまいます。また、冗長で煩雑な事務処理が発生することで、会社全体の部署間の摩擦が生じます。同時に、ABC社内のデータと外部のパートナーが保持している記録を照合することは、時間がかかり、困難な作業でした。ジョーは、こうした状況が詐欺や犯罪にさえつながるのでは、と危惧していました。
こうした問題に対処するため、ジョーは会社のデータベースをブロックチェーン、共有型台帳に移行することを決定しました。これにより、パートナーのデータと共に、会社全体のシステムやデータベースからすべての関連データが集約されることになり、今では1つの統合された相互運用可能な信頼できるデータソースが、(外部のパートナーを含む)関係者全員に共有されるようになりました。違いは歴然です。今では、ビジネス全体のステークホルダーが、どんなビジネスに関連するデータや情報であっても、すぐにアクセスできるようになりました。
ジョーとその同僚が感じた利点は他にもあります。
強化されたセキュリティ 暗号化キーなど最先端の方法で保護されているため、ブロックチェーンネットワークはデータ改ざんやサイバー攻撃に対してより耐性を持っています。
より速く、費用を抑えてトランザクション ブロックチェーンデータベースは銀行や弁護士などの伝統的な第三者を必要とせず、かわりにテクノロジーがトランザクションの認証を行うため、仲介者を排除することができ、プロセスの合理化とコスト削減が可能です。
透明性とトレーサビリティの向上 ブロックチェーンデータベースのネットワーク参加者全員がトランザクションやその履歴のデータベース全体を閲覧できるので、リアルタイムのトランザクションレベルでの保証が可能です。このようなシステムでは、監査も非常に容易に行えます。
分散型アプリケーション開発のスタートアップ企業、 ClovyrのCEO兼共同創業者、アンバー・バルデット氏は次のように述べています。「データレイクやデータサイロを作ってしまえばしまうほど、より技術的なリスクも発生してしまいます。ですから、データをアンバンドルできる機能が、現在あらゆる業界で非常に重要になってきています。」
「また、ブロックチェーンや分散型台帳を、さまざまな分散型データストア間の一種の結合組織として使うことで、非常に面白いことができます。それは、社内で、または準法人全体にわたり分散して文書に署名できるようになることかもしれません。重要なことは、ブロックチェーンを使うことによって、開発プロセスを開始できるか決定する前に、わざわざ何行もの異なる銀行と何人もの弁護士と一緒にテーブルを囲んで話し合わなくても、できることがたくさんあるということなのです。」
PwCの新サービス・先進技術責任者スコット・ライケンス氏は、ブロックチェーンがデジタル時代において、信用を維持するための基礎となるテクノロジーになると考えています。同氏はまた、このように指摘しています。「サプライヤー、取引先、顧客と取引をするとき、事務手続き、製品、支払いだけでなく、相手先がきちんとしているかまでも知ることができるのは、革新を起こし得ることです。パートナーや顧客とよりビジネスを進めることができ、より多くの取引を自動化することができるようになります。」
ブロックチェーン技術とCRM(顧客管理)システムを組み合わせれば、既存のワークフローの大幅な向上が可能になります。あらゆる顧客とのインタラクションにおいて信頼性、透明性、トレーサビリティが高まるほか、ビジネスの限界や情報のサイロ化を打破する役にも立つはずです。
では、そうしたCRMシステムの向上においてブロックチェーン技術がどのように役立つかを詳しく見ていきましょう。次のようなメリットが期待できます。
顧客について360度全方位の情報を効率的に得られる ブロックチェーンは分散型ネットワークアーキテクチャを基にした技術なので、情報がサイロ化することはありません。数々のシステムに、顧客の詳細情報のコピーが複数作られるのではなく、すべてのアプリケーションからひとつのデータ群にアクセスすることになります。それにより冗長性は低下し、反応も速くなるのです。また、CRMベースのプラットフォームには、顧客やその製品について、より背景状況に即した詳細な情報を集約することができ、これまでよりも豊富な情報をブロックチェーンビジネスネットワークにもたらすことが可能になります。
セキュリティの強化 ブロックチェーンでは、コードがそれぞれ強力な暗号化ツールで保護されているため、セキュリティが一層強化されます。しかもデータ記録は取り消しできません。トランザクションを消去することができないので、データの改ざんは不可能なのです。
内容豊富なインサイト 顧客のアクティビティに関するデータのインサイトは、一般に規模が大きくなるほど質が向上します。ブロックチェーンの分散型ネットワーク方式ならば、顧客が何を好むのか、どんなことを期待しているのかについての深いインサイトを、ビジネスのエコシステム全体にほぼリアルタイムで提供できます。
データの質と精度が上がる データの完全性は、システムのアップデートで人為的ミスや過失の起きやすいエコシステムには欠かせません。ブロックチェーンベースのCRMソリューションをモノのインターネット(IoT)など他のテクノロジーと組み合わせれば、人の手を介さずして、自社のデータからより実用的なインサイトを収集しやすくなるでしょう。
セールスフォース・ドットコムの調査によれば、お客様(個人および法人のお客様)のうち72パーセントが、ブロックチェーン技術によって、今後5年以内に自分たちが企業に何を期待するかが変わるだろうと考えていることがわかっています。
ブロックチェーンによって、カスタマーエクスペリエンスは次のように向上するでしょう。
セキュアな環境の実現 ブロックチェーンの導入で、企業と顧客とのインタラクションのセキュリティが向上すれば、企業は新たな信頼を得ることができます。また、消費者にとっては、サプライチェーンにおける商品の信頼性と安全性を確認できることになるでしょう。データの処理や共有を行う際も、そのデータがマルウェアやウイルス、漏洩などによって悪用されたり、流出したりすることはないという確信が強まります。
トランザクションがほぼリアルタイムになる ブロックチェーンを使えば、ほぼリアルタイムでトランザクションが記録され、複数の関係者がアクセスすることができるようになり、その結果、顧客サービスのスピードが変わります。
よりカスタマイズされたエクスペリエンスの提供 「ブロックチェーンを利用すれば、消費者の皆様にも選択的かつ安全にデータ共有をしていただけます。そうしたデータの提供も、不安なく行っていただけるのではないでしょうか。そしてそのデータを活用し、企業は製品やサービスをカスタマイズできるようになります」と、ライケンス氏は言います。
ブロックチェーンは、企業がロイヤルティを獲得するのにも役立ちます。ブロックチェーンネットワークで顧客ロイヤルティプログラムをどんなふうに運営できるか考えてみてください。異なるスキームのロイヤルティプログラムを連携させ、付与されるポイントを相互に利用できるようにすれば、顧客は集めたポイントをすべてひとつのデジタルウォレットに保存し、それを取引に使うことができるので便利です。面倒な手間なくエンゲージメントを促進するプロセスを作ることができるでしょう。
「影響を受けるのはB2Cビジネスだけではありません。ブロックチェーンはB2Bビジネスにも大変革を起こすと考えています。特に、信頼できるネットワークとプロセスを企業間に構築すれば、全面的に最適化および自動化された形でパートナーのエコシステムを活性化できるでしょう」と、ウィプロ・リミテッド社のブロックチェーンパートナー、ジョシュア・Q・イスラエル・サッテン氏は語ります。
ブロックチェーンの導入は、従業員の生産性を徐々に高めていく推進力にもなり得ます。なぜならこの技術には、信頼性が高く正確なシステムを構築できる力があるからです。最新でないレコードや重複しているレコード、データの消失などの発生を減らし、高いコストがかかる可能性のある管理上のミスも防ぎます。
台帳情報を分散して共有するというブロックチェーン方式は、スマートコントラクトというプログラムと組み合わせて使うことで、特に効果を発揮します。金融サービス、サプライチェーン、法務といった分野の企業ですでに展開が進んでいるこのスマートコントラクトとは、プログラムのレイヤーを分散型台帳というインフラ上に置くことで、ビジネスプロセスや契約を自動化・簡略化できるものです。事前に定義しておいたトリガーが発生すると自動的に契約が締結され、売買契約を執行するのに高い費用を払って第三者に頼る必要がなくなります。
例えば、トラックが物流センターに商品を配送したら自動的に支払いが行われるような請求書を作成したり、証明書を共有しておき、利益が一定のレベルに達したら株主に配当を送るように設定したりといったことが可能になるのです。
また、機械的に行うタスク(データの確認、契約の執行、支払い処理など)を自動化できるので、従業員はもっと面白い仕事のために時間を使えるようになるでしょう。
サッテン氏はこう述べています。「ブロックチェーンは従業員エクスペリエンスの向上にも大いに役立つでしょう。分散型台帳技術(DLT)とスマートコントラクトを利用したエンタープライズアーキテクチャを構築し、カスタマイズされたWebベースのアプリケーションとカスタマイズされたUIを使用すれば、使用するシステムの総数の大幅な削減が可能になります。さらにはプロセスの自動化、情報のより安全な保護、エラー削減なども実現できるでしょう。そうなれば従業員は、デジタル化が進んでオペレーションの相互運用性も高まった、より優れたUIで仕事ができることになるわけです。それにより生産性が大いに高まると考えられます」
ブロックチェーン技術を使えば、ICO(Initial Coin Offering:新規仮想通貨公開)という形で資金調達を容易に行うことも可能です。昔ながらの銀行や、ベンチャーキャピタル、プライベート・エクイティ企業が提供している融資や資金調達メカニズムに代わる新たな手法と言えるでしょう。
こうしたアプローチのベースには、トークナイゼーションという技術があります。ブロックチェーンネットワーク上に作成したトークンを、数値を表す新たな手法として使用するもので、それを例えば、お金の代わりとして機能させるのです。
どんな有形資産でもこのトークンに置き換えて表すことができるため、非常に広範囲のビジネスプロセスに応用が可能になります。不動産の分野では、不動産物件を複数のトークンに置き換えて、それを追跡したり売買したりするという革新的な事例も出てきています。不動産物件のトークンは、「分割所有権」を成立させ、資格を有する不動産所有者が物件を分割して、その持分を売却することを可能にします。
ICOの場合は、企業が事前に登録した数量のデジタルトークンを一般に販売します。スタートアップの中には、独自のデジタルトークンを作成・販売してかなりの金額を調達している企業もあり、テクノロジー企業のEOSなどは、2017年に42億ドルを調達しています。
ブロックチェーン技術活用の事例としてよく取り上げられている業界について、いくつか見ていきましょう。
従来の金融サービスでは、セキュリティ事故を回避するため、金融サービスを維持するITサービスへ継続的に大規模な投資を行っていました。
一方、もともと改ざんが困難である特性を持つブロックチェーンを活用すれば、セキュリティのためにシステムへ追加投資を行う必要はなくなります。
取引プロセスに関わる仲介業者数を減らし、多大なコストとシステムの複雑さ、非効率な業務の削減という従来の金融業界が抱えていた問題が解消される見込みです。
デリケートな扱いを要する電子カルテの管理、偽造された医薬品を除外する体制構築といった領域に対して、ブロックチェーンの透明性・セキュリティ能力が発揮されることが期待されています。
また、経済的な理由により医薬品の入手が困難となっている人へ廃棄される医薬品を配布する仕組みを構築するなど、ヘルスケア関連の新たなインフラ開発に応用する流れも強まってきました。
センシティブなヘルスケアに関連するデータを、安全かつ効率的に運用できるシステムが一般化すれば、既存体制のもと犠牲になっている多くの人がポジティブな恩恵を受けられるはずです。
食品の安全を確保するため生産から加工、流通までのプロセスを明らかにする仕組み「トレーサビリティ」にブロックチェーンを応用し、透明性の高い情報を公開するための取り組みが盛んになっています。
自身が食べている農産物がどういった経路をたどってきたものか把握することで、消費者はより安心して食料品を入手して食べることが可能となります。
国内外を問わず、汚染された食料品によって引き起こされる食中毒は、食にまつわる大きな問題の1つ。諸説あるものの、食中毒によって失われる人命は1年あたり数十万人規模といわれており、ブロックチェーンの介入による安全性確保は業界を大きく好転させることが予想されています。
参加する企業が期待しているのは、業務におけるあらゆる角度からのセキュリティの確保です。金融サービスであれば預金や顧客情報の流出の阻止がそれにあたりますし、ヘルスケアであればカルテのデータ保護や医薬品の的確な流通、食料品であれば食の安心安全がそれに該当するでしょう。これまで漏えいやチェック体制の不備など多くのリスクにさらされてきた情報がブロックチェーンの技術で解決できれば、それぞれの生産性は飛躍的に向上するはずです。また、そうした技術を業界内で共有することになり、従来は発想すらされなかった新たなビジネス的価値観を創出することも期待できるはずです。
セールスフォース・ドットコムの最先端テクノロジー部門プロダクトデザイン担当ディレクターを務めるアンドリュー・コンはこう話します。
「ブロックチェーン技術を中心に業界を横断して企業が集まり、顧客により大きな価値を提供できるよう共通のデータモデルを作成するといった取り組みは、これからかなり増えていくと思います。近い将来、こうした業界連合や“パートナーエコシステム”が数多く誕生し、それそれが顧客を中心に据えて競合しあうことになると考えています。」
ブロックチェーンを積極的に取り入れたいとなった時に問題視されるのが、この技術がかなりの誇大表現とともに登場しており、そうした宣伝文句には、多くの評論家が指摘したように、何の保証もないという点です。ブロックチェーン技術が、ビジネス上の問題をすべて解決してくれるものではないのは間違いありません。この技術の大きな強みを活用したいと考えている企業は、まずビジネス上のどんな問題に対処したいのか、ブロックチェーン技術はその問題の解決にどう役立つのかをしっかり理解しておかなければなりません。
「自社のビジネスや、市場における自社のポジションに適した具体的な事例に目を向けているのであれば、ブロックチェーンに投資すべきかどうか判断できるでしょう。ただ、自分たちがどんな問題を解決しようとしているのか、ブロックチェーンが本当にその目的に適した手段なのかを、企業はきっちりと見極めておく必要があります」と、サイバーセキュリティやブロックチェーンのアドバイザーであるシーラ・ルビノフ氏は言います。
ここからは、ブロックチェーンが自社のビジネスに適しているか判断するための6つの問いを確認していきましょう。
統合テクノロジーとして誤った位置付けをされることもあるブロックチェーンですが、最も重要な強みはそこではありません。統合を目指しているのであれば、APIやエンタープライズ・サービス・バス(ESB)、Webサービスの使用をおすすめします。
ブロックチェーンによる取引はハッシュ関数と呼ばれる関数により暗号化されており、元データの改ざんを不可能とする「不可逆性」を有しています。一度記録されたデータは改変できないまま残り続けるため、この性質がビジネスの目的を達成に役立つのか、妨げになるのかをよく考えてみてください。
そうであれば、それが改竄不可能性の恩恵を受けるのか検討してみてください。また、そのタスクにはコンセンサスが必要ですか? もし必要なのであれば、ブロックチェーンを使うメリットがありそうです。
組織をまたいでの信頼性をある程度管理する必要があるのなら、ブロックチェーンの活用は効果的です。上流・下流のビジネスパートナーとの間に発生するプロセスを簡略化したい場合も、ブロックチェーンが役立ちます。
解決したいと思っている問題に関わってもらわなければならない相手の数は、2人あるいは2組織より(かなり)多いですか? ほんの少数の相手しか関わっていない問題なのであれば、統合を検討したほうがいいかもしれません。エコシステム全体をターゲットとしているのであれば、ブロックチェーンが正しい選択であると考えられます。
そうであれば、それこそパブリック型のブロックチェーンネットワークのそもそもの考え方が活きる可能性が高いでしょう。
セールスフォース・ドットコムの調査によれば、ITリーダーの5分の1以上(22パーセント)がすでに組織内のブロックチェーン活用方法を見出しています。また、ブロックチェーンで自社のビジネスに何ができるか計画を立てた人たちは、時間を無駄にせず、すぐに取り組みを始めているようです。積極的にブロックチェーンプロジェクトに取り組んでいるITリーダーの割合は、先ほどと同じく22パーセントに上っています。
「ブロックチェーンはあらゆる業界・分野で大きな変革を起こし、もののやり方を再定義します。いくつか例を挙げるとすれば、ブロックチェーン技術は現在、健康記録の管理、不正投票の抑止、福祉供給といった領域をディスラプトしようとしています。可能性は無限にあります。」と、サンドラ・ローは言います。
Trailheadに登場した新しいトレイル「Blockchain Basics(ブロックチェーンの基礎)」* で、ブロックチェーンについて詳しく学ぶことができます!
本ブログは、米国で発表した「What Is Blockchain Technology and Why Does It Matter?」の抄訳版をもとに再編集したものです。