2018年6月、経済産業省は、民間事業者等がデータの利用等に関する契約やAIを活用したソフトウェアの開発・利用に関する契約を結ぶ際の参考として「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を発表しました。契約上の主な課題・論点や契約条項例などがまとめられており、当事者間の認識や理解のギャップによって生じる課題を解決することが期待されています。技術革新が進み、ビジネスにおけるAIの重要性が増してきたことが当ガイドライン作成の背景となっています。
しかし、2016年度の総務省の調査では、「職場にAIを導入することに対してどう感じるか」という質問に対し、日本では賛成・反対ではなく「どちらにもあてはまらない」という回答が50%を占めました。一方で、米国では約80%の人が賛否を明確に回答しました。この結果を受け、総務省は日本の就労者が米国の就労者に比べて、AIの導入を現実的に考えられていないために中間的な回答が多くなったとし、AI利用のモチベーションが高いとは言えない状態であるとまとめています。
この数年間でインターネットの検索エンジンやECサイトのレコメンド機能などでAIの活用場面が増え、生活に身近な存在となりましたが、いまだに総務省の調査のような認識の差は存在するのでしょうか。
セールスフォース・ドットコムでは、国内の外資系、日系企業を対象にアンケートを実施し、AIに対する認識やビジネスにおけるAIの利用実態について調査しました。
まずはAIとビジネスの関係について見ていきましょう。企業経営の格差にAIが影響を及ぼすと感じている人の割合は、外資系企業では70.9%、国内企業では65%でした。
さらに、業務でAIを利用している企業の割合は外資系企業が23.1%、国内企業が12.2%となりました。
ここから、外資系企業はビジネスにおけるAIの重要度を強く認識しているため、より多くの企業でのAIの活用に至っていると考えられます。
AIに対する印象も、外資系企業の方が全体的にやや好感度の高い結果に。「利便性を高める」「人間を補助してくれる」など、肯定的な印象への回答率が高く、多くの人がAIに対してポジティブなイメージを持っているようです。
さらに、外資系は「ビジネスにおいて業務効率や生産性を高める」への回答率が国内企業と比べて5%高く、ビジネスにおけるAIの期待値も高いと考えられます。
その反面、インターネットの検索機能やネットショッピングのレコメンド機能に搭載されているAIを無意識のうちに使用している人もまだ一定数いることが分かりました。「普段は意識していなかった」と回答した人は、国内・外資系企業ともに約40%を占めます。
しかし、外資系企業では普段利用するサービスにもAIが使われていると知っている人の割合が国内企業よりも高く、データを自動分析するAIの必要性もより強く認識していることがわかりました。
ここで業務におけるデータの取り扱い方法を見ると、「データを蓄積・分析し業務に活用している」と最も割合が高かったのは、外資系企業(従業員数1000名以上)35.9%に対して、国内企業(従業員数1000名未満)20.0%となっており、その差は15.9%に及びました。
特にデータの取り扱いが不十分だと感じている割合が高かったのは従業員数1000名未満の国内企業で、「データの蓄積まではできているが分析や活用はできていない」「データの蓄積もできておらず、当然、分析や活用はできていない」の回答を合わせると、32.9%になります。
次に国内・外資の違いを見てみましょう。同じ従業員数1000名未満でも外資系企業の場合は、「活用できていない」と感じる割合が25.8%と減少します。従業員数1000名以上の規模の企業でも、外資系企業では17%、国内企業では22.8%となり、外資系企業の方がデータをうまく利用できていることがうかがえます。
国内小規模企業でデータが十分に活用できていないのはなぜ?
小規模企業の方がデータの管理・分析が手薄になりがちな要因のひとつとして、データ管理に割ける人員の不足が考えられます。
人手不足は深刻化が予想されており、企業規模に関わらず、いかに業務効率を上げて従業員への負担を軽くするかが大切になってきます。ここで業務効率を高めるのに重要な役割を果たしてくれるのが、データを自動分析してくれるAIです。
Vol.2では今どのような分野で深刻な人手不足が予測されているか、人手不足を解決するためにAIがどのように活用できるのかをご紹介します。(Vol.2はこちら)
参考文献:
・『AI・データの利用に関する契約ガイドライン』(経済産業省 2018年6月15日)
・平成28年版 情報通信白書 (総務省 2016年7月)