毎年1月にスイス・ダボスで開催される世界経済フォーラム(World Economic Forum、以下WEF)。「第4次産業革命を理解する」というテーマで開催された2016年以降、世界の国々がその好機をつかむための取り組みを加速させています。WEF発行の2016年のレポート「The Future of Jobs(仕事の未来)」の中から、私たちのビジネス環境にどのようなチャンスがあり、どのように経営のアクションを起こすべきかを、Vol.1とVol.2の2回にわたってご紹介したいと思います。

チャンスを逃さないために、日進月歩の変革に備える

AI、IoT、ロボティクスなど急激な技術の発展が、数年の雇用シーンに大きな影響を与えるといわれています。将来必要なスキル・仕事内容・雇用全体への影響を予測しそれに備える能力は、リスクを軽減しチャンスを存分に活かすためにますます重要になるでしょう。

2020年までに予想される雇用や労働市場への影響を理解することを目的とし、15の主要・新興経済地域における9種の産業セクターで、371の国際企業のシニア人材とストラテジーエグゼクティブを対象とした調査を行いました。

第4次産業革命が引き起こすビジネス環境の大変革

現在は第4次産業革命の時代です。この言葉が認識され始めたのは2011年のハノーバー・メッセで「インダストリー4.0」が提唱されたことに遡ります。2016年のWEF以降は、第4次産業革命の定義も含め活発な議論が交わされ、現在は多くの国がそれを意識した構想を打ち出しています。

第4次産業革命とは、世界共通インフラであるインターネットを原動力としてあらゆる社会インフラの在り方を変えていくものです。革命の軸となるIoTであらゆるものがインターネットにつながり、そこで蓄積される様々なデータを人工知能によって解析。新たな製品・サービスにつなげていくのです。

出典:総務省「平成29年版情報通信白書」 より作成。http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/pdf/n3100000.pdf

これまでの産業革命では経済構造や企業活動が大きく変化し、特定の国や企業が覇権を握りました。第4次産業革命は誰が先導するのか、産業革命を通じて国や企業はどのようなインパクトを享受するのかにも注目が集まっています。

こうした時代の中、人工知能やナノテクノロジーなど以前はばらばらだった分野が融合し、サプライチェーンマネジメントから気候変動まで多岐にわたる問題解決に活用されています。さらに、より広範にわたる社会経済・地政学・デモグラフィック的な変化も技術革新と同じくらいの影響を及ぼしています。
これらの要因によって5年以内に大きな変化の到来が予測されており、迅速な対応が必要とされています。

ビジネススキルが変わる!人材トレンドの大転換期

中でも職種や役職は大きな転換期を迎えています。2015~20年の間にバックオフィス系業務を中心に、なんと総計710万人の雇用機会が失われるとも。一方で、コンピューターやエンジニアリングの分野では雇用が200万人ほど増える見込みです。差し引いて、実質510万人の雇用機会減少が予測されています。

新しく生まれるスキルと職種についてみると、ビジネスモデルの急速な変化は、仕事に必要な知識や技術の集合である「スキルセット」にもリアルタイムで影響を及ぼしています。例えば、ロボットや機械学習によって業務の一部が代行され、新しいタスクへのニーズが生まれることでコアとなる「スキルセット」が変化していくのです。

現在ほとんどの仕事で必要なコアスキルの3分の1以上が、2020年には新しいものに置き換わります。技術スキル(プログラミングや機械操作)よりも社会的スキル(説得力、心の知能指数や指導力)が重視され、両者を備えていることが求められるようになります。 また、2020年までにあらゆる分野で重要になると注目されているのが「データ・アナリスト」と「専門性の高い営業職」です。莫大なデータの蓄積から知見をもたらし論理を組み立てるスキルや、新規サービスを新規クライアントに説明するスキルはどの産業・分野でも必要とされるためです。

そして特定の分野で人材競争は激化します。エネルギー、メディア、エンターテインメント、情報の分野では、変化の渦中でも会社を運営できるシニアマネージャーへのニーズも見られました。また、コンピューター・数学・建築・エンジニアリングなど需要が集中している分野での優秀な人材の争奪戦は2015~20年の間により厳しくなります。強固な人材パイプラインを確保することが大切です。

チャンスをつかむためのアクション。多くの企業がまだ足踏み状態

チャンスを逃さないためには、一連の変化への迅速な対応が必要ですが、調査の結果、未来の人材戦略と変化のマネジメントを優先事項と考えているビジネスリーダーは全体の3分の2にとどまり、自社の人材戦略に自信があると答えたのは53%のみでした。変化に対する理解不足、リソースの制限、短期的利益へのプレッシャー、企業の労働力・イノベーション戦略のつながりの欠如が行動の障壁となっています。

2020年へ、現在の動向からチャンスを予想した具体的な対策をとることは、多くの企業にとっては未だ足踏み状態です。まだ十分に間に合います。Vol.2では具体的なアクションをご紹介していきます。