ビジネスの世界で急速に活用が広がっているAI(人工知能)。セールスフォース・ドットコムではAIをどのように製品に導入し、成果を上げているのでしょうか? 今回は第5回 営業支援EXPOの特別講演「AIで実現する営業改革:すべての営業にAI革命を~第4次産業革命時代のスマートな顧客とのつながり方~」の概要をレポートします。

冒頭でセールスフォース・ドットコム 取締役 副社長の古森茂幹が挨拶した後、「ワールドワイドにビジネスを展開するソフトウエア企業の中で、当社は年間売上額100億ドルに達するまでの期間がもっとも短かった。この成長は、3年前から自社業務に導入しているデータサイエンスとAIに起因するところが大きい」と話しました。

SalesforceのAI「Einstein」の予測が営業活動を強力に支援

続いて株式会社ヒューマンテクノロジーズ チャネル開発部 主任の秋田智美氏が登壇。「成約率増加を実証した人工知能活用営業モデル」と題して、同社におけるSalesforce製品の導入事例を紹介しました。ヒューマンテクノロジーズはクラウドを使った勤怠管理システムのプロバイダーで、2003年の創業以来業績は右肩上がりです。2005年からSalesforceのプラットフォームを活用した営業支援を導入しました。

「たとえば資料請求や問い合わせの際のリード作成で、SalesforceのAI『Einstein』でスコアリングして、その結果を営業活動に役立てています。Einsteinは、当社のSalesforce上の過去データでお客様のさまざまな傾向を学習して『このタイプのお客様は何%の確率で受注できる』といった予測を行います。実際、100点満点中81点以上のスコアがついたリードは、80%の確率で受注しています」。

秋田氏は、日本企業を取り巻く労働環境を鑑みれば、営業活動におけるAIの有用性がますます高まると予想。同氏は「働き方改革が叫ばれ、最低賃金の引き上げ気運が高まる中、会社としては現状、あるいはそれより少ない従業員数・労働時間で生産性を上げることが必要です。その状況下で労働基準法や最低賃金にとらわれないEinsteinの役割は、さらに重要になるはずです」と指摘します。

1つのプラットフォームがAIの多面的なデータ学習を可能に

引き続き登壇したセールスフォース・ドットコムでプロダクトマーケティングディレクターを務める田崎純一郎が「有望なリードを徹底的に知るSales Cloud Einsteinの力」と題して、ヒューマンテクノロジーズの業務に成果をもたらしたEinsteinの仕組みについて、デモを交えながら解説。リードスコアリングは、見込み客のデータを解析して点数化することで、高いスコア、つまり顧客・案件になりそうなリードを優先的にフォローするための仕組み。その後の商談スコアリングでは商談がクローズする確率を予測し、行うべき営業アクションの提案にもとづいて次に必要なアクションを推奨。さらに両スコアの積み上げによって売上予測もできるという一連の流れを説明しました。

田崎は「Einsteinは『メールアドレスをきちんと記入』『売れ筋商品に興味』『役職は営業担当の責任者』などのポイントを加味したリードスコアリングを行い、内勤営業などが優良見込み客から順にフォローを進められるように支援します。また商談インサイトの結果から『もう少し値引きをすると受注率が高まる』などのアドバイスがあり、売上予測では直近数か月の売上予測データから、その時点でどのようなフォローが効果的かを導きます」と具体的な流れを説明します。

また、「従来の営業支援ツールは、マーケティングオートメーション製品、見込み客のインサイドセールス用ツール、営業マンの案件管理ツールなどとそれぞれが独立して機能していましたが、Salesforceは1つのプラットフォームで動いているのでAIが多面的なデータを学習対象にでき、より精度の高い受注可能性を探ることができます」と続けます。

さらに田崎は、Einsteinがどのようなビジネスモデルの企業でも導入できるAIであることを強調。「すべての企業が活用できるようにするために、Einsteinは導入した企業のタイプに合う分析・学習モデルを自動的に選択して、最適なスコアリングを行う仕組みを構築しています」と話しました。

営業成果が顕著にあらわれるAIの購買傾向スコアリング

最後の講演者として古森が再び登壇し、「営業を“経験”から“科学”へ データサイエンス営業の最前線」と題して、セールスフォース・ドットコム社内でのEinstein活用例とその成果を紹介。同社の基本的な考え方である「アカウント・インテリジェンス」について説明しました。

古森は「当社の営業支援は、同じ時間、あるいはより短時間で売上を倍にすることを目指します。そのためにはバックヤードでの時間・手間をできるだけ少なくして、営業担当者が顧客接点を増やさなければなりません。AIがお客様の購買傾向を予測するスコアリングで最適解を導き出し、担当者が次のアクションのサジェスチョンを受けることで営業効率を改善することができます」と語ります。

購買傾向スコアリングにもとづいた営業活動の成果は顕著で、スコア上位の顧客が全体のほとんどの売上を生み出しています。高スコアの顧客にできるだけ営業のリソースを集中するという“ボールの芯を食う”効果的な営業アクティビティによって成し遂げられた成果です。

AIによる貢献の積み重ねでビジネス成長を促進

セールスフォース・ドットコムは、全世界の顧客の組織営業支援を追究した結果、顧客を「潜在顧客」「見込み客」「既存顧客」に分けて対応するベストプラクティスモデル「The model」に到達。さらにアカウント・インテリジェンスとして「クロスセル&アップセル・インテリジェンス」「プロスペクト・インテリジェンス」の2つの考え方をもとにシステムを設計しています。

クロスセル&アップセル・インテリジェンスは、既存顧客の満足度をさらに上げるための仕組みで、顧客の次のアクションをAIが予測して、営業面での示唆を行います。AIを利用することで同社では、既存客との成立案件の単価が向上し、商談数も増えました。プロスペクト・インテリジェンスでは、潜在顧客や見込み客に、新規契約を結んで新たに顧客になっていただく仕組みです。AIによる購買傾向スコアの高い潜在顧客・見込み客を優先的にアプローチすることで、新規顧客獲得数も大きく増加しました。

古森は「こうした実績が積み重なって、当社は冒頭でお話しした『短期間での年間売上額100億ドル』を果たしました。既存の人員・体制のままでも、AIの導入・営業支援活用によって、生産性や生産効率を飛躍的に向上させられることを証明したのです」と力強く訴えました。最後にセールスフォース・ドットコムのEinstein開発体制、営業支援の現場にAIを浸透させる活動「データサイエンス・セリング・ワークショップ」を紹介して講演を締めくくりました。