2018年6月8日、「Salesforce AIアプリコンテスト2018」の最終選考会がJPタワーで開催されました。ファイナリストに名を連ねたのは5チーム。2月15日のプレエントリーから約3か月、60を超えるチームの中から選ばれた精鋭たちです。それぞれがSalesforce Einstein Platform Services (以下Einstein) を使って「楽しく」、「未来を感じさせてくれる」、そして「現実社会の課題解決に役立つ」アプリを持ち寄り、デモを交えながらプレゼンテーション。今回は、その模様をお届けします。
発表順はくじ引きで決まり、1番札を引いたのは、Team ニホンバシ.aiの「Einstein Go – 自動決済型 置き菓子ストア」でした。開発のきっかけは、社内の置き菓子コーナーに対する小さな不満の声が聞こえてきたこと。「ドリンクはICカードで買えるのに、お菓子を買うときには小銭を持って行くのが面倒」。
発表されたアプリは、「みんなの手間をなくす」ことを目指しました。置き菓子コーナーにiPadを置いて、従業員がお菓子を持って顔写真を撮ると、Einsteinが「顔」と「お菓子」を認識できるようにしました。顔がわかれば、だれが買ったかがわかります。お菓子がわかれば、商品名と価格がわかります。決済を給与天引きにすれば、小銭を持ち歩く必要はなくなります。
総務部の負担もそれほどかかりません。購入履歴はSalesforceに蓄積され、従業員ごとに集計して給与システムに引き渡すところまで自動化できます。顔の登録も、従業員名簿用の写真1枚を読み込ませるだけでかなりの精度が出るそうです。面白いのが、「Smileポイント」。笑顔で写真に収まれば、ポイントが貯まる仕組みも用意しました。お菓子を持って、笑顔で写る!楽しく働ける職場環境が目に浮かびます。このアプリ、コンテストに応募したことで世間に知られるようになり、使ってみたいという会社も出てきたとのこと。今後のビジネスも期待できそうです。
続いて発表されたのは、Team サンビット株式会社の「工事現場の写真仕訳アプリ」。なじみのない人も多いでしょうが、工事現場では毎日のように写真が撮られています。施行が確実に行われていることを証明するためで、完了報告書にも写真添付が必要です。とはいえ、日々忙しい現場で、写真の管理までやるのは一苦労。デジカメやスマホで撮った写真を共通のストレージに投げ込むだけで終わってしまい、工事終了後に何人もが手分けして面倒な仕分けをすることもあるそうです。
このアプリは、Einsteinの物体検知機能と画像分類機能を使っています。物体検知機能では、黒板を見分けます。工事写真では、必要事項を記載した判読可能な小黒板を写し込む必要があり、その有無を自動判定してくれます。画像分類機能では、写真の内容から工種を自動判定できます。つまり、写真を撮ってアプリに読み込ませるだけで、いわゆる写真台帳を自動で作ることができるのです。
現状ではスマホに未対応ですが、今後対応させる計画とのこと。それが実現すれば、現場で写真を撮って、その品質の善し悪しを判定して撮り直しを指示したり、不足している撮影項目を直接現場に指摘したりといった使い方へも広がりそうです。博多弁で一人芝居を織り交ぜながらのプレゼンも楽しく、会場の盛り上がりはナンバーワンでした。
3番目の発表は、Team ロボホンズの「EINSTEIN Aquarium Tour」。水生生物への愛に満ちあふれたプレゼンでした。課題設定を、「雰囲気重視の水族館では水生生物に興味を持ってもらえない!」ことに置き、子どもたちをメインターゲットとして「魚やクラゲそのものに、より興味を持ってもらう」ことを目的に開発されました。
面白いのは、チーム名のとおりユーザーインタフェースにシャープ製のスマートロボット、「ロボホン」を使ったこと。デモでは、ロボホンでクラゲの写真を撮ると、ロボホンが音声でそれがミズクラゲであることを教えてくれて、さらにミズクラゲの解説と豆知識を披露してくれました。この認識部分にEinsteinが使われています。現在対応する水生生物は15種類。学習のために1種につき20~30枚の写真を使ったところ、100%の認識率を得られたといいます。
最後に、ロボホンで自撮り写真を複数枚撮ります。この写真はEinstein によってPositive/Negative判定が行われ、Positive度数の高い3枚と水生生物の写真をBGM付きのムービーに合成してくれます。ムービーは、ロボホンに表示されるQRコードを読み込むと再生/ダウンロードできるようにし、ロボホンと過ごした1日を振り返ることができます。
4番目はTeam 豊洲の港よりの「設備点検アプリケーション」です。マンションやビルなどの外壁調査・定期報告には、主に2つの方法があります。打診法と赤外線法です。打診法は、専用検査機器で壁を叩き、その音から内部異常を発見する調査です。人が実行するため足場やロープが必要で、高コストになります。一方の赤外線法は、建設物から出る赤外線を検出することで劣化部分を特定します。
赤外線法の信頼性は打診法に劣りますが、最大のメリットは低コストに済ませられること。建設物は徐々に劣化するため、小さな劣化を早期につかんで修繕すれば、大きな劣化を防げます。こまめに赤外線法でチェックして修繕しておくことで、打診法を使う大規模修繕時に大きな劣化部分が少なくなることが期待でき、トータルな修繕コストは安くつきそうです。
このアプリでは、その赤外線法を使った検査にEinsteinを適用しました。たとえば、冬は暖房をかけるため窓の温度が上がり、サーモグラフィから劣化を判定するために人の目が必要になります。今回のデモは、この条件に対応するため、窓を除外して正常/異常判定を行うものでした。サーモグラフィの読み解きには、そのほか天候や風速、気温など調査時の外部要因を加味する必要があります。将来はこうした情報を与えることで、自動的にAIが判定してくれるところまでいけそうだと期待させてくれるプレゼンでした。
最後の発表は、鍬田 利康氏の開発した「歯のケンコウシンダン」。口の写真を撮ってEinsteinに解析してもらうと、世界で最も多くの人が罹患している細菌感染症である歯周病の兆候を判定してくれるアプリです。評価は3段階。「健康」「初期症状あり」「重症」で、たとえば健康=50、初期症状=40、重症=10のように表示され、自分の歯茎の健康状態をおおよそつかめます。狙いは、歯医者に行くきっかけを提供すること。歯の抜ける原因として、虫歯より歯周病の深刻度の方が高いという調査結果に基づいています。
すでにアプリはWebサイトに公開されていて、試すこともできます。ある審査委員から、「昨日、2回やってみたらどちらも重症100でショックを受けている」とのツッコミが入っていましたが、いまはまだテスト段階。写真には歯茎と歯だけを写す必要があり、鼻や目が写ってしまうと重症度が高くなる傾向にあるそうで、それが原因かもしれません。
学習データは、Webから集めたもの。将来は協力してくれる歯医者さんを募り、学習データを増やしたり、歯医者さんを教師として学習させたりするなど、さらに精度を高めていきたいそうです。開発にあたって、お口の健康診断アプリが世の中にあるかどうかを調べてみた結果、見つけることができなかったとのこと。世界初の試みである可能性もあり、ビジネスモデルを確立できれば面白そうな取り組みです。
こうして、5つの発表が終わりました。それぞれに魅力的でユニークな内容でしたが、果たして最優秀賞に輝き、賞金100万円とDreamforceへの招待を獲得するのはどのチームでしょう。読者のみなさまも、推理してみてください。結果の前に、今回の審査基準についておさらいしておきましょう。以下の6項目について詳細に審査し、審査員が合議の上で最優秀賞が決定されます。
では、最優秀賞を発表します。懇親会のあとに選ばれた最優秀賞は――。
栄えある最優秀賞は、Team ロボホンズの「EINSTEIN Aquarium Tour」。審査員は、アプリの完成度が高く、AIの良さがわかりやすく出ていると講評。学習させるコンテンツを変えると、たとえば観光案内に使えるなど、さまざまな利用シーンが思い浮かぶ用途の広さや、多言語対応していたことも評価を高めました。Team ロボホンズの皆様、おめでとうございました!
結果は、僅差でした。わずかな期間で完成度を高め、最終選考に残っただけでもすばらしい成果です。惜しくも次点以下になってしまった4アプリも、それぞれの魅力を存分にアピールしてくれました。会場に来ていただいたみなさま、Web中継で選考の様子をご覧いただいたみなさま、どうもありがとうございました。Einsteinは高度な知識や専門的な技術なしで、開発者が簡単に利用できるAIサービスです。記事を読んで興味を持った方はぜひお試しください。また、7月25日 (水)のSalesforce Summer 2018では ”Salesforce AI アプリコンテスト 2018 入賞者の作品から学ぶ 「現場で使える AI アプリのアイデア」”を実施いたしますので本セッションへもご参加ください。