本ブログは、本社で発表された「How the Fourth Industrial Revolution is Reinventing the Future of Jobs」の抄訳です。
第4次産業革命とは、世界経済フォーラムのKlaus Schwab氏が提唱する概念。Schwab氏は、さまざまなテクノロジーが融合し、物理的、デジタル、生物学的各領域の境が曖昧になってきた結果、経済体系と社会構造に根本的な変化が起きていると唱えています。
今回は、この第4次産業革命や第4次産業革命がビジネスや社会に与える影響について、Zvika Krieger氏にインタビューしました。Krieger氏は、世界経済フォーラムがサンフランシスコに設立した第4次産業革命センター(詳しくはこちら(英語))の共同代表を務め、政府機関や企業、市民団体、世界各地の関係者と協力し、社会に貢献する新しいテクノジーの導入を推進している人物です。かつては、米国国務省で初のシリコンバレー担当代表となり、テクノロジーおよびイノベーション担当シニアアドバイザーも務めました。
―― 多くの評論家が、第4次産業革命は社会における企業の役割に劇的な変化をもたらすと提言しています。 新しいテクノロジーを利用したビジネスモデルを導入する企業が増えている中、プライバシーやデータ管理、不平等の拡大のような倫理面の問題が頻繁に議題にのぼるようになりました。 こうした新しいビジネス環境で経営指揮を執るCEOに対して、どんなアドバイスを送りますか?
Krieger氏:以前は、テクノロジー企業の多くが自社製品の社会的影響に対する責任を負うことに難色を示していました。
つい2年ほど前までは、企業のリーダーから「うちはただのプラットフォームだから」「当社製品はソフトウェアに過ぎないから」「単なるハードウェアなので」「ユーザーが製品をどう使うかまで責任を取れない」との発言が聞かれました。
しかし今では、企業、特にCEOが、新しいテクノロジーの影響に対する自社の責任についての考え方を180度転換させていると思います。
米国やヨーロッパなどの選挙結果や英国のEU離脱に関する投票結果など、世界各地で起こった最近の出来事をみても、世界中で一般大衆の不満が募っていることに気付かされます。人々は、第4次産業革命の影響を受け、そのメリットが平等に分配されていないことに憤りを覚え始めています。
テクノロジー自体に反感や反発を抱く人々が増加しているこの状況がエスカレートすれば、多くの企業の中核的ビジネスモデル、そしてテクノロジーを有効利用する企業の態勢に影響が出てくるでしょう。
CEOは道徳・倫理観の課題に向き合い、新しいテクノロジーが社会に与える影響について責任を引き受ける必要があるということです。これはもはや、単なるCSR(企業の社会的責任)の問題ではありません。 企業の利益に関わる問題なのです。
今のところ、テクノロジー企業に目が向けられていますが、あらゆる業界がこうした高い基準に縛られるようになるのは時間の問題でしょう。
テクノロジーが信じられないほど速く、かつてないほどのスピードで変化している事実に注意することも重要です。 そして政府は、驚くほどのことではありませんが、このスピードに追いつこうと悪戦苦闘しています。
これまでは、新しいテクノロジーが登場すると、社会に最大の利益をもたらすよう、政府が中心となってその方向性を決めてきました。 しかし、政策というのは協議し慎重に検討した上で作られるものであり、このプロセスは、急速に変化する世界には適していません。 政府機関で長年仕事をしていた私は、米国国務省でテクノロジーおよびイノベーション担当シニアアドバイザーを務めていた当時、こうした状況を目の当たりにしました。
ですから、そもそもテクノロジーの専門知識がない、政策決定プロセスが変化に追いつくようには「できていない」という2つの理由で、政府が後れを取っているとすれば、業界トップクラスの企業、そして彼らが下す決定が必然的に、新しいテクノロジーが社会に及ぼす影響を左右することになります。 これは非常に大きな責任です。
―― 世界経済フォーラムの『Future of Jobs(仕事の未来)』レポート(英語)では、コアスキルの35%が2015年から2020年の間に変化すると予測しています。(英語) 企業が第4次産業革命における自らの責任を受け入れる中、従業員が変化のスピードについていけるよう支援と教育に力を注ぐことが重要となります。 従業員にスキルアップやトレーニングの機会を継続的に与え、今後の活躍をサポートするために、企業はどのような役割を果たすことができるでしょうか。
Krieger氏:最近発表された『Future of Jobs(仕事の未来)』レポートでは、現在の求人市場で必要とされる上位10項目のスキルと2020年までにそれらに起こり得る変化を調査しました。 現在の労働市場で鍵となるスキルであっても2020年のリストに入っていないものもあります。
これは生涯教育への転換が間違いなく必要であることを意味しています。
テクノロジーの変化が加速する今、従業員が第4次産業革命に勝ち残れるスキルを身に付けているか確認しましょう。 技術スキルとソフトスキルの両方が対象です。 どちらの領域でも変化が起こるはずです。
企業は、従業員が新しい言語でコーディングできるようにしたり、さまざまなソフトスキルの変化に対応できるよう、検討すべき時期に来ています。 AIが労働力に影響を及ぼし、オートメーションが既存スキルに取って代わるようになったのに伴い、心の知能指数や創造性、クリティカルシンキングなどのニーズが高まっています。
―― 第4次産業革命のテクノロジーによって、企業や政府などの機関では、個々の顧客を理解し、パーソナライズされたサービスを提供する能力が著しく向上します。 ビジネスリーダーは、テクノロジーを有効利用して、顧客との距離を縮め、より深くより価値の高い関係を構築することについて、どのように考えるべきでしょうか。
Krieger氏:企業が収集できる膨大な量のデータによって、顧客の特別なニーズを満たし、まったく新しいビジネスモデルを創出するチャンスを広げることができます。 最も差し迫った社会的な課題に対処することも可能です。 ただし、大きな力には大きな責任が伴います。
課題となるのは、第4次産業革命のテクノロジーが、行動や思考を決定付けるものではなく、能力を高めるものであってほしいとする人々の要望です。 私たちは、テクノロジーが自由を奪うものではなく、さらなる選択肢とさらなる自主性をもたらすものであってほしいと願っています。
その場合、企業にとっての大きな課題は、顧客が自分の個人情報がどのように使われ、その結果プライバシーがどのような影響を受けているのか、きちんと理解していないことです。
最も分かりやすい例は冗長で複雑な「利用規約」でしょう。ユーザーの99%が内容を読まずにスクロールだけして、新しいアプリケーションやサービスを使おうとします。
それが問題にならなかった時代もありました。 収集する個人データはごくわずかで、データの使い道も多くは存在していなかったからです。
しかし、第4次産業革命に突入した現代の企業は、かつてないほど多くのデータを収集しています。 そして、こうしたデータを利用する企業の能力も急速に向上しています。 データは、人々の暮らしのほぼすべての側面に影響を与えるパワーを持つようになりました。
しかし、平均的な顧客は、利用規約の「同意」ボタンをクリックする行為が5年前とは違う意味を持つことを真に理解していません。 その影響は、はるかに大きなものになっているのです。
建前として企業が顧客に承諾の選択肢を与えたとしても、ほとんどの場合、顧客は何を承諾するのか分かっていません。
ですから、結局、先ほどの議論に戻るわけです。 企業は今までよりずっと大きな責任を負っています。長期的な繁栄を望むのであれば、この事実と真剣に向き合わなければなりません。
そのためにも、CEOは、顧客データを倫理面で監督・管理する責務を果たす必要があります。 それが正しい行いだからというだけではありません。その責務を果たさなければ、顧客の怒りが大きくなり、個人情報を適切に管理していない企業を拒否するようになるのは時間の問題だからです。