インテリジェンスがすべてのカギとなる第4次産業革命のなかで、勝ち残るのは優れたカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を提供できる企業 – これはもはや疑いようのない事実です。Harvard Business Review Analytic Servicesが実施した調査(英語)によれば、ビジネスリーダーの73%が、業績を上げるためには、顧客の期待に沿った信頼できるカスタマーエクスペリエンスの提供が不可欠だと答えています。さらに驚くべきことに、93%が2年後にはカスタマーエクスペリエンスの提供に大きな危機が訪れるだろうと答えています。カスタマーエクスペリエンスの重要性を認めたところで、テクノロジーを導入して企業文化や組織を変革しなければ、優れたエクスペリエンスを実現することはできません。
上記の調査では、自社のカスタマーサービス戦略やアプローチを「非常に効果的」としたビジネスリーダーは、わずか15%にすぎませんでした。とはいえ、効果的にカスタマーエクスペリエンスを変革できないのは、データやテクノロジーが不足しているからではありません。世界は今、次のような状況にあるのです。
Harvard Business Reviewの調査では、こうしたトレンドやカスタマーエクスペリエンスの重要性を認識しながらも、企業がテクノロジーを効果的に活用できていない理由を詳しく分析しています。
図 1 - カスタマーエクスペリエンスにおけるテクノロジーのギャップ(出所:Harvard Business Review Study)
上の図が示す3つのギャップは、すべてデータの可視性や統合に問題があることから発生しています。第4次産業革命の波に乗るには、あらゆるチャネルにおいて顧客や製品のデータを統合し、データを基にカスタマーエクスペリエンスの現状を把握した上で、全部門でデータを可視化する必要があります。さらにAIや予測分析といったテクノロジーを活用し、顧客の期待を超えるカスタマーエクスペリエンスを提供してこそ、データは意味あるものとなリます。課題はデータの不足ではなく、企業がそれらのデータに対処する能力です。Harvard Business Reviewの調査では、収集したデータに対して何らかのアクションを起こしていると答えた企業はわずか20%にすぎません。つまり、把握していたはずの顧客情報を毎日失っているのです。第4時産業革命を勝ち抜くためには、優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するために、データに対してより迅速にアクションを起こしている企業であることは明らかです。
では、なぜそれができないのでしょうか。まず考えなければならないのは、顧客データが、POS、ERP、ソーシャルメディア、eコマースといったさまざまなシステムで収集、管理されている点です。Harvard Business Reviewの調査では、最も重要とされているデータソースは CRMシステムで、72%以上の企業が、顧客情報を取得する上で最も重要かつ利用頻度の高いデータソースと答えています。ただし、使用するCRMシステムやCRMの導入状況は企業によってさまざまなので、優れたカスタマーエクスペリエンスの提供にCRMを活用することで得られる価値は、企業によって大きく異なります。
企業からはよく、顧客情報をどこに格納すればいいのか、どのようにデータを管理し、最新の状態に保ちながら、使いやすい形に標準化すればいいのか、という質問を受けます。しかし、そもそもそう考えるのは誤りです。重要なのはデータの標準化や保管ではありません。毎日生み出されるデータの量を考えれば、そんなことは不可能です。カスタマーインテリジェンスの単一のソースを確立する上で必要なのは、すべてのデータをまとめて保管することではなく、各種データソースをきちんと連携させ、その場に応じて目的に適うデータソースを利用することです。さまざまなデバイスに保存されているデータを操作できる場所さえあれば、必ずしもすべてのデータを1か所にまとめる必要はありません。イベントベースのアーキテクチャ(下記、図2を参照)を採用する企業が増えているのは、こうした理由からです。優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するためには、データを1か所に集めなくても、基盤となるAIプラットフォームが、他の場所にあるさまざまなデータソースにアクセスして、すべてのワークフローを処理すればいいのです。第4次産業革命で重要になるのは、データの保存ではなく、アクションを起こすことなのです。
図 2 - イベントベースのカスタマープラットフォーム
イベントベースのカスタマープラットフォームの効果を実例で考えてみます。あるバイクメーカーを例にとりましょう。企業にとって重要な従業員やパートナーが単一のビューを共有できるようにすることが大切な第一歩です(下記、図3を参照)。カスタマーインテリジェンスのソースを単一とすることは最低限必要なことであり、Harvard Business Reviewの調査でも、従業員がインサイトを共有する最も重要な手段として挙げられています。
図 3 - 単一の顧客ビュー
顧客が望むエクスペリエンスを提供するには、まず単一のビューが必要です。そして、長きにわたってファンとなってもらうには、AIや予測分析の活用がカギとなります。ここで、バイクメーカーのある顧客の例をご紹介します。ハイテク企業に勤め、オートバイが大好きなエイプリルです。彼女は最近、すてきな上位モデルのバイクが欲しくなりました。エンジン音を轟かせ、サンフランシスコを疾走したいのです。そろそろ本当に買おうとしていたまさにそのとき、バイクメーカーから、目を付けていたバイクの限定試乗キャンペーンのメールが届きました。そう、エイプリルは同社のWebサイトでバイクの見積りシミュレーションを行い、顧客のコミュニティに参加し、Facebookの広告をクリックしていたのです。こうした情報があれば、企業はエイプリルを有望な顧客と特定し、この試乗キャンペーンに反応する可能性が高いと認識できます。エイプリルは即座に反応し、ソーシャルネットワークのプロフィールからわずか数クリックで、試乗イベントへの参加を登録します。当日、エイプリルが販売代理店に着くとすぐに、彼女のプロフィールを把握している担当者が出迎え、すぐに試乗できるよう整備されたバイクに案内します。彼女は迷うことなくそのバイクを注文し、自宅まで届けてもらいます。
ついにバイクを手に入れた彼女は、初めてのツーリングに出ようとします。次は何が起こるでしょう。彼女がバイクにまたがり、がっしりした鋼鉄製のペダルを踏むとすぐに、アプリが速度やバンク角、出力、加速度を記録し、データをバイクメーカーにリアルタイムで送信します。最初の10マイルを走破すると、エイプリルはアプリで1つ目のバッジを獲得します。その後、エイプリルが冬によくツーリングに出かけることに気付いたバイクメーカーは、現地の気候にぴったりのライダースジャケットを彼女にすすめます。
さらに、アプリは取得した出力と加速度のデータから、今後発生し得る問題を予測し、バイクの整備をエイプリルに提案します。整備を受けるためにバイクメーカーに電話したり、Webサイトにアクセスしたりする必要はありません。企業がFacebookに用意したボットとテキストチャットするだけで、予約が完了します。こうしたエクスペリエンスを通じて、エイプリルはブランドや製品に好印象を抱き、購入者の1人からブランドのファンへと変わっていきます。
イベントベースのアーキテクチャやAI、予測分析を組み合わせた取り組みは、遠い将来の話ではなく、今まさに行われていることです。第4次産業革命を迎えた今、あらゆる企業が踏み出すべき終わりのない旅なのです。Harvard Business Reviewの調査に引用された、ある金融サービス会社の CEOの言葉をご紹介しましょう。「当社の取り組みは順調に進んでいます。ですが、決して自己満足に陥ってはいけません。これは終わりなき旅なのですから」。企業が取るべきベストアクションは、カスタマーインテリジェンスの活用戦略を詳細に策定し、継続的な改善とイノベーションの地固めをすることといえるでしょう。
本ブログは、米国で発表した「How AI, Predictive Analytics, and Apps Can Close the Customer Experience Gap」の抄訳です。