「myEinstein: 進化する SalesforceのAI~用途をさらに広げるEinsteinの新しい世界」では、「Dreamforce 2017」で発表された「myEinstein」の特徴を米国セールスフォース・ドットコムのケン・ワカマツが紹介しました。さらに、2018年春・夏に登場するEinstein の新機能についても一足先に、当社エンジニアの大川宗之と早川和輝によりデモを実施しました。ユーザー自身の手でAIを簡単に活用し、革新的にアプリケーション作成やインテグレーションを実現できるEinsteinの姿に、会場は大いに盛り上がりました。
写真:米国セールスフォース・ドットコム 製品開発部ディレクター
プロダクト・マネージメント ケン・ワカマツ
Einsteinが登場してから1年。リリースした機能は20以上を数え、1日あたりの予測件数は5億件近くに上っています。米国セールスフォース・ドットコムの製品開発部 プロダクト・マネージメントディレクターのケン・ワカマツは、この結果を紹介すると同時に、素晴らしい成果を成し遂げたすべてのTrailblazerに感謝を述べて講演をスタートさせました。
というのも、AIはユーザーのデータ利用があってはじめて、精度を向上させ、新たなサービスを生み出せるからです。AIが牽引するテクノロジー変革の代表的な例として、ケン・ワカマツは「音声認識:同時翻訳を可能にしたイヤホン機器」「画像認識:医療分野での疾患の早期予知」「アプリ:地図アプリを発展させた配車アプリ」の3つをあげました。それらのサービスや製品の提供には、ユーザーの蓄積したデータが必要です。
「Salesforceのサービスも、AIの活用でさらなるテクノロジー変革を実現します。EinsteinはCRMのための最適な人工知能であり、Salesforceに蓄積したデータとAIをかけあわせ、ユーザーの皆様に使っていただくことで、AIをより進化させられます」それにより「世界でもっともスマートなCRMを実現する」ことを強調しました。
Dreamforce 2017では、パーソナライゼーションにフォーカスし、“my”を冠した5つのプロダクトが発表されました。中でも広く関心を集めているのが「myEinstein」です。Einstein発表後1年の間に、Salesforceにはお客様から多くのフィードバックが寄せられたといいます。中でも多かったのが「Salesforceを採用した理由はメタデータプラットフォームであり、コードを書かずにカスタマイズできるから。AIもカスタマイズに対応できなければ意味がない」というものでした。
「実際にデータを検証してみても、Salesforceのレコードの80%以上はカスタムオブジェクトに格納されていました。そこで当社ではこの1年で、カスタムデータを使い、パーソナライズをお客様ご自身で行えるmyEinsteinを準備したのです」(ケン・ワカマツ)
つまり、各ユーザーが自身でカスタマイズしたデータにもとづいてAIを搭載したり、アプリ作成を簡単に行えるようにしたりしたのが「myEinstein」です。機能としては次の4つを紹介しました。
さらにケン・ワカマツは、個人的な見解であるとしながらも日本で人気が出る機能には「Einstein Prediction Builder」をあげ、さらに「Einstein Bots」の事例としてスポーツメーカーのアディダス社で、すでにこの機能を使い過去データからもっとも問い合わせが多かった内容を分析し、自動言語処理をかけてbot化した実例も紹介しました。
会場では、さらに「Einstein Bots」のデモも行われました。デモを担当したのは、セールスフォース・ドットコム セールスエンジニアリング本部 プリンシパル ソリューションエンジニアの大川宗之です。
写真:セールスフォース・ドットコム セールスエンジニアリング本部
プリンシパルソリューションエンジニア 大川 宗之
デモはエンドユーザーがある製品の「オーダーステータス」をbotとやり取りしながら確認するというもの。ユーザーがスマホ画面からオーダーステータスの確認メニューを押すと、メールアドレスなどをキーに、ユーザーの名前を出しながら、自然言語でのやりとりが行われる様子が紹介されました。
こうしたbotとユーザーのやり取りの裏では「Salesforceの顧客データと連携し、Emailアドレスから顧客名を提示しています。途中オーダーリストを提示できるのも、Salesforce上のカスタムオブジェクトで作られている顧客のオーダーレコードを読んでいるからです。オーダーステータスはシステムオブレコード(SoR)であり、botはいわばシステムオブエンゲージメント(SoE)です。SalesforceではこのSoRとSoEが垂直統合されていて、簡単にbotアプリケーションの作成が可能になります」とSalesforceのデータと密に連携できるbotソリューションの魅力を説明しました。
紹介されたデモはこれだけではありません。来春に登場予定の「Einstein Forecasting」も登場しました。これまでリードスコアリングのAI予測はありましたが、Einstein Forecastingでは、さらに機械学習で売上予測を実現しようというものです。
デモでは、Sales Cloudの売上予測画面が表示され、「目標」、「受注」、「達成予測」、「パイプライン」などの項目とならび、「Einstein予測」の数値が表示されました。実は「達成予測」は目標に引きずられて、マネージャーがかなり上乗せした数値という設定。実際の現場でもこうしたことは起こりがちです。「Einstein予測」とは50万円近く開きがあり、数値をクリックすると予測の詳細が現れ、ウォーターフォールチャートで確認することができました。さらにホーム画面では、パフォーマンスがグラフ化され、現在の達成値とともに、Einsteinの予測値が一覧で可視化できます。
「これにより、目標値との乖離があるかどうかがすぐに分かり、どういったアクションをすべきか考えるきっかけになります。なぜこうした売上予測を的確に行えるのでしょうか。それは、Einstein Forecastingが商談レコードをクローズできるかどうか過去の商談データから分類しているからです。この機能でセールスの文化が変わるはずです」と大川は説明します。
さらに、大川は「この機能は、商談だけでなくさまざまなカスタムレコードでも活用でき、業界を問わず機械学習による予測が行えるようになる」とし、2018年夏に登場予定の「Einstein Prediction Builder」を紹介しました。デモでは、大学での生徒の退学率の低減を目指した「退学予測」の仕組みを想定。コーディングすることなく、ラジオボタンを選ぶのみで予測メニューが作れる様子を実演しました。
いかにEinsteinが、簡単にAIをSalesforceに組み込むことを可能にしたかについて、実際に他のAIサービスでSalesforceとの連携を試したセールスフォース・ドットコム セールスエンジニアリング本部 ジュニアソリューションエンジニアであり、大学時代に自然言語処理や機械学習を研究した早川和輝が次のように説明します。
写真:セールスフォース・ドットコム セールスエンジニアリング本部
ジュニアソリューションエンジニア 早川 和輝
「他のAIサービスでは、同じようなことをやろうとするとプラットフォーム、データベース、AIのAPIの3つを駆使する必要があり、非常に手間がかかりました。具体的には、Salesforceのデータを吐き出し、AIサービスに分かるように整えるのですが、認証の仕組みも必要ですし、コーディングも必要です。AIを成長させるとなれば、このプロセスを何度も繰り返さなければならず現実的ではありません」
こうした他のAIサービスの設定ではさまざまな技術をインテグレーションしなければならないのに対し、Einstein Prediction Builderは必要なものが垂直統合されていて、インテグレーションが不要な点が魅力であると大川は説明します。
従来のAIのアプローチでは、データ収集とクレンジング、モデル構築時の特徴量の設計やパラメータチューニングなど、専門知識が必要でした。しかしEinsteinはその中間にある作業をほとんど自動化しています。データの収集、モデルの作成を自動的に行い、Lightning Componentによりアプリケーションへの組み込みを容易に行えます。
「エンドツーエンドで垂直統合された形で機械学習を実現するアプリケーションが作れるのは、今のところEinsteinしか知らない」との大川の言葉のとおり、Einsteinは人も時間も限られている組織でもAIを使って結果が出せる仕組みです。
myEinsteinの登場により、いよいよユーザー自身の手でAIを使ったデータ活用が実現する時代が到来しました。今後も業種の壁を越えてより使いやすくAIが活用できるようEinsteinを強化し続けるということが伝えられ、講演は終了しました。