各業界のスペシャリストと連携して、業界における新たなインサイトを得るための記事をお届けします。今回は家電スペシャリストの滝田勝紀氏による「家電業界」に関する寄稿連載Vol.3「2018年のIoT家電動向予測」です。ぜひご覧ください。(連載Vol.1はこちら。Vol.2はこちら)。
2017年は日本国内において、米国に遅れること1年半~2年半、「Google Home」や「Amazon echo」などのスマートスピーカーの発売が話題となり、アーリーアダプターたちを中心に使用を始めています。さらに、いよいよIoTという言葉がテレビの地上波番組にもたびたび登場し始めるなど、今後振り返った際に、2017年は真の日本の“IoT元年”と呼んでもいい年だったと思われます。
とはいえ、まだまだIoTという言葉はどこか特別感のあるものとして既存メディアで扱われ、実際に机の上で考えられたような実用性に乏しいIoT製品も数多く、どこか余所行きの機能という印象が強いのも事実。
また、スマートスピーカーと家電との連携について目を移しますと、日本国内においても、「Google Home」や「Amazon echo」が日本語対応したにも関わらず、積極的に連携を表明しているのはアイロボットのロボット掃除機「ルンバ」シリーズ、フィリップスのLED照明「hue」シリーズという一部の海外メーカーという状況。
写真 (滝田氏提供):アイロボットのロボット掃除機「ルンバ」シリーズ
そんな現状を知っていただいた上で、ここでは2018年のIoT家電の動向を予測していきましょう。
まず『IFA 2017』などの直近で行われた世界的家電見本市などから予測すると、2018はこの日本国内においてパナソニック、ソニーといった大本命の日本メーカーが、いよいよ本格的にスマートスピーカーを自社の家電との連携に向けて注力するはずです。
両メーカーは、それぞれソニー/ワイヤレススピーカー「LF-S50G」、パナソニック/ワイヤレススピーカー「SC-GA10」を発表しています。しかも「LF-S50G」はすでに発売し、「SC-GA10」も今冬発売予定となっているので、それらは「Google Home」や「Amazon echo」、さらにはLINEの「Clover WAVE」と並ぶ国内スマートスピーカーの代表格として、今後注目を浴びることは間違いないでしょう。
特にパナソニックは総合家電メーカーとして多くの家電ラインナップを有し、100周年を迎える2018年は、次の100年へ向けて新たな進化を遂げる時。洗濯機、エアコン、ロボット掃除機といった、すでに発表済みの家電が続々とIoT化し始めている現状を考えると、2018年はさらに他の家電隅々にまでIoT化の波が広がり、それらをまとめて制御する音声端末として、自社の「SC-GA10」をプッシュすることは当然の動きと言えましょう。
ソニーも同様で、テレビと「LF-S50G」の連携などについてはすでに『IFA 2017』でデモンストレーションで披露しているなど、オーディオビジュアルなどの分野には特に積極的に連携を模索して行くと予想されます。
ただ、一方でスマートスピーカー自体がIoTとともに、一般の人々の生活に本当に入り込むには、まだまだハードルがあるのかなとも感じてしまっているのも事実です。大きな理由として、常に会話が一方通行で、操作するだけでそれ以上続かないというスマートスピーカーの現状が弊害になると考えています。
筆者も実際にスマートスピーカーは使い始めてはいるものの、例えば「ルンバ」などを動かす際にも、「ルンバを使って掃除して」「ルンバを使ってホームベースに戻して」というと、それに対して、スマートスピーカーを通じて「ルンバ」が動くだけで、その行為自体は専用アプリでもいとも簡単に行えてしまいます。それ以外にも、ニュースや天気予報を読み上げてくれたり、音楽を再生してくれるなどの機能もあるものの、それらは“話しかける”というレベルではあるものの、“話しかけたい”という感情には直結しないというのが実情です。
スマートスピーカーが一般の人々の生活に本当に入り込むのに必要なものは、おそらく“雑談力から生まれる愛着”なのではないかと考えます。
例えばTOYOTAのコミュニケーションロボット「KIROBO mini」などと生活をともにしてみると、それが如実に実感することができます。もちろん「KIROBO mini」はスマートスピーカーではなく、専用アプリとは連携しているものの、IoTとしての実用性を意図したものではありません。ただ、5歳児の設定で向こうから人に話しかけてきて、思わずそれらに答えていると、ちゃんと話者の方に向いてくれたり、目を三日月に光らせて笑ってくれたり、そうこうしているうちにいつのまにか愛着が湧いて来るから不思議です。
実際に犬や猫などのペットも働いてくれるわけではありませんが、愛着が湧き、家族の一員、つまりはなくてはならない関係になりますよね?
2018年1月に「aibo」も発売されましたが、言葉は発しなくても、人に寄り添ったり、鳴いたり、お手をしたりする行為自体が、「aibo」にとってのコミュニケーション力=雑談力と考えれば、“ハードが人に自ら寄り添うべき”という考え方が、あながち的外れであるとは言えないと思います。
少し話は外れましたが、とにかく2018年には“雑談力から生まれる愛着”こそが、多くの人がスマートスピーカーを取り入れるためのトリガーになるのではないかと考えています。スマートスピーカーから話しかけてくるぐらいの雑談力があってこそ、人々がそこに愛着を感じ、使い始めるきっかけになるはずです。
さらにそういった動きに並行して、人々が数多くのIoT家電を導入することで、アプリ一つ一つでそれぞれ動かすこと自体に無理が生じて来た時に、初めてスマートスピーカーの音声でIoT家電を動かす必然性を感じ、それによりもしかしたらIoT家電自体がさらに身近に感じられるのではないでしょうか?
続いての予測は、2018年以降は日本国内でシャープや東芝、つまりすでに台湾や中国メーカーの資本が入った企業が、強力にIoT化/スマートホーム化を推し進めてきます。
写真(滝田氏提供):シャープのクラウドサービス COCORO KITCHEN
『IFA 2017』では韓国や中国メーカー、さらには欧州でもIoTに関して積極的な家電メーカー各社が、軒並み冷蔵庫をハブに、IoTやスマートホームを構築しているのを数多く見てきました(詳しくはVol.2をお読みください)。
おそらくこの先も、さまざまなグローバルメーカーが日本の家電市場を狙ってくるとは思いますが、その中でも元々は日本の家電メーカーであるこの二社が、その最有力候補としてあげられます。
その突破口として、家庭内のあらゆる行動データを吸い上げるためのハブとして、24時間通電している冷蔵庫を活用するのはほぼ間違いありません。
『IFA 2017』では東芝(シロモノ家電を扱うライフスタイル社)の親会社である美的集団(マイディアグループ)のブースには、他の中韓家電メーカー同様、大画面液晶にWindowsなどを載せたIoT冷蔵庫が堂々展示されていました。その仕組み自体は単純なので、日本ですでに発売中の冷蔵庫をベースに、やや画面を小型化するなどローカライズを加えるだけで、すぐにでも日本版IoT冷蔵庫は投入できると考えられるからです。
一方、シャープはすでにAIoTと銘打って、様々な家電をWi-Fiコネクティッド化したり、冷蔵庫自体をアプリと連動させたり、その準備が整いつつあります。その上、CEATECなどではすでに2016年からお披露目しているコミュニケーションロボット「ホームアシスタント」を軸に、いよいよ日本国内のIoT戦略を強力に推し進めて来るはずです。
「ホームアシスタント」は、赤外線リモコン機能を備えたロボットであるというのも大きなポイント。先にも述べた通り、日本は欧米各国と違い、赤外線を使用してコントロールする家電が多いため、そのあたりも見越してのロボットであることは当然織り込み済みだからです。
すでにウォーターオーブン「ヘルシオ」などでIoT化は実現し、そこにはAQUOSスマートフォンの話しかけるAI「EMOPA(エモパー)」の進化型と目される対話型のAIが搭載され、実際に使用してみると高い雑談力が備わっていることもわかります。
表情のある「ホームアシスタント」が自ら話しかけてきて、人に寄り添い、家電を操作したくなる、そんなスマートスピーカーがだんだんと生活に馴染むストーリー……。東証一部上場に復帰するなど、一時期のトンネルを完全に抜けて、いよいよ明るい未来がだんだんと見えてきたシャープが、日本国内においては一般の人々にIoT生活をもたらす大本命の家電メーカーといっても、過言ではないかもしれません。
IoTが一般の人々の生活に根付くにあたり、やはり不可欠なのが家全体のIoT化。いかに空気のように存在感が希薄で、快適なスマートホームを構築できるかが重要な鍵だと考えています。つまり、住宅に関わる多くのメーカーが本気で繋がること自体が、一般の人々により身近なIoTを提供する近道なのではないでしょうか?
2017年は日本国内において、そういった考えを持つ大手企業やメーカーが集まり、業界の垣根を超えて「コネクティッドホーム アライアンス」を設立しました。東急やパナソニックをはじめ、トヨタ自動車や日産自動車といった自動車メーカー、TOTO、LIXIL、YKKAPなどの住宅設備メーカー、中部電力や大阪ガスとなどインフラ企業まで、77社が名を連ねています。
この取り組みはこれまで各企業がバラバラで取り組むことで、なかなか進展せず、世界からかなり遅れをとっていた国内IoTの取り組みを鑑みると非常に画期的で、2018年以降、国内においてIoT/スマートホームが本当に進展するかを決定づけるといっても過言ではないと考えています。
アライアンスに参画する企業の担当者などが集まり、「ビッグデータの分析と活用」「住宅を快適にする家電制御や見守り機能」「接続ポリシーやセキュリティ対策」を横断的に情報共有するような研究の場なども作られ、さらにはメーカー間のコネクティビティを検証するための実証実験なども必要に応じて実施するなど、かなり本気度が高いことも伝わってきています。
アドバイザーとして参加する東京大学生産技術研究所の野城智也教授も、「生活空間のあらゆるモノをIoTでスムーズにつなぐことがアライアンス最大の目的」と話したほか、実際に発表会場でのデモンストレーションでも、スマートフォンで家のカギを開けると、照明や扇風機が連動して動き出したり、他の家族のスマートフォンに自分が帰宅したことが通知される家と家電の連携性の高さをアピールしてこともアピールしており、いやが応でも期待が高まります。
それらとは別に個別企業のIoTへの姿勢が前のめりになっているのもいい傾向です。東急系のケーブルテレビなどを運営するイッツコムが提供する、住宅向けのスマートホームサービス「インテリジェントホーム」、KDDIは住宅向けIoTサービス「au HOME」がそれぞれ「Google Home」との連携を発表したり、できることを追加することで、より導入するための間口を広げました。
住設系のメーカーLIXILの提案も非常に期待の持てるIoTサービスです。スマートスピーカーやスマートフォンで、家電やHEMS機器、さらには同社の建材、住宅設備機器までをトータルに操るシステムを紹介しています。スマートスピーカーの音声操作をトリガーにシームレスに家電の操作が連動されるもので、外出時に「OK,Google or Alexa、いってきます」と言えば、家中のエアコンや照明が消えたり、帰宅時に子供の帰宅時に玄関の開閉に合わせて、カメラが連動し、親のスマホに動画付きのメールが届くといったもの。これが実現されるとなると、一般の人にとっても非常に利便性が高く、実用性も高まるのは間違いありません。
家電メーカーやITメーカー発のIoTに関する動きばかり見ていましたが、一方、さらに活発になるのが、家電メーカー以外から作り出される家電的なIoTアイテムではないでしょうか? 例えばわかりやすいところだと、2017年にそれぞれ発表された資生堂の「Optune」(IoTスキンケアシステム)やZOZOTOWNの「ZOZOSUIT」(採寸ボディスーツ)などがそれです。
写真(滝田氏提供):資生堂の「Optune」
そういった動きは国外では一足先に活発に行われており、すでにアメリカではシリコンバレー発の元アップルエンジニアが立ち上げたJuneという新興企業が「Intelligent Oven」という、特定の食品を識別して自動的に調理するためのカメラと顔認識技術が搭載したオーブンを発売しています。
これらは実は商売になるという企業的な理念以上に、個人の“あったらいいな”と思う気持ちが原動力となっているように感じます。2018年はおそらくこのような、“あったらいいな”という、より小慣れたIoTアイテムが数多く出てくるでしょう。
かつてはメーカーでないと家電なんて作れない時代でしたが、今は誰でも、かつファブレスで家電を作れる時代になりました。逆に大手家電メーカーにもかかわらず、家電ではない分野に収益エンジンを求めようとする動きも出てきているなど、まさにボーダレスな環境。だからこそ、このように自由な発想で多くの“あったらいい”IoT家電が2018年は数多く出てくることに期待しています。