本連載では、企業のデジタルトランスフォーメーションを支え、革新に挑戦する「Trailblazer(トレイルブレイザー:先駆者)」を紹介しています。第6回目となる今回、お話しを伺ったのはNTTテクノクロス株式会社でSalesforceエバンジェリストとして活躍する鈴木 貞弘氏です。今年2017年に発足した同社は、NTTソフトウェア株式会社を前身に、グループ企業であるNTTアイティ株式会社とNTTアドバンステクノロジ株式会社の映像・音声のメディア系事業を統合し、AIやIoTなどの技術を活用した先進的なソリューション・サービスを提供しています。NTTソフトウェア時代の2006年という早い時期からSalesforceの導入支援サービスを提供する同社は、現在グループ内でSalesforce導入実績No.1 、Salesforce技術者数もトップクラスを誇っています。
Salesforce事業の立ち上げ時から参画する鈴木氏は、Salesforceエバンジェリストとしてブログサイト「“Salesforceの匠に聞け!”」での情報提供やSalesforceのユーザーグループ、コミュニティでも積極的に活動。Salesforceのオンライン コミュニティである Trailblazer Communityの「CRMコミュニティ (旧サクセスコミュニティ)」の醸成を担った立役者であり、2016には「Trailblazer Award」、2017年にはシステム管理者として日本初の「Salesforce MVP」を受賞されています。今回は、幅広いフィールドで活躍される鈴木氏にSalesforce システム管理者の役割、次世代を担うシステム管理者の在り方などを伺いました。
(NTTテクノクロス株式会社 ビジネスソリューション事業部 iPaaSビジネス推進担当
アシスタントマネージャー/Salesforceエバンジェリスト 鈴木 貞弘氏)
せっかくSalesforceを導入しても、使わなければ宝の持ち腐れ。だからこそ、システム管理者が果たす役割は重要です。システム管理者は、運用や管理だけでなく、企業のシステムの定着化を成功させ、ビジネスの成果につなげるためのアドバイザーとしての役割も担います。こうした経験に加え、Salesforce導入支援を行うコンサルタントでもある鈴木氏は、その知識や実績を活かした情報発信で、コミュニティでも一目置かれる存在です。そんな鈴木氏ですが、実はSalesforceの第一印象は「使えないシステム」だったと言います。
「当社の前身となるNTTソフトウェアは、2003年に日本で初めて100ライセンスを超えるSalesforce導入を果たしたユーザー企業でもあります。ユーザーとしての当時の感想は“なんて使えないシステム”でした。というのも営業支援システムとして導入されたSalesforceでしたが、機能に営業案件をまとめて入力する機能が備わっていないなど“現実にそぐわない使い勝手”に当初は反発を覚えました」
入社以来ECサイトの構築を皮切りにCRMシステム、コンタクトセンターの構築などに従事していた鈴木氏。その後CRMに知見のあったことから、Salesforceのシステム管理者に抜擢されます。そこからSalesforceへの印象は様変わりしたと鈴木氏は当時を振り返ります。
「システム管理者としてシステムのカスタマイズに着手すると、パーツとパーツを組み合わせるだけで簡単に実現できる。パッケージやオンプレミスのように一から設計してカスタマイズを進めた場合、気が付けば1年経っていたというのはよくある話です。しかし、1年もかかっては現場の要望も変わります。Salesforceなら、ユーザーの声をアジャイルに反映できる。このシステムは時代を変えるのではないかと衝撃を受けました」
「使いづらいと感じたのは、そもそもユーザーの声を反映させるため。改善のスキームを整えさえすれば、自在にシステムを変化させていける」
そのことに気が付いたときに、鈴木氏はSalesforceのファンになっていたと言います。
Salesforceのシステム管理者を引き受けたのは「単に新しいものが好きで、経験すれば自分のスキルにもなるはず」との単純な思いだったと鈴木氏は笑いますが、その選択の正しさは今ITの前提が大きく変化する中でより明確に感じられるそうです。
「情報システム部門がコストセンターと言われた時代は終わります。ITが企業のビジネス成長に直結する今の時代では、もはやプロフィット部門になります。これからのシステム管理者は、自社のビジネス展開を考えて“現況システムにこういった機能があれば、どのように現場にメリットがあり、ひいてはビジネスにこう影響していく”といったストーリー作り、ビジネスコンセプト作りにまで足を踏み入れることになるでしょう」
ただし、こうしたシステム管理者になるためには、「2つのコミュニケーション」が欠かせないと鈴木氏は説明します。
「今のシステム管理者には、スキルもさることながら、内部と外部の2つのコミュニケーションこそが重要だと考えます。内部のコミュニケーションというのは、システムの課題をユーザーと落とし込むためのもの。“この機能が欲しい”と言われて“分かりました”と単に答えるのではなく、機能を超えたその先を考える力が必要です。その機能が欲しい理由や本当に機能が必要なのか、たとえば運用でカバーできるものなのか。ユーザーとのコミュニケーションから探り出し、最適なシステムを描かなければなりません」
同社では今年7月に、Salesforce Classicから「Lightning Experience」への移行を実施しました。この際も、現場とのコミュニケーションを入念に行ったと言います。
「Lightning Experienceへの移行は、新たなシステムを導入するイメージに近いものがあります。使い慣れたインターフェースが変わることへの不満の声やSalesforce Classicで使っていた機能がLightning Experienceにはないなどの課題もありました。しかしSFAとして利用している当社では新たなパス機能やリッチになるグラフィックに期待をしていましたし、今後の新機能を活用していく上でも移行は重要です。そこで、代替できる機能を探したり、使っていない機能を整理し、現場とすり合わせながら移管を進めています。定着化のために、教育に時間をかけたこともあり反応は上々です」
そして、もう1つのポイントが「外部に向けたコミュニケーション」であり、技術の最新情報を得るアンテナを広げ、有識者から情報を集めるスキーム構築が重要だと鈴木氏は解説します。
「Salesforceではユーザー会もあり、Webセミナーや最新機能の資料が集約され、さらに技術的な質問ができる“CRMコミュニティ”はまさに情報の宝庫だと思いました。ただし、残念なことに私がこのコミュニティに参加した際には、まだまだユーザー同士のコミュニケーションは活発ではありませんでした。」
そこで鈴木氏は、Salesforce活用のスペシャリストとして登壇する講演や自身のブログでCRMコミュニティのメリットを説き、有識者として可能な限り質問にも答え続けました。その甲斐あって現在では、CRMコミュニティ参加者は5000人を超え、質問があがれば5分以内にはパワーユーザーが返答するほど活性化しています。
「質問に回答する際の私なりの工夫は、すべての手順を書かないこと。手順を書いてしまうと、課題は解決してもその先の活用につながりにくい。Salesforceはアイデアを自在に形にできるシステム。手を動かして作りあげていく楽しみを多くの方に知っていただけたらとの思いからです」
さらに鈴木氏は、Trailhead※1も積極的に活用しています。同社では、Salesforceエンジニアの育成にも力を入れており、メンバーは年度初めに資格取得の目標設定を行います。その際に、資格取得に有効と思われるTrailheadのモジュールを鈴木氏が選び、バッジ取得状況などを試験に臨む際のバロメーターとして活用しています。
「Trailheadが公開されてからは、資格の取得率が3~4倍のペースで向上しています。教育段階でメンバーの理解力を把握するのがなかなか難しかったのですが、Trailheadの場合はバッジの取得が理解力の指標になります。メンバーを一か所に集めての研修は、学ぶ方も教える方も手間がかかっていましたが、効率化しつつ成果をあげられました」
ユーザー会や、コミュニティ、そしてTrailheadと仕組みが揃い、柔軟なシステム構築が行えるSalesforceとの出会いは、まさに「人生を変える出会い」だったと鈴木氏は強調します。
「業種・業態の壁を越え数多くのユーザーの方々と出会えたことが何よりの財産です。パートナーとしてお客様へのSalesforceの展開も、自社のシステムへの反映もすべてが好循環でつながってきます。新しい時代のニーズに適したソリューションを組み合わせた展開にも多くの情報交換が生き、アイデアを広げていけることを実感しています」
鈴木氏は、コミュニティの活動でもただ情報を提供しているだけでなく、自身も学び続けていると言います。質問に回答する中で、日々新たな課題を認識して学びながらフィードバックをしているそうです。
「一方通行ではない、大きな循環の輪の中に自分がいることを感じています。日本人はどうしても保守的な面があります。ですが、システム管理者は挑戦を恐れてはいけないと思います。1%でもシステムを変えるメリットがあるなら挑戦すべき。そのためには情報を得られるチャネルを増やし、新たな風を自分の中に吹き込むことが必要です。そしてその風をまた誰かにフィードバックする。そうした循環の輪がSalesforceに備わっていることが魅力であり、みなさんに輪の中に入ってきていただきたいと思います」
(写真:Salesforceコミュニティの仲間たちと。写真中央が鈴木氏)
今後、地方のユーザー会の活性化にも力を入れたいと語る鈴木氏。その視点は個人や自社のメリットのみならず、システム管理者の活躍の場の広がりやシステムを通じた日本の活性化に照準を合わせています。
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