「Salesforce World Tour Tokyo 2017」の各セッションをレポートする本連載。今回は初日冒頭に行われたパネルディスカッション「顧客の時代 - The Age of the Customer -」の概要をお届けします。

まずセールスフォース・ドットコム 代表取締役会長 兼 社長の小出 伸一が登壇して挨拶。

今回のテーマが「顧客の時代におけるイノベーション」であることを述べ、パネルディスカッションをスタートさせました。パネリストとしては、株式会社セブン&アイ・ホールディングス 代表取締役社長の井阪 隆一氏、NTT コミュニケーションズ株式会社 代表取締役社長の庄司 哲也氏、ネットイヤーグループ株式会社 代表取締役 兼 CEO の石黒 不二代氏が登壇。コーディネーターはTime Inc. 国際担当編集長のクレイ・チャンドラー氏が務めました。

(画像:写真左から、チャンドラー氏、セブン&アイ・ホールディングス井阪氏、ネットイヤーグループ石黒氏、NTT コミュニケーションズ庄司氏)

顧客情報の収集・活用を推進するセブン&アイ・ホールディングス

チャンドラー氏は最初に、小売業における変化について井阪氏に質問。これに対して井阪氏は「お客様がモバイル端末を見て買い物する時代になっており、リアル店舗の会社もこれにしっかりと対応しなければならないと肝に命じています」と返答。そしてネット企業との技術格差が広がりつつある中、顧客にキャッチアップするためには2 つのポイントを押さえる必要があると説明します。

1 つは店頭におけるデジタルリューションをどのように育てていくか。セブンイレブンでは、接客のための端末を店頭に設置する他、RFID による検品の自動化や、決済の簡便化などに取り組んでいると語ります。もう1 つは顧客のデータをどのように集め、それをいかにして有効活用するか。リアル店舗で行われるフェイス トゥ フェイスの接客では顧客の情報を取得することは難しく、アプリなどで情報提供を行いながら、顧客の情報を集めていく必要があると指摘します。

「すでに電子マネーなどで購買情報を取得していますが、個々のお客様と直接紐付けられるわけではないため、十分な活用が行えていないという状況です。そこでお客様とつながるツールの第一弾を、2018 年春にリリースする計画です。お客様の情報を積極的に活用するために、IT を仕事にしている皆さまからもお知恵を拝借し、勉強していきたいと考えています」。

(画像:セブン&アイ・ホールディングス井阪氏)

NTT コミュニケーションズでは2 つのレイヤーでの取り組みを加速

次にチャンドラー氏は庄司氏に対し、「『If everything seems under control, you‘re not going fast enough.(もしすべてがうまくコントロールされているように見えるなら、まだスピードが足りない)』という、レーシングドライバーのマリオ アンドレッティの言葉を座右の銘にしているそうですね」と尋ねたのに対して、庄司氏は、

「ITを取り巻く環境にあっては技術革新が激しく、しかもその成長も目覚ましく、例えば、全世界のインターネットのトラフィックは年率30%を超える伸びを示しています。この上で、さまざまなビジネスイノベーションや、デジタルトランスフォーメーションが次々と起きているのです。ここで取り残されないようにするには、私達自身が変化への対応をスピードアップしていかなければなりません。だからこそこの言葉を肝に銘じ、常に自問自答しているのです。」

そして変化への取り組みにおいて、重視していることが2 つあると説明します。その1 つがインフラレイヤーのサービス品質の拡充であり、自然災害等にも強靭に耐え、セキュリティも確固たるものにすることで、より安心で信頼されるものにしていこうと考えていると解説します。

もう1 つはこのインフラの上で提供される「Software Defined」なソリューションの提供。

これらの分野ではセールスフォース・ドットコムとも協力しながら取り組みを進めていることに言及します。

(画像:NTT コミュニケーションズ庄司氏)

ネットイヤーが顧客体験向上で重視するのは商品全体のデザイン

さらにチャンドラー氏は石黒氏に、ビジネスを成長させるための指針について質問。ユーザーエクスペリエンス(UX)をベースに顧客とのエンゲージメントを強化している、ネットイヤーグループのビジョンを聞き出していきます。

「UX は米国のCEO がよく使う言葉ですが、最高のUX を提供することは、デジタル時代において極めて重要なコンセプトだといえます」と石黒氏。同社は法人を対象にしたB2Bのビジネスを展開していますが、顧客のビジネスを成功させるためにも、その先にいる顧客(顧客の顧客)の体験を最高なものにすることが大切なのだと語ります。「お客様は好きなブランドから好きな情報が届けられることを望んでいます。これを行うことが企業のミッションであり、そのためにはお客様の情報とそれを活かすシステムが必要です」。

そしてネットイヤーグループの具体的な取り組みについて、次のように説明します。

「私たちはまず、典型的なお客様をペルソナとして設定するところからスタートします。

これは『女性』『30 歳代』『既婚』『子供なし』『共働き』などなど、きめ細かい属性にもとづく深いレベルのペルソナです。そしてその人が、何を考えて買い物をするのかを想定しながらデータを集め、カスタマージャーニーを作り上げていくのです」。

ここで重要なのが、顧客にとっての機能やわかりやすさに配慮した、商品全体のデザインであると指摘。日本の企業は丁寧な接客を行うことが「おもてなし」だと考える傾向がありますが、重要なのはそこではなく、商品全体を通して顧客の体験を高めていくことなのだといいます。「日本人はデザインをアートのように捉えていますが、お客様のデータに基づいて論理的にシナリオを設計していくことこそが、本来のデザインです。しかし日本人は勤勉なので、いったんデータを集め始めれば、品質保証と同じように積極な取り組みを進めていくはずです」。

このように各社のビジョンや取り組みを聞き出した後、議論はさらに白熱。さまざまな方向へと広がっていきました。

(画像:ネットイヤーグループ石黒氏)

日本と米国とで異なるカスタマージャーニーへのアプローチ

「ところでAmazon がWhole Foods Market を買収しましたが、これについてどう考えますか」とチャンドラー氏。この質問に対して井阪氏は「いい戦略だと思います」と返答し、セブン&アイ・ホールディングスもアスクルや西濃運輸とアライアンスを組み、店舗から顧客までの「ラストワンマイル」を埋める努力をしていると語ります。石黒氏も「それは素晴らしい取り組みです」と述べ、「Amazon はネットから、セブン&アイは実店舗からのアプローチですが、いずれもカスタマージャーニーの変革に取り組んでいます。セブン&アイにとって2 万を超える店舗を持っていることは大きな資産であり、これを活かすことがオンラインで勝つ決め手になるのではないでしょうか」と指摘します。

またAmazon とセブン&アイ・ホールディングスのアプローチの違いについて、「米国と日本の国土の広さの違いも背景にあると考えられます」と庄司氏は指摘します。近くに便利な有人店舗が在る日本と異なり、米国は国土が広くリアルな店舗が必ずしも至便なところにあ

るわけではないため、日本よりも早くEC が発展した可能性がある、と説明します。

「これと同じことは、IT 業界でも起きています。日本は使い心地のいいオンプレミスシステムが存在していたため、日本でのクラウド活用は米国に比べて遅れていたかもしれません。

しかし最近ではクラウドの利便性が理解されるようになり、セブン&アイの取り組みと同様にハイブリッド型へのシフトが進みつつあります」。

これに続いてチャンドラー氏は、災害対策におけるクラウドの役割について質問。井阪氏は「独自のシステムでは確かに迅速な復旧困難であり、Salesforce のようなクラウドならより堅牢なシステムになるはずです」と答え、庄司氏も「東日本大震災により、自治体で住民

情報が失われてしまった事例があり、クラウドを活用して補完的に管理するという動きが広がっています」と答えます。

テクノロジー活用の広がりは女性にとって有利

チャンドラー氏はここで話題を変え、テクノロジーと女性の関係について、女性経営者である石黒氏に問いかけます。

「女性はテクノロジーに弱いという意見もありますが、決してそういうことはありません」

と石黒氏。女性に必要なのは知識やスキルよりも自信を持つことであり、自信のなさが自らのキャリアパスを制約しているのだと指摘します。「例えば米国の会社で欠員が出たときに行われる社内募集では、男性はその要件の60%程度の能力でも応募するのに対し、女性

は100%満たしていないと応募できないと思い込む傾向があります。しかし女性も好きなことをどんどんやるべきです。デジタルマーケティングが進んでいけば、成果は数字で表されるようになるため、性別によるバイアスもなくなります。テクノロジー活用が進むことは、女性にとって間違いなく有利に働くと考えています」。

さらにチャンドラー氏は、庄司氏と井阪氏にグローバル展開について質問。これについて庄司氏は、近年加速しているインドでのデータセンター展開などを説明。井阪氏は中国のパートナーと、購入頻度が高いものをいかにして安心・安全に届けていくかについて、話し合いを進めていると語ります。

最後に再び小出が登壇し、素晴らしいディスカッションに対して感謝の意を示すと共に、「企業と安心・安全につながっているかというアンケート調査に対し、77%がまだつながっていないと回答しています」というデータを紹介。企業側も顧客データを1%も活用できていないといデータもあると指摘します。

「このギャップをいかに埋めていくかが、これからの重要な差別化戦略になるはずです」と小出。「セールスフォース・ドットコムもこれをぜひお手伝いしたいと考えています」。

(画像:セールスフォース・ドットコム日本法人代表小出)