いつもはSalesforceもしくはIT業界から見た関連記事を掲載しておりますが、今後各業界に精通した方・メディアと連携して、新たな切り口で記事をお届けしていきます。第一弾は、家電スペシャリストの滝田勝紀氏による「家電業界」に関する連載です。ぜひご覧ください。(連載Vol.1はこちら


世界最大の家電見本市

IFAの最新事例に学ぶ、“IoT”の利用法

9月の初旬、私はコンシューマ・エレクトロニクス&ホーム・アプライアンス業界における世界最大の見本市「IFA 2017」取材のため、ドイツの首都ベルリンを訪れました。一応、ご存知のない方のために説明いたしますと、「IFA」とはドイツ語で“Internationale Funkausstellung(国際ラジオ展)”の略称。

1924年に開催された「第1回 大ドイツ放送展」というのが前身。約90年以上に渡る展示会としての長い歴史を誇り、デジタル家電はもちろん、2008年からは白物家電「IFA Home Appliances」も世界的なプラットフォームとして定着。エレクトロニクス業界の新製品お披露目の場として注目を集めています。

(写真:毎年「IFA」が開催されている会場が「メッセベルリン」。26の連結された展示会場は160,000㎡の展示用空間を提供。さらに屋外にも100,000㎡の空間があり、ヨーロッパ最大と言っても過言ではないコンベンションホールだ。)

2012年から毎年欠かすことなく訪れている筆者にとっては、言うまでもなく、「IFA」は世界の家電業界のトレンド潮流や次のキーワードを知るのにもっとも重要な場です。そんな今年の「IFA 2017」で最大のトレンドキーワードはズバリ“Connected”。つまり、IoT技術により、いかに多くの家電が繋がり、人々に便利な生活を届けられるかを、多くのグローバル家電メーカーが競い合って表明していました。

ここでは「IFA 2017」で特に巨大なブースを展開していた欧州のグローバル家電メーカー、アジアのグローバル家電メーカーに焦点をあて、日本企業の参考になる内容を、メーカーブースへの取材から読み取って記して参ります。

まずはお膝元であるドイツの各グローバル家電メーカー「ボッシュ」「シーメンス」、さらには隣国オランダの「フィリップス」など、欧州で数年前からIoTを積極的に取り入れているメーカーの動向をお伝えします。

「ボッシュ」はスマートホームプラットホーム「Bosch Smart Home」と家電のコネクトを主に展開する「Home Connect」の2つの“Connected”を展示。主に「Bosch Smart Home」は防犯面、例えば、窓の開閉や侵入者を検知するセンサー、360度撮影に対応するセキュリティカメラなどとつながっており、すでに欧州ではサービスを開始しているものを紹介していました。そして「Home Connect」はタブレットやスマートフォンから、家中の家電を動かせる利便性をアピール。例えばインカメラを搭載した冷蔵庫の中身が屋外から見られたり、オーブンやエスプレッソマシン、食洗機などのキッチン家電、さらに洗濯機や乾燥機などの家事家電を、それぞれ遠隔操作できることなどをデモ展示していました。

(写真:「ボッシュ」の「Home Connect」のアプリ画面。コーヒーメーカー、IHクッキングヒーター、冷蔵庫、食洗機などが全てアプリの画面で一括管理可能。)

さらにAI搭載のスマートスピーカー「Amazon Echo」もその「Home Connect」とスムーズに連携させることで、それら家電の操作をスマートフォンやタブレットを使用しなくても、スマートスピーカーに話しかけるだけでコントロールできるとアピール。また、無機質なスマートスピーカーに話しかけづらいという人のために、同社は昨年に引き続き、自社のAI搭載スマートスピーカー「Mykie」を展示。表情豊かなAI搭載ロボットスピーカーを置くことで、より家電や家自体と対話しやすい住空間を作り上げることも視野に開発を進めていました。

(写真:愛らしい表情をしている「Mykie」だと無機質なAI搭載スマートスピーカーと比べ話しやすいのは明らかだ。)

続いて、同じドイツの総合家電メーカー「シーメンス」。こちらも“Connected World”という一歩未来を感じさせるIoTブースを大々的に展開。もっとも目を引いたのが端末にスマートフォンの代わりに、クルマを用いて展示したこと。そのクルマとはEVで世界的に有名なテスラ「モデルS」。ご存知かと思いますが、テスラ「モデルS」「モデルX」といった車両のセンターコンソール部分には、17インチの大画面が搭載されていて、車両自体の制御やナビゲーション画面に使用しています。

(写真:テスラ「モデルS」が存在感を放っていた「シーメンス」の“Connected World”ブース。壁側には自宅にあると想定されるオーブンレンジや冷蔵庫などが並んでいて、それらを車内から自在に動かせる。)

その大画面に「シーメンス」の専用アプリ「Home Connect」をインストール。車から家中の家電を動かせるという革新的な家電コントロールの方法を展示していました。そもそもなぜクルマで家電を動かす必要があるのか? それは欧州や米国などではクルマ移動を主とする人も多く、それらの人々が道中、例えば買い物をしたい場合は、冷蔵庫内にどんな食材が入っていたかを車を通じて、庫内カメラから様子を知ることができれば便利ですし、買い物をして食材を揃えた後、あらかじめオーブンの予熱準備をしておけば、車で帰宅後、すぐに調理に移れるなど、家事の時間を短縮し、そのぶん余った時間を家族などとの有意義な時間に使えるからとのことでした。自動運転が今後発展進化していく中で、このクルマを端末にしたスマートホームコントロールは主流になっていくかもしれないと感じさせられました。

(写真:ガレージや家の鍵、温度管理、オーブンやコーヒーメーカーや各部屋の照明などを全て車で管理できる。もはや車が家自体のリモコンだ。)

また、さらに未来のIoT展示として注目したのが、冷蔵庫内のインカメラで保存しているものを自動検知。正しい保存場所へ整理導くということが可能になるというもの。例えば通常の冷蔵庫内に人参などが置いてある場合は野菜室へ、魚やチーズなどが置いてある場合にはチルド室へと行った具合に、入れた直後に冷蔵庫自身がカメラを使ってモノを把握し、それらを正しく保存させることで、より長期にわたって、食材を保持することができることは、非常に画期的かつ実用的だと思いました。

さらに、昨年あたりからグローバル総合家電メーカーから、デジタルヘルスケアのプラットフォーマーに脱皮を図ろうとしているようにみえるのが、オランダの「フィリップス」。昨年に引き続き、IoTを使用したデジタルヘルスケア展示にさらに傾注していたのが印象的でした。

(写真:一般公開されたフィリップスブースは多くの来場客でごった返していた。)

“Make Life Better”というスローガンを掲げ、生活のあらゆる場面をよりよくするという目的の元、特に画期的だと思ったのが、赤ちゃん用の体温計、哺乳瓶、搾乳機、床面に近い空気を特にきれいにする赤ちゃん用の空気清浄機などがIoT化され、すでに実用レベルで展示されていたところ。専用アプリ「uGrow」によって、各IoT機器から得たデータを集約、赤ちゃんの子育てに関する行動パターン、例えばいつミルクをどのぐらいの量あげたか、1日数回測る赤ちゃんの体温はどのような推移を辿っているかなどを、時系列的に管理できるように実現しているのは驚きでした。

(写真:フィリップスの赤ちゃん用IoTプロダクトAVENTシリーズ。上部の哺乳瓶自体は一般的なものだが、下部のユニットを接続することでスマホとBluetooth接続できたりデータ転送が可能に。)

(写真:AVENTシリーズの体温計。耳に入れて測るタイプだ。)

そして最も驚いたのが、これら「uGrow」で管理収集されたデータを、クラウド経由で医療機関と繋いでしまうという試み。例えばお母さんがデータを収集したとしても、現状、その対策まで自ら打ちだせる人は少ない。一方、赤ちゃんが病気などにかかった時、それまで日々繰り返し測っていた体温の推移やミルクを飲ませているパターンなどを小児科医と共有できれば、赤ちゃんの健康状態の変化を小児科医がデータから読み取り、より適切な治療やアドバイスを施すことができるというものです。

(写真:専用アプリ「uGrow」の画面。赤ちゃんの名前を登録することで双子でも年子でも、複数人でも同時に管理できるという。また、当然スマートスピーカー「Amazon Echo」とも連携している。)

また、これらのIoT機器を数多くのスマートスピーカーやアシスタントとつなげてしまおうとするのがフィリップスの凄さでしょう。LED照明である「Hue」で連携しているプラットフォーム名を見てみると、「Amazon Alexa」「Apple HomeKit」「Google Assistant」、マイクロソフトの「Smart things」などの名前も上がるなど、その先に世界中どんなプラットフォームが主流になったとしても、自分たちの照明やシステムが使えるようにしようとする下地を作っているのがよくわかります。これはおそらくデジタルヘルスケアの側面でも同じで、あらゆる人種の“ゆりかごから棺桶”まで、世界中の人の健康データをリアルタイムで集めることで、世界中からヘルスケアに関するデータを集め、ビジネスにしようという意気込みが伝わってきます。

(写真:フィリップスのプレスカンファレンスでも多くのプラットフォームと「Hue」が連携するというのをアピールしていた。)

続いて、アジアで積極的にIoT家電をすでに発売し始めているメーカーの動きを探ります。お隣韓国の二大総合家電メーカー「サムスン」と「LG」、さらには白物家電における世界No.1シェアを誇る「ハイアール」などが、今回のブースでは“Connected”に関して、ホットな展示をしていました。

この三社の共通点を先に挙げておきますと、いずれも24時間通電する冷蔵庫を、家庭内のハブ端末として使用し、スマートホーム化を目指そうとしているところ。三社とも欧州などで使用される左右扉の巨大なフレンチドア(観音開き)冷蔵庫の片側に大画面液晶を搭載。そこに各社独自のOS、Android OS、Windows OSなど、何を載せるかで差別化を図ってはいるものの、その先にできることは、ありとあらゆる家電と接続して、それらを制御したり、アマゾンや各ローカルのECサイトなどからダイレクトに食材を購入できたりといった利便性を享受しようとする動きは、ほぼ共通していました。

(写真:大画面液晶を搭載した冷蔵庫がもはや標準のスタイルと思われるほど、数多くのメーカーがIoTのハブとして冷蔵庫を利用していた。)

その中で各社の違いを見ていくと、まずは「サムスン」が独自のAIボイスアシスタント「Bixby(ビグスビー)」を採用しているところです。同社のスマートフォンのGalaxy S8/S8+、8月末に発表されたばかりのGalaxy Note 8などに搭載し、あらゆる家電を声で操作できる利便性をアピール。例えば毎日行うパターン化された動作、車で帰宅したら照明をつけて、その後部屋に入ったらテレビをオンするといったものをあらかじめ登録でき、それらの微調整は音声で簡単に行なえるというもの。

(写真:「サムスン」はキッチンのIOTハブ冷蔵庫だけでなく、リビングや玄関、ガレージなどのIoTデモンストレーションも行なっていた。)

こちらは同社専用の「Samsung Connect」アプリをダウンロードすれば使えるようになるほか、同社もボードメンバーとして開発に参加するIoTのオープン規格「OCF(Open Connectivity Foundation)」に加盟するメーカーの家電であれば、同社の家電じゃなくてもシームレスに使えるよう開発が進められているようにしているところにも注目したいところ。

また、スマートホームのハブ端末である冷蔵庫は独自の「Tizen OS」で開発。音声操作に対して、料理のレシピを表示して読み上げたり、Spotifyで音楽を再生したり、Galaxyシリーズのメモアプリを家族のコミュニケーションツールとして使える機能などが紹介されていました。ただ、今年のIFAで各社のブースに“Connected”の象徴のように置かれていた「Google Home」や「Amazon Echo」が一切にブース内に置かれていなかったのも印象的でした。これは独自のAIボイスアシスタント「Bixby(ビグスビー)」に対する、同社の自信の表れなのかもしれません。

続いて、同じ韓国の「LG」は真逆のアプローチで、数年前から独自のプラットフォーム「SmartThinQ」を採用すると同時に、その中心にスマートスピーカー「SmartThinQ Hub」を配置。こちらはSmartThinQのプラットフォームにつながるIoTデバイスを音声操作したり、音楽ストリーミングの再生などにも対応しています。さらに「Google Home」や「Amazon Echo」との連携もアピールするほか、AI搭載のロボット型アシスタントもコンセプト展示。より間口を広げた状態でIoTの世界を表現しているところが印象的でした。

(写真:上段に置かれているのがAI搭載のロボット型アシスタント、下段のメタリックの竹筒のようなものがスマートスピーカー「SmartThinQ Hub」。)

スマートホームのハブ端末である冷蔵庫は独自の「OS」と「Windows OS」の2つのタイプを展示。すでにWindows 10を搭載するモデルは韓国国内で販売が始まっているとのことでした。タッチ液晶ディスプレイは透過型で、音声操作、もしくはタブレット感覚で「SmartThinQ」につながっている家電を操作できます。例えば家中の照明をオンオフできたり、オーブンを予熱できたり、子供部屋の空気清浄機を動かしたり、食洗機の状態や洗浄にかかる残り時間がわかったり、Netflixを視聴したり、SportifyをBGMに料理したり、リラックスしながら家中を制御することも可能です。

(写真:「LG」のSmartThinQに接続できる独自OS搭載冷蔵庫。With OCFとあるように、「LG」の家電以外でもコネクトして管理制御することができる。)

さらに「サムスン」同様、「OCF(Open Connectivity Foundation)」に加盟しているため、幅広いメーカーの家電ともシームレスにつなげるほか、これまで購入した家電でIoT化されていない家電を簡易的にIoT化できるアダプターユニットなども用意することで、より多くの人にハードルを下げた形でIoTの利便性を体験してもらおうという同社の姿勢も好印象でした。

また、中国の総合家電メーカーの「ハイアール」も上記2社と同様に幅広い層に向け、同社のIoTプラットフォームとして冷蔵庫を起点に使用できるような世界観を伝えていましたが、これは2015年、当時のハイアール・アジアが日本で発表した液晶搭載冷蔵庫「DIGI」に見る世界観そのものが、現実になったものと言っても過言ではありません。

(写真:ハイアールの冷蔵庫はLINK COOK SERIESとして、ボイスアシスタントに「Amazon Alexa」を採用し、直接「Amazon Fresh」から野菜や果物、鮮魚などを音声操作で購入できることをアピールしていた。)

実際にプラットフォームに接続された家電が動かせるだけでなく、食生活や家族のコミュニケーションの中心として冷蔵庫を活用したり、冷蔵庫内にある食品を一覧表示し、それらを基に作れるレシピを検索して表示。卵がなくなりそうな場合、アマゾン経由で注文することも可能。子供が帰宅したら、お母さんからの伝言メッセージを動画で確認できる……など、そんなワクワク感を感じさせるものでした。

時代は変わりました。猫も杓子もビッグデータです。グローバルスタンダードでトップを目指す企業は、消費者ニーズからダイレクトにビジネスにつなげるプラットフォームづくりに躍起になっています。AppleはスマートフォンやiTunes、iCloudなどを軸に、Googleはインターネット検索という情報取得を軸に、Amazonはインターネット上での小売りを軸に、それぞれエコシステムを形成。各分野のビッグデータを集約するプラットフォームを構築しています。さらに、とうとうと言うべきか10月に日本に「Google Home」が上陸し、「Amazon Echo」も年内には上陸するとすでに表明されています。

こと“Connected”目線で見ると、日本メーカーが世界から学べる点は非常に多いと思っています。かつて世界の先端を走っていたはずの携帯電話市場の二の舞にならないように、柔軟な発想で、かつスピードを重視して、IoTを取り入れていくことの重要性を、今年のIFAを見て改めて痛感させられました。