「Salesforce World Tour Tokyo 2017」の中でも注目を集めたセッションの1つが「The Age of AI(人工知能)」と題したスペシャル対談。世界的ビジネス誌「FORTUNE」の東京編集局アジア・エディターとして活躍するクレイ・チャンドラー氏の進行のもと、ビズリーチ代表取締役社長の南 壮一郎氏、ABEJA代表取締役社長CEOの岡田 陽介氏、そして米国セールスフォース・ドットコムChief Scientistのリチャード・ソーチャーが、AIビジネスの可能性と未来について熱く語り合いました。そのダイジェストをレポートします。(基調講演のレポートはこちら

AI機能「Einstein」がさらに進化

データベースを知能化する

AIの進化には目を見張るものがあります。音声認識や深層学習の発展により、技術的ブレークスルーを迎えたAIは言語理解力を飛躍的に高め、非構造化データも読解します。その能力は人に肉薄しています。AIの活用でビジネスはどのように変わるのか――。進行を務めるクレイ・チャンドラー氏の問いかけに対し、口火を切ったのが米国セールスフォース・ドットコムのリチャード・ソーチャーです。

「SalesforceはCRMをはじめとするクラウドのプラットフォーム上で、機械学習によるAI機能『Einstein』を提供しています。ソーシャルやコミュニティの情報、入力したテキスト情報を理解し、膨大な情報の中から求めている“答え”を導き出します。お客様はシステムを構築することなく、AIをワークフローの中に取り込み、業務をどんどん効率化していけるのです」。

もちろん、AIの進化にも積極的に取り組んでいるとソーチャーは続けます。「Einsteinの中に、自然言語を自動でSQLのクエリに変換する機能を新たに実装しました。蓄積されたデータベースを、AIの知能として容易に取り込むことができるのです。データが増えれば、知能は高度化していき、より的確な“答え”を導き出します」。

“つなぐ”から“活用する”へ

戦略的な採用活動をAIでサポート

続いて発言したのは、ビズリーチの南 壮一郎氏です。同社は即戦力人材と企業を直接つなぐ「ダイレクトリクルーティングビジネス」で急成長を遂げ、利用企業数は全国約7,000社に上ります。「リクルーティングビジネスで大切なことは、企業と人材をミスマッチなく効果的につなぐこと。そのために企業内業務の要件定義、人材の知識・スキル・経験の評価にAIを活用しています」と南氏は述べます。

同社のAI活用はこれだけにとどまりません。求人情報の掲載から採用後の評価まで1つのプラットフォームで実現するサービスを開発しました。それが「HRMOS(ハーモス)採用管理」です。「企業が採用した人材が戦力として活躍していなければ、本当に効果的なマッチングとは言えません。HRMOS採用管理は採用後のデータもAIに取り込んで、企業内業務の要件定義と照らし合わせ、どのような資質やスキルを持った人材が適しているのかを分析・提案します」(南氏)。

具体的には求人情報を作成した段階で、100万人の会員の中からマッチングを図り、声を掛けるべき人材をリストアップします。求める人材の市場ニーズなどをもとに、適正な年収も自動予測します。AIによる傾向分析から、書類を自動判定することも可能だと言います。求人情報の作成からエージェントへの報告、面接の日程調整などの作業もシームレスに行えます。「“つなぐ”から“活用する”へ――。AIによる戦略的な採用活動が実現できる」と南氏は語ります。

IoTデータを収集・分析する

AIプラットフォームを提供

世界的なビジョナリーカンパニーを目指すABEJAも、AIビジネスで市場をリードしている1社です。同社はIoTによって収集・蓄積されたビックデータから、人の手を介さずそのデータの特徴を自動的に見つけ出す「特徴量抽出」を行う「ABEJA Platform」を提供しています。2012年の創業時より、国内のAI関連を専門とする大学教員陣と連携し、深層学習技術などの研究を進めています。提供するサービスで用いられる深層学習技術はすべて自社で開発しています。

「AIを事業に組み込む場合、『APIは誰が用意するのか』『分析のためのDWHをどうするか』『運用のハンドリングをどうしたらいいか』といった課題が大きなネックになりますが、ABEJA Platformならそうした心配は無用です。IoTデータの収集・蓄積から分析、予測までの機能を1つのプラットフォーム上で実現できます」と同社の岡田 陽介氏は話します。

たとえば、センサーデータをもとに店舗の動線解析を行い、顧客が「買う理由、買わない理由」を解き明かし、販売施策や棚割りの改善などに役立てることができると言います。「汎用性が高いので、さまざまな業務に適用できるほか、分析結果をロボットにフィードバックすることも可能です。AIの力をフルに活用して業務の自動化・省力化にも貢献できます」と岡田氏は強みを述べます。

AIはこれまでできなかったことをできるようにし、ビジネスを大きく変革していきます。「AIはカスタマー・エクスペリエンス(顧客経験価値)そのものを変えていく。それが競争力を高め、市場でのポジショニングをより強固なものにしていくのでしょう。3社の取り組みを通じて、そのことを強く認識しました」とチャンドラー氏は語ります。

AIは“魔法の箱”ではない

人が手を加え、育てていく

ただし、AIは“魔法の箱”ではありません。導入すれば、AIがすべて解決してくれるわけではないからです。人が手を加え、AIを育てていく作業が必要になります。大きな成果を上げるためには、どうすればいいのか――。チャンドラー氏の問いかけに対し、ソーチャーは次のように述べます。

「AIの活用には『データ』『アルゴリズム』『ワークフロー』という3つの視点が重要になります。分析のためのデータを集め、業務目線で分析のアルゴリズムを構築・改善していき、そして分析結果をワークフローと連携させていくのです」。

この意見に岡田氏も賛同します。なかでも重視するのが「データ」です。「そもそもデータがなければ、分析ができません。今はIoTの普及により、これまで取れなかったデータも取れるようになりました。まずデータを集め、タグを付けて整理・蓄積していく。それがAI活用の第一歩と言えるでしょう」と岡田氏は主張します。

それに加え、AIの得意分野を知ることも重要だと言います。「AIは人ではさばき切れない膨大な情報を読み解き、過去の成功体験をナレッジとして示してくれます。情報を探す作業を劇的に効率化し、人の判断をサポートするのがAIの得意分野。これを理解したうえで、どの業務に、どのようにAIを活用していくかを考えるべきです」と南氏は語ります。

AIは敵か味方か?

効率化の先にあるものとは

画面写真左より、クレイ・チャンドラー氏、当社Chief Scientist リチャード・ソーチャー

一方で、AIの活用を不安視する声も聞かれます。AIが人の仕事を奪ってしまうのではないかという危惧はその1つ。たとえば、コールセンターにAIチャットボットを導入すれば、顧客対応を自動化し、24時間365日のサービス提供が可能になります。そしてその導入に踏み切るコールセンターが増えつつあります。「将来的にはコールセンターに勤める45%の人が失職するとの予測もあります。こうした不安にさらされる人にとって、AIは脅威であり、敵になりかねないのではないでしょうか」。チャンドラー氏はこのような懸念を述べます。

しかし、それは杞憂に過ぎないと言います。「AIにより仕事がなくなるのではなく、効率が上がっていくと捉えるべきです。効率が上がれば、時間的な余裕が生まれます。その時間を使えば、これまでできなかったことにチャレンジできるようになります。失職するのではなく、人がやるべき業務が変わっていく。AIの活用が広がれば、むしろ新しい仕事が生まれる可能性が高まっていくでしょう」とソーチャーは力強く語ります。

AIは進化を続け、そのビジネス活用も広がりを見せています。競合に先んじるうえで、立ち止まることは許されません。「これからは効果の最大化に向けてAIをどう使うかという視点と、AIで何を変えていくのかという視点がより重みを増していきそうです。これを軸に据えて、人とAIが共存する社会を作る。それが明るい未来につながっていくことを実感できる有意義な内容でした」とチャンドラー氏は述べ、対談を総括しました。