「Salesforce Trailhead Live Tokyo」の講演をレポートでお届けしている本連載。本講演ではセールスフォース・ドットコムが考えるAIに対する姿勢を明らかにすると同時に、AIの技術ポイントとなる「機械学習」「深層学習」それぞれにSalesforce Einsteinがどのようにアプローチしているのかを解説。さらには、IBM Watsonとの戦略的パートナーシップと、昨年IBMの一員となった、クラウド・コンサルティングおよび実装サービスを行うBluewolf専門チームについてご紹介しました。
(写真左から:IBM浅野氏、セールスフォース・ドットコム御代)
まず講演冒頭、「セールスフォース・ドットコムが目指すのは“AIの民主化”であり“CRMのためのAI”」という印象的なメッセージが伝えられました。語ったのはセールスフォース・ドットコム プロダクトマーケティング シニアディレクターの御代 茂樹です。
「この数年間では10社以上のAI企業と提携やM&Aを重ねることで、優秀なデータサイエンティスト180名を有する体制を整えました」と御代は説明します。
その上で、御代が語ったのは「Einstein」という製品があるわけではなく、セールスフォース・ドットコムの提供するクラウドのPlatformの中にAIの機能を組み込んでいること。
「たとえば、予測によるリードスコアリングや、商談に関するインサイトが可能なSales Cloud Einsteinやインサイトの自動検出と優先度の設定などが行えるEinstein Analyticsなどすでに30以上の機能が登場しています」
もちろん、これら機能はセールスフォース・ドットコムらしく、CRMを最もスマートに実行できることが念頭に置かれています。またAIでは、データを大量に集める必要がありますが「Salesforceをご利用いただいていれば、すでに大量のデータが蓄積されています。そこにクラウドの強みを活かしIoTやSNSなどと連携していくことで、新しいカタチでお客様とつながる体験を構築します」と御代は説明しました。
(セールスフォース・ドットコム プロダクトマーケティング シニアディレクター 御代 茂樹)
続けて紹介されたのが、「機械学習」に対するEinsteinのアプローチです。「Einsteinの機械学習へのアプローチの大きなポイントは、“AIの自動化”」つまり、メタデータを自動で構造化する仕組みにあるのです。
従来のAIの機械学習では、「データのサンプリング」→「特徴選択」→「モデル選択」→「スコア調整」→「アプリケーションへの組み込み」といった非常に長いアプローチにデータサイエンティストが時間をかけていました。「Einsteinでは、このステップを非常に簡単にかつ自動化を可能にしました」と言います。
「データのサンプリングから特徴選択の自動化について詳しく言えば、Salesforceが持つメタデータを『非構造化データ』から「構造化データ」に自動的に生成します。例えば、リードオブジェクトであれば、非構造化データとしてリードソース、役職、住所、クリック数といったデータテーブルを揃えます。そこから構造化データとして役職グループ、ターゲット地域といったように特徴を洗い出していくのです。データサイエンティストが時間をかけて構造化データを作る過程を自動化してしまうこと。さらにそれらを使って、コンバーションしたリードの過去データから、現状持っているリードの中でどれが一番有力なリードになりそうかを提示してもらう。これがEinsteinなのです」と御代は強調しました。
さらに、モデル選択の工程でも、Einsteinならではのロジックがあるそうです。それぞれの会社にはそれぞれ固有のビジネススタイルやプロセスがありますので、さまざまなモデルから最適なものを選択する必要があります。「Einsteinは、そのプロセスも自動化しました。ユーザー(組織)毎にすべてのモデルを実行して、テストの結果を数値化して比較します。その結果から、最も適したモデルが自動的に適用されます。この仕組みによって、それぞれのお客様にあった答えが導き出される」ことを可能にしています。
次に「深層学習」へのアプローチについて登壇したのは、米国セールスフォース・ドットコム 製品開発部 プロダクト・マネージメントディレクタのケン・ワカマツです。
深層学習とは具体的にどのようなことをするのでしょうか? ワカマツは画像認識の適用例を挙げ「人間側から指示は出さず、猫の画像ばかりを数多く提供し画像を学習させどの画像が猫かを認識できるようにすることも可能です」と説明しました。どうしてこのようなことが可能になるかというと、深層学習の仕組みとしては、まずは画像を「ピクセル分析」し、その後「境界認識」→「オブジェクトの一部の共通項を認識」→「オブジェクト全体の特徴認識」へとつなげてゆきます。
「こうした深層学習を可能にするAI機能では、たとえば画像から何が映っているかを特定し、ブランドの検出をするといったことも可能になります。ほかにも自然言語の理解やワークフローの自動化にも適用できるため、リードスコアの改善、サービスケースの強化、マーケティングキャンペーンの最適化といったCRMの進化に貢献します」としました。
会場では、実際にディープラーニングを使った画像認識のデモを実施。食べ物の画像を認識して、その料理を提供してくれるレストランを検索するbotアプリを実演しました。会場に持ち込んだコカ・コーラのペットボトルをスマホで撮影。わざと認識精度を確かめるために、正面ではなく斜めからラベルを撮影した画像をbotに送りましたが、bot側は99.17%でコカ・コーラであると指摘。コカ・コーラを販売しているレストランを何件も教えてくれました。
(米国セールスフォース・ドットコム 製品開発部 プロダクト・マネージメントディレクタ ケン・ワカマツ)
ここで再び御代が登壇。御代は「すでに海外ではEinsteinを活用し、成果を上げている企業がぞくぞくと登場している」として、3つの事例を紹介したのです。
「ニューヨークのコンサルティング会社『SILVERLINE』ではEinsteinを活用し、成約率を30%向上させることに成功しました。そのほか、バスケットボールやメジャーリーガー向けのスポーツグッズメーカー『Fanatics』では、eメールのクリックレートを15%以上向上。さらに、スキーや登山グッズを販売する『Black Diamond』でも、eコマースの販売を15%向上させています」とし、今後もEinsteinの事例や実績の情報発信をしていくことを約束しました。
講演最後にメッセージされたのは、日本で今年3月9日に発表された、IBMとセールスフォース・ドットコムの戦略的パートナーシップについてでした。登壇したのは、IBM 理事 セールスフォースプラクティスリーダーの浅野智也氏です。浅野氏は、この戦略的パートナーシップでは「IBMが提供する『Watson」とSalesforceの『Einstein」が連携することで、新たな顧客体験を提供できる」と強調しました。
(IBM 理事 セールスフォースプラクティスリーダー 浅野 智也氏)
「Watsonは自然言語解析が強みです。一方Einsteinは数学的な解析が強みといえるでしょう。この両者のそれぞれの得意な分野を生かせば、例えば金融機関のコールセンターなどで新しいサービスをAIで行う場合、税制変更によりお客様のポートフォリオに変更がある場合はWatsonが提案をし、それをEinsteinが受け取りお客様の来店スケジュールなどを提案する。そんな一歩進んだ顧客体験を提供できます」
さらに、これまで16年間セールスフォース・ドットコムのプラットフォームSIパートナーを務める「Bluewolf社」が、昨年IBMメンバーに加わったことから、Bluewolf専門チームがグローバルに展開するスタジオを活用して、AIを中心とした事業を推進していくことに言及しました。
今後、Salesforce Einsteinを活用したCRM上の顧客データと、上記のような金融におけるWatsonの分析データを活用して、両社でAIを活用した新たな顧客体験を提供してまいります。
最後に、「EinsteinはSalesforceにあるCRMデータに対するAIと画像等の非構造化データ、Watsonは言語解析にあるデータ」のような使い分けを入れて頂きたいです。
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