働き方改革最前線、本連載の最後に、Salesforce流働き方改革をご紹介いたします。一般に「働き方改革」と言うと、「時短」に代表されるように、労働効率に着目したものばかりに注意がいきがちです。しかし、当社が掲げる働き方改革はそれにとどまりません。

Salesforce流働き方改革では3つのポイントがあり、

  • まずワークスタイルの確立によって、「労働効率」をあげ、
  • 次にライフスタイルの確立によって、「従業員の満足度を高め」、
  • 結果ワークライフバランスが確立され、新しい発想を生む土壌を形成し、「イノベーション」の創出につなげています。

(写真は7月24日、Salesforceにおけるテレワーク・デイの様子)

では具体的にはどのように施策を実行しているのでしょうか。先日のEXECUTIVE FORUM基調講演にて、当社のセールスエンジニアリング本部ディレクター 鴇田英紀(ときた・えいき)がご説明した自社事例を、ダイジェストでお届けいたします。

「プライベート」で多用している便利な機能を「会社」でも活用

鴇田は最初に、労働時間削減などの働き方改革は、企業の競争力を保ったまま進めていくことが不可欠であり、それには企業文化の変革とそれを支えるテクノロジーの導入が欠かせないことを強調。しかし現状は「社員に携帯電話を支給している会社でもその半分はスマホではありません。70%の企業がノートPCの社外持ち出しを禁止しています。その結果、営業部員は分厚いマニュアルや大量の書類を持って外回りを行い、日報を書くためだけにわざわざ会社へ戻らざるを得ません」と述べました。

こうした“残念な状況”とは逆に、消費者はプライベートの生活において、スマートフォンの便利な機能を十分に堪能しています。美味しいものが食べたくなれば「食べログ」で探して、LINEで友人を誘います。FacebookやYouTubeでは魅力的な商品の動画を見ることができ、Amazonでは購買履歴から「お薦め商品」をピックアップしてくれます。ネット、アプリ、実店舗がシームレスにつながる購買体験が提供され、商品の意見を交換し合うコミュニティもあります。

「プライベートの世界の素晴らしい体験を、Salesforceを活用することで職場でも作り出し、新しい形で会社と社員をつなぐことができないものか? そういうコンセプトのもと、私たちは開発に取り組んできました」と鴇田は説明します。

この取り組みは、Salesforceの十八番である「顧客に対するOne to Oneマーケティングの構築」同様に、それぞれの社員の現状、職歴、スキルなどにあわせた、One to Oneジャーニーを組むことで、社員のエンゲージメントを高めていくことだといいます。

3つのステップで「イノベーションの創出」を

鴇田は「社員エンゲージメント向上」の取り組みを進めていくうえで、3つ段階があると説明。第1は「質とスピードを高めるワークスタイルの確立」であり、就業中の生産性や労働効率を向上させることがポイントです。第2は「一人ひとりに合わせたライフスタイルの確立」で、社員が就業時間以外の生活をいかに充実させられるか、それに対し会社はどんなコミットができるのかがポイントとなります。そして第3段階として、仕事と生活をトータルで見た「ワークライフバランスの確立」による“余裕のある状態”が新しい発想を生む土壌となり、「一人ひとりが能力を発揮したイノベーションの創出」に至ります。

この3つの段階それぞれに、Salesforceとしての施策を実施。「質とスピードを高めるワークスタイルの確立」では「企業文化の理解浸透」と「業務の効率化」、「一人ひとりに合わせたライフスタイルの確立」では「一人ひとりのケア」と「業務以外の時間の充実」、「一人ひとりが能力を発揮したイノベーションの創出」では「モチベーションの向上」と「部門間シナジーの創出」です。

鴇田は、実際にSalesforce社内で行われてきた「従業員体験」について具体例について説明。「企業文化の理解浸透」とは、会社の価値判断、価値基準、行動様式が、トップから現場の従業員にまで整合性がとられていることだといいます。

「例えば私の目標をたどっていくとCEOであるマーク・ベニオフの目標につながります。弊社のV2MOMというアプリを使って管理しており、顧客の成功、会社・社員の成功、上司を含む全社員の目標を確認できることで、会社の価値基準をオープンに共有する仕組みです」と鴇田は話しました。

「業務の効率化」では、業務プラットフォームの統合によって、関連情報を一元的に集約することで、効率的・合理的な働き方を後押しします。特筆すべきは、同社アプリ「コンシェルジュ」の利便性。「コンシェルジュ導入前は、IT、人事、経理などが別々のサイトを設け、社員はそれぞれ形式の違うマニュアルやFAQに従って、3段階、4段階もの過程を経てやっと問題解決に至りました。それをワンストップにしたのがコンシェルジュです」。コンシェルジュで新入社員がよく入力するキーワードやよく使うFAQをアナリティクス基盤で分析することで、彼らの予めのサポートにも役立てているといいます。

すぐに社員を評価する「リアルタイム・フィードバック」をスタート

「一人ひとりのケア」では、健康経営と社員に対するOne to Oneマーケティングを実施しました。健康経営は、その基礎である正しい労務管理を遂行し、勤務や休憩のログを細かく管理。One to Oneマーケティングでは新たに入社する社員に対し、各人の業務レベルや役職に応じて必要となる情報を、入社半年ぐらいまでのジャーニーを作って提供しています。また「業務以外の時間の充実」に関しては、和歌山県白浜町にあるサテライトオフィスでの通勤による負担の少ない働き方を紹介。クラウドの活用によって生産性を20%向上させながらも、1人当たり月平均64時間の労働時間短縮を達成して、家族と過ごしたり自分に投資したりする時間を捻出できたケースを報告しました。

「モチベーションの向上」では、個人目標の見える化を実施。大きな成果を出した社員に、全社員にオープンな環境の社内SNSであるChatter上で“バッジ”と感謝のコメントを送ることで、承認欲求を満たす演出をしています。また今年度から、年1回の人事考課制度を廃止して、One to Oneの「リアルタイム・フィードバック」の仕組みを開始。タイミングを逃さず評価することで、社員のやる気を喚起しているといいます。

「組織間シナジーの創出」で、最も使われるアプリはChatterです。社員間の情報の格差をなくし、部門間の壁を取り払うために活用。グローバル企業としては、時差やロケーションを気にせずに海外の部署とコミュニケーションできる点も重宝だといいます。鴇田は「質問を投げかけると、今まで話したことがない人から答えやアドバイスをもらえることが日常になっています。『もはやこの仕組みなしでは業務ができない』と思うくらいに浸透しています」とその効果を力説しました。

Salesforceは営業部門だけではなく、人事、IT、総務などの管理部門も支援

こうした社内での実践実例を踏まえ、鴇田は顧客に向けた、特に有効なSalesforceソリューションとして「プロセスの自動化」、「社員のエンゲージメント」、「健康経営」、「DMPを使ったRetention」をアピール。

「プロセスの自動化」ソリューションはリアルタイムの業務状況把握などで適正アサインを推進し、ワークフローの自動化でレビューの効率化、手戻りの最小化を図ります。「社員のエンゲージメント」は、従業員ジャーニーのためにキャリアロードマップに基づく自己学習計画を立案・支援し、評価や昇進の検討を効率化します。「健康経営」では、社員のストレスチェックやOAへのアクセス履歴を分析し、働き方の改善に活用。「DMPを使ったRetention」は、従業員のWebアクセス・アプリ利用履歴などから不満などをいち早く察知して、適切なケアを施せるようにする仕組みです。

最後に鴇田は「Salesforceの多くのソリューションは、先端テクノロジーの活用によって従業員の働き方や企業文化の改革に大きな成果をもたらします。すでに実績がある営業部門だけではなく、HR、IT、総務などのバックオフィスの支援にも有効であり、基幹系システムとつなぐことでさらに進化させていきます」と締めくくりました。

なお、Vol.1 ユニリーバ・ジャパン流働き方改革はこちら。Vol.2 チューリッヒ生命流働き方改革はこちら