Salesforce主催でEXECUTIVE FORUM「保険業界における働き方改革〜顧客接点強化と働き方改革を同時に実現〜」を2017年5月に開催いたしました。

特別講演では、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長の島田由香氏が「社員の力を引き出し、組織を強くする働き方改革」と題して、同社が2016年7月から導入した新人事制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を紹介しました。

(写真:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 取締役人事総務本部長 島田由香 氏)

WAAは従来の在宅勤務制度やフレックスタイム制度にかわって導入されたもので、

  1. 「上司に申請すれば、理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)でも勤務できる」
  2. 「平日の6時~21時の間で自由に勤務時間や休憩時間を決められる」
  3. 「全社員が対象で*、期間や日数の制限はない」

という3点が骨子になっています。

*工場、一部の営業を除く。

島田氏は「WAAの読み方は『わー』。嬉しい驚きがあったときの『わー!』という歓声と、新しい働き方が日本中に『わー!』っと広がるようにという思いを込めて名付けました。働く時間や場所を社員が自由に選べるこの制度は、導入以来とても大きな反響があり、社外の方への説明会も定期的に行っています。」と説明しました。

7割の社員が「毎日の生活がよくなった」

WAA導入のきっかけは、3年前に日本に着任したイタリア人社長が、日本と海外の働き方の違いに驚き、島田氏に対して質問を投げかけたことだったそうです。島田氏はその様子を見て、「日本の働き方を変えよう」と決意したと言います。

「意識したのは、社員がより生き生きと働き、豊かに生きるためには何が必要なのかということ。例えばラッシュ時通勤は必要でしょうか。大変な思いをしてオフィスに着いて、すぐに『生産性の高い仕事をしてください』と要求されてもそれは無理。『なぜ9時に出社しなければならないのか?』『なぜ会社でなければ仕事ができないのか?』を改めて考えました」と島田氏は当時を振り返っています。

同社はWAA導入後、社員に対して定期的にアンケートを実施しています。アンケート結果によると7割の社員が「毎日の生活にポジティブな変化がある」と答え、生産性に関する質問では、回答を平均すると「30%の向上」という結果に。また実際の労働時間に関しては、平均10〜15%減少したそうです。 

制度を活用した新しい働き方の事例としては、やはりラッシュ時通勤の回避が多く、「体や気持ちに余裕が生まれた」などの声が多くあがったそうです。他にも「自分で使う時間を主体的に選択できるようになった意義は大きい」という声もあったそうです。また最新データによると、WAA導入後に毎日の生活が「よくなった」と回答したのが67%、「幸福度が上がった」と答えた社員は33%でした。

島田氏は「幸福度に関して『変わらない』が多数派であったものの、『上がった』という社員が33%もいたことは重要。ハッピーであることは、最大のエネルギー源。モチベーションが高くなり、生産性や創造性が上がります」とWAA導入の成果を強調しました。

働き方改革が成功する決め手となった5つのポイント

WAA導入のような働き方改革が成功したことに対して、島田氏は

  1. 「ビジョンからのスタート」
  2. 「トップのコミットメント」
  3. 「グロースマインドセット」
  4. 「テクノロジー」
  5. 「社員の仕事の明確さ」

の5つを挙げて説明しました。

「『ビジョンからのスタート』というのは、WAAの取り組みが、『社員がよりいきいきと働き、健康で、それぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る』というビジョンからスタートしているということ。このビジョンを日本中、さらに世界に広げることを役員会で真剣に検討し、そのための新しい働き方の導入を決めました」と島田氏は語りました。

また「トップのコミットメント」に関しては、こうした斬新な改革は、ボトムアップでは実現しにくく、トップが腹をくくって断行することが大切であると言います。同社でも、会社のコスト削減ではなく、ビジョンを実現するための改革であることを社員に対して公言したうえで、経営陣が一丸となって推進しているそうです。

「グロースマインドセット」も、同様のビジョンに基づいています。島田氏は「検討段階の議論では『社員がまったく出社しないようになったらどうする?』『仕事をさぼる社員が出てくるのでは?』という不安の声もあったが、どうなるか分からない未来のことを『しんぱい(心配)』するより、社員を『しんらい(信頼)』して始めてみよう』と導入に踏み切りました。そもそも『さぼる』とはどういう状況でしょうか?たとえ昼寝をしていても、その社員にとっては必要なエネルギーチャージかもしれません。仮にさぼったとしても、結果さえ出してくれればまったくかまわない。社員は信頼されてこそ、大きな力が出るもの」と話しました。

「テクノロジー」は社員がオフィスの外で働いていても円滑にコミュニケーションや情報共有ができるようにするためのインフラのことで、この制度を実現させるために、絶対に必要な条件だったと言います。「社員各人の仕事が明確であること」については、一般的に言われるジョブ・ディスクリプションにとどまらず、会社やチームの目標に対して、社員それぞれが自分は何をすべきなのかを理解・納得していることが大切だと解説しました。「“やらされ感”を持って仕事をするのではなく、社員一人ひとりがなぜ自分がこの仕事をするのかを十分に理解していることが大切」と島田氏は述べています。

「生産性」に変わる、社員目線の言葉を創造

働き方改革を進めていく過程で、島田氏は会社目線の「生産性」という言葉に大きな疑問を感じ、社員の立場に立って「生産性」を再定義しようとしています。WAAのビジョンに共感した人なら誰でも参加できるコミュニティ 「Team WAA!」では、「生産性」に代わる社員目線の言葉として「夢中指数」「自己進化力」「スマイル発生率」「ハッピー感」などが挙がったと言います。

「社員に対して『どんなときに一番生産性が上がるのか?』をアンケートしたところ、大切な要素として①『集中』と②『余裕』が浮かび上がりました。『集中』とは『邪魔をされないこと』と『静かな環境』であり『余裕』とは『時間や心の余裕』があること。さらに③『価値を生まない業務をやめること』という要素もあることが分かりました。①〜③のいずれにおいても、社員が『自分で決められる』『自分で選べる』というのが重要な点です」と島田氏は述べています。

島田氏は講演の最後に「日本の社会は、毎日が忙しすぎて、自分のことを振り返る時間がなく、自分がハッピーなのかどうかが分からない人が多い。会社は普通、アウトプットの大小だけで社員を評価しますが、インプットあってのアウトプットであることを忘れてはなりません。私は会社のマネジメントを担う一員として、『生産性』を社員が『生』き生きとしていて、何かを『産』み出したくなる状態』と定義しています。人には元来『つながりたい』『認められたい』『貢献したい』という3つの欲求があり、それぞれの企業は社員のこうした欲求をどのように“ハッピー”につなげていくかを考えるべきだと思います」と締めくくりました。

「働き方改革」最前線 Vol.2 チューリッヒ生命流 働き方改革」は こちら