※本記事は、セールスフォース・ドットコム チーフ・デジタル、エヴァンジェリストのVala AfsharがHuffington Postに寄稿した記事、「AI-Powered Customer Service Needs The Human Touch」の翻訳です。

AIに人間味をプラスして、新たなカスタマーエクスペリエンスを実現

AI(人工知能)は 21 世紀のテクノロジーの決定版といえます。規模や業種を問わず、あらゆる企業が今後 AI の影響を受けるものと予想されます。いつでもどこでも顧客とつながることが可能な時代に、米国では成人の 5 人に 1 人がほぼ常にオンライン状態であるといわれ、真の差別化を実現するにはカスタマーエクスペリエンスにおいて競合を制することが不可欠です。今日、消費者の支持を得ている最新のアプリにはAI 機能が搭載されています。今後、ビジネスを成功させるためには、AIの活用が必要となるでしょう。中でも、カスタマーサービスは AI が最初に導入される可能性が一番高い業務部門です。通常、カスタマーサービスはプロセスをもっとも重視する分野であり、テクノロジーにも敏感です。AI によってカスタマーサービスはどのように進化するのでしょうか。その可能性を掘り下げる前に、まずは AI の市場規模と成長の見込みについて詳しく見ていきましょう。

AIの市場規模と将来の展望

現在、大企業の 38% がすでにAIを活用しており、2018 年には 62% まで拡大すると予想されます。Forrester 社によると、2017 年の AI への投資は 2016 年と比較して 300% 増加し、IDC 社の予測では、2020 年までに AI 市場は 470 億ドル規模にまで拡大します。Forrester 社が挙げる AI テクノロジーのトップ 10 をご覧ください。

(出所:Forrester 社:2017 年以降もっとも期待される AI テクノロジー)

2017 年の戦略的テクノロジートレンドトップ 10 のうち、Gartner 社がインテリジェンスのトレンドとして注目したのは、応用型 AI と高度な機械学習、インテリジェントなアプリ、そしてインテリジェントなモノの 3 つです。

「AI と機械学習は重要な転機を迎えています。今後徐々に成長を続け、AIテクノロジーに対応したサービスやモノ、アプリケーションの適用範囲が拡大していくことが予想されます。少なくとも 2020 年までは、あらかじめ決められた手順をただ実行するだけでなく、自発的に学習、応用し、さらには対処までしてくれるインテリジェントなシステムの開発が、テクノロジーベンダーの主戦場となるでしょう」-- Gartner 社

AI および高度な機械学習 - 「AI および機械学習、たとえばディープラーニングやニューラルネットワーク、自然言語処理を活用すれば、自発的に理解、学習、予測、応用し、さらには対処までしてくれるより高度なシステムを実現することも可能です。システムが学習にもとづいて将来の動作を変更するようになれば、よりインテリジェントなデバイスやプログラムの開発が可能になります」 -- Gartner 社

AI の絶大なパワーは、あらゆる業種のあらゆる企業に影響を与えます。Gartner 社によると、2020 年までに、企業の 20% がニューラルネットワークを監視および管理する専用のスタッフを配置するようになるといいます。Gartner 社は CIO に対して、大規模なデータを保有しながら解析が十分でない分野に注目するよう勧めています。AI なら拡張知能を活用して、検出、予測、推奨、自動化を大規模に展開できます。

「人間の力では分析も理解もできないほど膨大な量のデータを抱える業界は、AI を活用しましょう」 -- Gartner 社

PwC 社は、ビジネスで不可欠な 8 つのテクノロジーの 1 つにAIを挙げています。現時点で、AIの分野では 1,625 のスタートアップ企業および私企業が 122.4 億ドル以上の資金を集めています。

(出所:Venture Scanner:2017 年 AI 分野のスタートアップエコシステム)

AI の強みはマスパーソナライゼーションと状況に応じた大規模なインテリジェンスです。Accenture 社が発表した 2017 年テクノロジービジョンのレポートによると、2035 年までに AI によって年間経済成長率は倍増するとされています。また同社は、AI が新たな UI (ユーザーインターフェース)となることも指摘しています。「AI は、私たちがシステムを操作する際の基盤として、新たなUIになりつつあります。ビジネスリーダーの 79% が、AI を採用することで情報収集や顧客対応の方法を飛躍的に変えることができると回答しています。ユーザーエクスペリエンスのほとんどは AI が担うようになり、単なるインテリジェントなインターフェース以上の存在に成長します。顧客とのやり取りがよりパーソナライズされ、よりパワフルで、自然なものへと変化していくにつれ、AI はデジタルスポークスマンという、企業にとってさらに重要なポジションを占めるようになります」 — Accenture 社 2017 年テクノロジービジョンから引用

企業における AI 導入の実態

Amazon Alexa の音声コマンド認識機能(スキル)は、1 年間で 1,000 種類から 10,000 種類以上にまで増加しましたが、機器が次に行うべきアクションを正しく把握して実行できるようにするには、さらなる AI の進化が必要です。Forrester 社は、2025 年までに全米の雇用の 7% がロボット(AI)に奪われると予測しています。レポートの概要は次のとおりです。

  • 2025 年までに米国の雇用の 16% が奪われ、9% 相当の雇用が創出される。つまり、実質 7% の雇用が消失する。
  • 真っ先に混乱に陥るのは事務系および管理系のサポートスタッフである。
  • コグニティブ・コンピューティングの時代には、ロボットモニタリング・プロフェッショナル、データサイエンティスト、オートメーションスペシャリスト、コンテンツクリエイターといった新たな雇用が創出される。Forrester 社は、2025 年までに全米で 890 万の雇用が生まれると予測。
  • オートメーション技術者の 93% が、スマート機器のテクノロジーに関する課題に対処する準備ができていない、または準備が完全ではないと回答。

このような将来の見通しや AI が雇用に与える影響は、強引でやや現実味がないかもしれません。ビジネスにおける AI の実情をより理解するためには、大規模企業で AI を導入するときの各フェーズと前提条件を把握することが重要です。

企業での AI 導入には、3 つの重要なフェーズがあります。それは、データ、アルゴリズム、そしてワークフローです。AI を有効に活用できるかどうかは、データの質と量にかかっています。アルゴリズムは、インサイトを提示するうえで重要です。発見や予測、推奨、そして既存の手作業の自動化などには、するマニュアルプロセスを検出し、予測にもとづいて推奨事項を提案して、自動化するには、自己学習型の強力かつ柔軟なアルゴリズムが必要です。最後のワークフローはもっとも難しいフェーズです。強力なワークフローを通じてデータの分析を常に繰り返し、アルゴリズムを調査、開発して、得られたインサイトをもとに適切なアクションを作成するには、データサイエンティストと業務に精通した専門家の力が必要です。ワークフローの中でも、顧客とのエンゲージに関わる部分は自動化しすぎないよう注意する必要があります。極端に自動化を進めると、企業は人間味ある対応や関係構築の重要性を見失い、信頼できるアドバイザーや戦略的ビジネスパートナーになる機会を失ってしまいます。

多くの企業にとって、アルゴリズムやワークフローの複雑性が増すのは、インテリジェンスを強化するための方法においてです。特に、B2B のカスタマーサービスにおける複雑な顧客管理ワークフローが該当します。とは言え、AI のイノベーションや機能強化は急激に進んでいますので、企業が AI を一時的な流行と決めつけてしまうと、1 ~ 2 年後には競合他社から大幅に遅れを取ってしまうことになるでしょう。今こそ、AIに関する知識を持ち、計画し、導入するときです。

カスタマーサービスにおける AI の役割

最近の機器は、SF 映画でしかあり得なかったような対話型の機能が備えています。Amazon では顧客に合ったおすすめ商品が提示され、Facebook では写真に自動的にタグ付けされます。また、Google マップでは交通情報にもとづいてルートが自動的に変更されます。私たちが体験するほぼすべての事柄は、AI によってスマートに合理化され、パーソナライズされており、そのため、消費者の期待はこれまでにないほど高まってきています。消費者に人気のアプリには必ず AI 機能が搭載されていますし、個々のユーザーが求める価値をリアルタイムに提供しています。このように、シームレスにパーソナライズされた、スピーディでインテリジェントなユーザーエクスペリエンスは、業種を問わずあらゆる企業に受け入れられます。ビジネスで AI を活用すれば、動作や動線を予測したソリューションやサービス提供が実現します。カスタマーサービス部門のリーダーが、常に適切なサービスを提供できるようにするには、物事を異なる角度で捉えてみたり、自分たちのステークホルダーにAIを理解してもらう必要があります。AI によって、企業は顧客が求めるスマートでパーソナライズされたエクスペリエンスを予測にもとづいて提供できるようになりますが、顧客の成功を支援するためにはやはり人間味のある対応が欠かせません。カスタマーサービスは、AI を取り入れるのにもっとも適している事業部門といえるでしょう。

Salesforce Research によると、管理職の 92% は、カスタマーエクスペリエンスが競合他社との重要な差別化要素であると考えており、カスタマーサービスをカスタマーエクスペリエンス向上のための第一の手段と見做しています。カスタマーサービス部門がカスタマーエクスペリエンスの変革を主導するには、AI テクノロジーを十分に理解したうえで実装し、活用する必要があります。

では、すぐれたカスタマーサービスとはどのようなものでしょう。調査によると、すぐれたカスタマーサービスの条件は、パーソナライズされていること、常にリアルタイムで利用でき、オムニチャネル型で一貫したサービスが提供されていることです。このような質の高いカスタマーサービスを実現するには、AI を活用して検出、予測、推奨、自動化のエンジンを強化する必要があります。

(出所:Salesforce Research:すぐれたカスタマーサービスの条件

今は「顧客の時代」といわれ、問い合わせの手段は急速に多様化しています。生み出されるデータの量も膨大で、サービス部門には構造化されているものとそうでないものを含め大量のデータが押し寄せる一方で、実用的なインサイトをなかなか得ることができません。

(出所:Salesforce Research :提供増え続ける顧客との接点となるチャネル)

Forrester 社は、顧客と対話することです。「企業は今後も静的なセルフサービス型のコンテンツに加えて対話型のインターフェースを提供して、インテリジェントなエージェントパワー拡大を追求していくでしょう。ユーザーの状況や好み、過去の問い合せ内容にもとづいてニーズを予測することで、事前に通知したり、相手に合った適切な提案やコンテンツを示したりできます」と Leggett 氏は述べています。

2020 年までに予測型のインテリジェンスによってカスタマーサービスは画期的な変化を遂げるであろうと回答する傾向は、トップクラスのカスタマーサービスチームほど高く、その割合はパフォーマンスの低いチームの 3.9 倍にのぼります。AI が秘めている最大の可能性は、企業と顧客とのつながりを強化し、よりスマートなカスタマーエクスペリエンスを実現できる点であると、ビジネスリーダーたちも共通の認識を持っています。

(出所:セールスフォース・ドットコム:インテリジェントなサービス機能)

2020 年までにスマートフォンのユーザー数は 60 億人に、コネクテッドデバイスの数は 500 億台に到達すると予想され、次世代のカスタマーエクスペリエンスに AI は欠かせないものになります。CRM プラットフォームに AI を組み込むと、カスタマーエンゲージメントを分析したり、顧客感情を予測したり、カスタマージャーニーを調整することで、最適なユーザーエクスペリエンスを確実に提供できます。マーケティング部門がリードのスコアリングや商談へのコンバージョンを予測する場合と同じ理論を、カスタマーサービスのケースにも適用できるようになることから、問題解決までの時間が最大限短縮され、顧客満足度やネットプロモータースコア(NPS)が向上します。

「顧客の獲得、サービスの提供、顧客の維持を目的とした企業のカスタマーエクスペリエンス戦略において、CRM は基本的な要素といえます。CRM は新たなビジネス戦略を可能にし、多様なテクノロジーとの連携によって、トレンドに合わせて常に進化します。顧客は気軽に企業とやり取りして、商品やサービスを購入できる手段を求めています。たとえば、顧客の 72% は、企業がすぐれたサービスを提供するうえで最も重要なことは顧客の時間を尊重することだと回答しています。顧客と企業がさまざまなチャネルで継続的に対話し、関係を維持できるようにするには、企業と手軽にやり取りできるような手段を顧客に提供する必要があります。そうすることで、顧客ロイヤリティと顧客維持率の向上へとつながるのです」 – Forrester 社、Kate Leggett 氏

カスタマーサービス部門は、AI テクノロジーを活用することでカスタマーエクスペリエンスを大幅に向上し、サービスの提供規模を拡大できます。サービス部門のマネージャーが AI を活用すれば、AI アナリティクス機能によってすべての問い合せチャネルの状況をリアルタイムで把握できるため、チームの生産性と顧客満足度(CSAT)が向上します。スマートなデータディスカバリー機能によって、オペレーターの稼働状況や待ち時間が最適化され、先を見越した適切なサービスの提供が可能になります。機械学習を使用すると、感情分析や事業領域ごとの専門知識にもとづいて、ケースが自動的にエスカレートされ、仕分けがおこなわれます。AI を活用したボットチャットでは、自動化されたワークフローでナレッジを提供できます。フィールドサービスの現場担当者は、AI 対応のモバイルアプリから CRMの データにアクセスすることで、顧客に合ったきめ細かいサービスをどこにいても提供できます。AI 対応のフィールドサービスアプリでは、包括的な CRM データによってスケジュールと派遣の手配を最適化するアルゴリズムが使用されます。

(出所:Salesforce Research:カスタマーサービスの未来は、パーソナライズ、インテリジェント、そして事前対応)

Forrester 社は、2017 年における CRM のトレンドのトップとして、インテリジェンスを活用した的確な指示の提供を挙げています

「インテリジェンスを活用した確度の高い指示の提供。物事を判断する行動、たとえば顧客やシステムの次のアクションを判断する行為は、顧客対応をする組織では常に行われています。ルールに従って見込み客を正しく特定し、リードを適切な情報へと誘導して、問題の解決策を提案します。多くの企業は、ルールと分析を組み合わせて顧客に最適な提案を行っていますが、カスタマーインテリジェンスの分析を十分に活用しているとはいえません。顧客対応スタッフがとるべき行動をCRM アプリで分析し、指示するという傾向は 2017 年も続く見込みです。たとえば、営業チームはこの指示を活用して、有望なリード、社内でもっとも役立つ関係部門、適切な問い合わせ先、買い手にもっとも関連のある営業資料を特定できます。また、指示に従ってオプション製品の販売や割引を行うことで、契約ごとに利益を最大化できます」 – Forrester 社、Kate Leggett 氏

AIを活用した CRM プラットフォームでメリットを得られるのは、カスタマーサービス部門だけではありません。Salesforce のAIテクノロジーであるEinstein は、Salesforce のすべてのクラウドに組み込まれるため、Salesforce を利用している 150,000 社以上の企業は、営業、カスタマーサービス、マーケティング、IT、およびコミュニティ部門で AI 機能をシームレスに活用することができます。AI を採用しているマーケティング部門では、メールのクリックスルーおよび開封率が平均 25% 向上し、AI の予測にもとづいてリードスコアリングを実施している営業部門では、リードから商談へのコンバージョン率が 300% 向上しています。また、AI を採用しているコマースチームでは、サイトの訪問者当たりの売り上げが 7 ~ 15% 向上しています。

AIは 21 世紀のテクノロジーの決定版といえます。AI を拡張知能として活用し、情報を元にしてさらに迅速に意思決定を行う企業は、パーソナライズや即時性、インテリジェンスがビジネス成長の新たな条件とされるこの顧客の時代を勝ち抜くことができるでしょう。ただし、成長を持続し、顧客の信頼を獲得するには、常識に従い、気づかいの心を忘れず、過剰な自動化を避けなければなりません。社内でも社外でも人間味のある対応を実践し、企業としての責任を果たすことが必要です。

「最低限の AI を導入し、最大限常識に従って、エンドツーエンドのプロセス設計に集中して取り組めば、コスト削減と売上増大が実現し、顧客満足度も向上します。AI には人間味のあるプロセス設計が不可欠です。AIだけでは、Lisp が AI ツールとして一般的だった 80 年代から何も進歩していません。その後 30 年間注目されることがなかった当時の AI と何も変わらないことになってしまいます」 – Gartner 社、Michael Moaz 氏