競争環境が日に日に厳しくなる昨今では、組織の活性化や生産性の向上は、すべての企業にとっての至上命題と言えます。これら課題の改善に向けて、各企業は毎年莫大な投資を行っている訳ですが、その施策のひとつとして注目を浴びているのが「健康経営」というキーワードです。2014年からは経済産業省(厚生労働省ではない、という点がポイント)と東京証券取引所が共同で、健康経営に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定・表彰するプログラムを開始しました。健康経営とは、いったいどんなことを目的とした経営活動で、どんなメリットが得られるのでしょうか。また健康経営を実現するためには、どうすればいいのでしょうか。

社員の健康を促進することによる経営上の効果

経営の文脈で用いる「健康」という言葉は、通常は運転資金の健全性や利益が出ているかといった、財務観点での安定性を示すことがほとんどです。しかし「健康経営」は、会社が社員の肉体的・精神的な健康を改善し、活力を増大させる取り組みのことを指します。もちろんすべての企業は社員が健康でいてもらいたいと考えているものですが、健康経営の目指すところは、社員の健康維持は経営において大きなリターンが期待できるものと捉え、投資や施策を投入することで社員の健康維持を図るという、より戦略的で積極的な姿勢のものです。では健康経営によって得られる経営上のメリットとは、どのようなものがあるのでしょうか。

一つ目のメリットは、会社負担分の医療費の削減です。健康保険を利用した場合、医療費の一部は会社が負担しますが、もし社員が今まで以上に健康になり病院に行く頻度が少なくなれば、会社が負担するべき医療費を削減することができます。そのため、会社が社員の健康に投資を行う意味合いが生まれるのです。

もう一つのメリットとしては、従業員の活力の向上による、生産性の向上が実現できることです。言うまでもなく、従業員が不健康な場合と健康な場合とでは得られるパフォーマンスには大きく差がでますし、また活力を持った社員とそうでない社員とでは、前者の方が経営としても好ましいのは火を見るよりも明らかです。

このように、社員の健康を促進することは単なるお節介というわけではなく、事業運営にかかるコストを抑え、パフォーマンスを上げるための会社戦略なのです。

健康経営を評価するための5つの柱

経済産業省が実施する健康経営度調査においては、具体的に下記の5つの項目に基づいて健康経営の取り組み具合が評価されます。

  1. 経営理念・方針:経営方針などで会社全体の「従業員の健康保持・増進」についての明文化
  2. 組織体制:従業員の健康保持・増進の推進を統括する組織の形、専門人材(産業医、保健師、看護師など)の活用
  3. 制度・施策実行:従業員の健康保持・増進に関する制度や施策、教育・研修の実施状況
  4. 評価・改善:従業員の健康保持・増進を目的として導⼊した施策の効果検証の⽅法
  5. 法令順守・リスクマネジメント:労働関連法令における重大な違反に係る行政指導の有無

このように健康経営の評価は、かなり幅広い分野での取り組みに対して行われています。健康経営は総務部や人事部が業務の一部として行うものではなく、全社を挙げて取り組む戦略的課題のひとつとして捉える必要があると言えるでしょう。

取り組み事例1:CHOを設置し施策に取り組む製薬メーカー

CEO(Chief Executive Officer)やCFO(Chief Financial Officer)といった、会社経営を司る重要な役職のことを「C-Suite」と呼びます。2014年の健康経営銘柄として選出された製薬メーカーは、健康経営を強力に推し進めるために「CHO=Chief Health Officer」を設置し、各種施策を実施しています。

具体的には、家庭でも作れる薬膳の作り方講座や、心身をケアするアロマリラクゼーションの提供を行うなど、製薬メーカーならではの啓もう活動を継続的に行っています。また社員参加型の「健康促進100日プロジェクト」の実施後には、一定の健康水準を満たす社員の比率は実施前と比べて6ポイント上昇した42%を達成。また8割の社員で腹囲が1cm以上改善しました。

取り組み事例2:多様でフレキシブルな働き方を推進する繊維メーカー

事例1と同様に、繊維メーカー企業においても、企業行動指針の中に社員の健康保持・増進を重要テーマとして掲げており、積極的な取り組みを進めている企業のひとつです。代表取締役をトップとする全社委員会を設置し、労働組合とも一体になって全社共通の取り組みと事業場独自の施策を行っています。

具体的な施策としては、グループ関係会社を含めた社内スポーツ大会やウォーキング促進活動、禁煙支援、工場食堂において栄養士によるヘルシーメニューの提供などを通じ、社員の健康状態の向上を促しています。また当該企業において特徴的なのは、健康経営の一環としてワークスタイル改善にも取り組んでいる点です。社員のニーズに合わせたフレックスタイム制度の導入や、在宅勤務制度、社外からのリモートアクセスシステムの拡充による直行直帰体制の確立など、多様でフレキシブルな働き方を推進し、社員の活力を高めるための職場づくりを推進しています。

健康経営のメリットを最大限享受するために必要なこと

では実際に、どのようにすれば健康経営によるメリットを最大限享受できるのでしょうか。一つ目のポイントは、会社トップが健康経営に強いコミットメントを示すことです。事例1・2に出てきたどちらの企業とも、経営トップが健康経営に積極的な関わりを持っており、また他の選定企業においても企業の行動指針に位置付ける、経営課題のひとつとして位置付けるといったように、経営陣がリーダーシップを発揮しているケースが多く見られます。健康経営は総務部や人事部だけで取り扱う問題ではなく、全社的な戦略課題ですから、経営陣が本気度を見せて改革をリードすることが重要になります。

二つ目のポイントは、社員の健康を望ましくない状態から普通の状態に改善する施策はもちろんのこと、活力あふれるより良い状態へと導く施策も同時に考えるという点です。社員の健康を改善するというと、どうしても普通の状態に改善する施策だけに目が行きがちですが、これだけでは文頭で挙げたメリットのうち「医療費の負担減」しか達成することはできません。医療費の削減は大きなメリットであることは間違いないですが、より競争力を高めるためには、事例2でみたようなワークスタイル改革によって従業員が活力みなぎる状態で仕事ができる状況を整え、生産性を増大させることが重要です。

ワークスタイル改革といった社員の活力を増大させる施策を効果的に推進するためには、多様なコラボレーションツールを備えるSalesforceのような最新ツールを駆使することが効果的です。先進的な情報共有の仕組みを備えているため、同じオフィスで仕事をしている時と変わらない感覚でチーム内のコラボレーションを維持・向上を果たすことができます。Salesforceにおけるリモートワークへの取り組みは、関連記事「人口減少社会とテレワーク 和歌山県白浜町の例に見る『地方創生』のヒント」をご覧ください。

社員の健康・活力増進を掲げる健康経営は、経営にとって大きなインパクトを与える経営手法のひとつです。その実現のためには、経営陣の強いコミットメントと、ワークスタイル改善のように社員の力を引き出す職場づくりが肝となります。

参考文献:

  • 平成26年度「健康経営銘柄」(経済産業省 2015年3月25日)