2016年12月13日、14日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワー東京と、虎ノ門ヒルズフォーラムを会場にして開催された Salesforce World Tour Tokyo 2016。(基調講演の様子はこちら )本イベントでは、「AI for Everyone~すべてのSalesforceユーザーにAIのパワーを提供する~」と題して、初めて人工知能に関する基調講演が設けられた。

SalesforceのAIプラットフォームである「Salesforce Einstein」は2016年9月に発表されてはいたが、デモンストレーションを含めて、日本で初めて大体的に披露する機会となった。今回の講演では、Salesforce Einsteinが、どのようにして顧客の行動を予測し、よりスマートな対応ができるようになるのか、そして、このプラットフォームがその先に目指す将来は何かといったことを解説した。

まず登壇したのが、セールスフォース・ドットコムのマーケティング本部プロダクトマーケティング シニアディレクターである御代茂樹だ。

御代は、「Salesforce Einsteinの最大の特徴は、すべての人がAIテクノロジーを利用できるようにするという目標のもとに設計された点である。機械学習や深層学習による予測、分析といったAIテクノロジーを、Salesforceのプラットフォームのなかに組み入れたことで、世界で最もスマートなCRMを作り上げることができた。AIを活用したアプリを自由に構築することができる」と切り出した。

Salesforce Einsteinは、Sales Cloud、Commerce Cloud、App Cloud、Analytics Cloud、IoT Cloud、Community Cloud、Marketing Cloud、Service Cloudという8つの主要クラウドアプリのなかに組み込む形で提供される。「このことからもわかるように、Salesforce Einsteinという単体の製品は存在しない。Einstein Cloudというカテゴリーも存在しない。アプリのなかに組み入れて、AIの機能を提供することになる。そのため、別のサーバーを構築する必要もなく、サイジングやセキュリティモデルの構築について悩む必要もない。すぐにAIを利用できる新たなプラットフォームを構築した」と述べた。

AIは、多くのデータからモデルとして学習し、それを活用し、将来を予測するものであるが、それを実現するために、Salesforce Einsteinは、CRMに特化したAIテクノロジーとして設計されていることを強調。「Salesforce Einsteinは、顧客をより深く理解するための方程式によって成り立っているものであり、Salesforceのなかに、あなただけのデータサイエンティストが登場することになる」とする。

Salesforce Einsteinは、営業データ、サービスデータ、マーケティングデータといったデータがSalesforceに格納されていれば、データサイエンティストが行っている作業をプラットフォームが自動化し、どのようにAIを使ってビジネスをスマートにしたらいいかといったことを気にせずにすぐに使うことができる。加えて、LightningによってAIを活用したアプリを開発できること、MetaMindが提供する予測画面認識サービスおよび予測センチメントサービスの活用ができること、PredictionIOを活用した機械学習によるアプリが自由に開発できることを特徴としてあげた。

営業マンの個人的データサイエンティストになるSalesforce Einstein

続いて登壇した米セールスフォース・ドットコム Salesforce Einstein マーケティング担当バイスプレジデントのジム・サイナイは、まずは営業部門におけるSalesforce Einsteinの活用事例について説明。「Salesforce Einsteinは、営業マンの個人的なデータサイエンティストになる。発見し、予測し、次に何をすべきかを提案してくれる。顧客に対する仕事に集中できるようになる。その結果、営業マンがより成果をあげることができ、事業を成功に導くことができる」などと語り、Salesforce Inboxを活用することで、データを一元的に管理するとともに、Salesforce Einsteinによる強力なリレーションシップインテリジェンスを入手できることを説明。来年春には、インテリジェンスなスコアリングにより、リードに優先順位をつけたり、購買の予兆を捉え、営業マンがなにをすべきかといった次のアクションを決定するためのインサイト機能を提供することを紹介した。

ここで、セールスフォース・ドットコム プロダクトマーケティング ディレクターの田崎純一郎が、クレジットカード決済のSquare社が、予測によるリードスコアリングのパイロットプログラムに参加したことを紹介。さらに、日本でも、同プログラミングへの参加企業を募集していることを示した。

Squareの事例では、営業予算に達していない営業マンが、Salesforce Einstein によって、通勤中のモバイル環境において注力すべき業種を確認したり、会社に到着して、どの案件を優先すべきかといった指示を受け取り、どんなキャンペーンを行うと効果的になるか、といったことが提案されたりといった内容をデモストレーションした。

サービスにおけるSalesforce Einsteinの活用については、コールセンターにおいて、インテリジェントなサービスコンソールにより、サポート力が強化される事例を紹介。「問い合わせ内容からケースを自動的に分類し、解決にかる時間を予測。Salesforce Einsteinによって提案されたナレッジやアクションに基づいて問題をスピーディに解決し、生産性を向上できる。これにより、エージェントが最高のパフォーマンスを発揮できるようになる」とした。

日本における活用事例として、江崎グリコ 江栄情報システム代表取締役専務の宮領康博氏が登壇。宮領氏は、「江崎グリコでは、2014年に営業部門における商談管理から、Salesforceを導入。その後、コールセンター、ソーシャルリスニング、マーケティング業務においても導入した。異なる部門で、Salesforceを導入することで、顧客接点のデータがシームレスでつながるようになった。江崎グリコでは、コールセンターをカスタマエンゲージメントセンターに変化させたいと考えており、Service Cloud Einsteinのパイロットプログラムに参加することを決めた。Salesforce Einsteinで実践したいこととして、日本語解析技術の精度向上、ケース分類と最適な回答レコメンドの提案による正確な回答を実現し、業務負荷を軽減すること、新製品の反響、トレンド、異常値など、問い合わせ傾向を分類し、これをChatterによって社員がいち早く情報共有を行い、次の一手を早く打てるようになりたいと説明した。顧客のことを知り、期待に応えるためには、Salesforceは欠かせない。Salesforce Einsteinにより、未来予想型の意思決定のスキームが実現できれば、新たな価値の創造が期待できる」と述べた。

写真:江崎グリコ株式会社 江栄情報システム 代表取締役専務の宮領康博氏

顧客にパーソナル化した提案を行うマーケティング部門での活用

続いてマーケティング部門におけるSalesforce Einsteinの活用について、米国セールスフォース・ドットコムのマーケティングクラウド シニアバイスプレジデントのパトリック・ストークスが説明。「顧客1人1人を理解し、どんな振る舞いをし、どんな習慣があるのかを把握することができる。これにより、どのようなタイミングで、どのチャネルを活用しているのかを理解し、正しいタイミングで、正しいチャネルに対して、キャンペーンを打つことができる。そしてこれらを自動化することができる」などと述べた。ここでも、予測スコアリングを活用。キャンペーンの実行中にリアルタイムで最適な訴求方法へと変更したり、画像認識技術を活用することで、より効果的なマーケティングに生かすことができる点を示した。

ここでは、オンラインでスポーツ用品を販売するFanatics社の事例を紹介。Salesforce Einstein を活用することで、5人のCRM担当者だけで、40億通のメールを送信し、2万7000件のメールキャンペーンを実施しているという。

再び、セールスフォース・ドットコムの田崎がFanaticsにおけるMarketing Cloud Einsteinを活用した事例をデモストレーション。画面上に、eメールエンゲージメント予測、eメール開封予測、eメールコンバージョン予測などを表示できるほか、ジャーニービルダーを活用して、最適なチャネルを通じたアプローチを、最適なタイミング、最適な内容で提案できるようにしているという。また、ユニフォームなどの商品が届いたら、それを着て自撮りをして、ポストしませんかといった提案を行うことで、コミュニティへの参加を促したり、ポストされた映像をもとに、画像解析技術を活用し、その人に最適と思われる新たな商材を提案するといったことが行われているという。


AIの最先端技術を研究するSalesforce Research

最後に登壇したのは、米セールスフォース・ドットコムのチーフサイエンティストのリチャード・ソーチャーである。ソーチャーは、セールスフォース・ドットコムに新設された研究開発部門について説明した。

「Salesforce Researchでは、最先端のAI研究に注力。深層学習、自然言語処理、画像解析、データベースのほか、さらにその先の技術のブレイクスルーについても研究を進めている」とした。

画像解析技術の具体的な事例としてあげたのが、米最大のX線画像解析企業であるvRadである。vRadでは、年間650万の症例、年間15億枚のX線画像を扱っており、緊急度の高い場合には、遠隔から解析するサービスも提供している。とくに脳内出血の場合には、優先度をあげて、5分以内で解析して症状を分析。その結果、2万人以上が助かり、毎週20人の命を救っているという例を紹介した。

ソーチャーは、新たな学習を通じて画像を認識、分類できるPredictive Visionサービスと、来年提供する予定の深層学習によってテキストの感情を分類できるPredictive Sentimentサービスという、2つのサービスによって、独自のAIソリューションを構築し、自社製品に組み込むことができることに言及。Predictive Visionサービスでは、画像解析により、太陽光発電パネルを、どんな屋根に乗せるのが最適であり、どの家に対して、営業活動をするのが最適かということを提案したり、Predictive Sentimentサービスでは、自然言語処理で質疑応答の内容を把握。ポジティブな言葉が多数使われていても、メッセージ全体としてはマイナスであるといった内容までを認識して、正確な回答を行ったりすることができるという。さらにこのセンチメント分析は、英語だけではなく、日本語や中国語などでも適用可能だと述べた。

「これらの技術を、我々の製品のなかに組み込むことで、最新AIソリューションとして提供していくことが目標である」と講演を締めくくった。