日本はものづくり大国として、長くその名を世界にとどろかせてきました。GDPにおける製造業の割合は22%にものぼり、国を支える最も重要な基幹産業のひとつと言えます。そして、日本の命運を握ると言っても過言ではない製造業は、ロボットなどの最新技術に押されて、今まさに変革の波に飛び込もうとしています。工場のロボット化とスマートファクトリーが見せる製造業の未来像は、いったいどのようなものなのでしょうか。

スマートファクトリーとは

「考える工場」とも訳されるスマートファクトリーは、工場内のあらゆる設備をインターネットに接続することにより、新たな価値の創造を狙いとしています。これまでの工場でも、機器同士をネットワークでつなぐことで、生産状況の監視などを行ってきました。しかしスマートファクトリーでは、工場内で閉じていた従来のネットワークではなく、外のネットワークとのつながりを持っている点が大きな違いです。これにより、消費者のネットショッピングのデータをダイレクトに工場内のシステムに連携し、シームレスかつスピーディーに生産体制を整える、といったことが可能になります。

スマートファクトリーをはじめとする製造業改革で、今もっとも注目される取り組みと言えば、やはりドイツ官民団体が取り組むインダストリー4.0でしょう。あるドイツ企業は、製造業のセオリーとも言える「生産は人件費の安い国で、研究・開発・設計は人件費の高い先進国で」という概念を打ち破った、新しい工場の姿を実現しました。

新興国に置かれた工場が、再び先進国へと回帰

ドイツに本社を置くスポーツ用品メーカーは、1990年代前半に工場を新興国に移転して以来20年ぶりに、本国での工場設立計画を発表しました。背景にあるのは、アジアにおける人件費の高騰と、ロボットの価格下落。1年間に2割以上も人件費が増加することもある新興国での生産よりも、ロボットを用いた方が安定的にコスト競争力のある生産を行えるとの判断を下したのです。また低コストもさることながら、生産の「手」をITシステムと直結することで、スマートファクトリーならではの付加価値を生み出すことも狙っています。例えばビッグデータを用いて各製品への需要を分析し、生産管理システムに需要予測データを連携すれば、市場の動向が変化した次の瞬間には生産の「手」であるロボットたちが、自律的に需要の高い製品の量産体制を敷くことができます。前述のスポーツ用品メーカーは、ドイツだけでなく今後はアメリカ、イギリス、フランスなど、他の先進国にも工場進出を計画しており、今後の展開が注目されています。

「世界の工場」からの脱却 中国におけるスマートファクトリー

これまでの製造業における中国の立ち位置は、安くて豊富な労働力を提供してくれる「世界の工場」としての役割でした。しかし賃金における競争性には限りがあり、そのような賃金格差を狙った工場経営戦略の主戦場はラオス・ミャンマー・カンボジアなどの東南アジア諸国に移っています(関連記事:ASEAN経済共同体が発足 日本企業がアジアで成功するカギとは?)。そこで中国政府は中国における製造業の競争力を向上させるべく、猛烈な勢いで投資を続けており、中国版インダストリー4.0とも言える「中国製造2025」を強力に推進しています。近い将来、「世界の工場」と呼ばれた国は大きな質的転換を見せるかも知れません。

特に象徴的なのが、ロボットの大量導入です。2013年以来産業ロボットの年間導入台数は世界トップを維持し続けており、International Federation of Robotics(IFR)の予測では、2016年末には産業用ロボット保有台数で中国は日本を抜くと見られています。この背景には、中国政府による工場の近代化への巨大な投資があります。例えば製造業が多く集まる広東省では、2015年から2017年までの間に工場のオートメーションに対して8000億円の投資を行うことが表明されています。オートメーションは、人件費の高騰が続く中国においてコスト優位性を確保することはもちろんのこと、製造の質の向上にも大きく貢献すると見られています。

中国政府のオートメーションへの投資は、工場で働く自国民の仕事がロボットに奪われてしまう危険性も秘めています。しかし、黙って指をくわえているだけでは、工場の先進国への回帰により、製造業業界における中国の地位も揺るがしかねません。中国政府はこのジレンマと向き合うなかで、今の地位に安寧とすることなく、変革への道を決めたと見られています。今後「世界の工場」が一体どのような変化を遂げるのか、注目が集まります。

日本のものづくりが競争力を保ち続けるために

日本の製造業は、その製品の質の高さが大きな競争力のひとつと言われ続けてきました。しかしテクノロジーの発達を背景に、製造業の未来像は今と似ても似つかない姿になるでしょう。先進国に回帰した工場は、以前にも増して高い付加価値を提供していきます。また安さが最大の武器であった中国や新興国の工場に、クオリティの向上と言う価値を付与します。日本の製造業が今後も高い競争力を保ち続けるためには、素早い世界の変化をキャッチアップし、先取りしていく機敏さが必要です。SalesforceのIoTソリューションは、組織のアジリティを向上し、業界をリードする最良のパートナーとなるでしょう。

参考文献:

  • IoTが産業を変える(第9回)工場がインターネットにつながる「インダストリー4.0」(日経テクノロジーOnline 高野 敦 2014年8月1日)
  • ロボット工場化を進めるアディダス、24年ぶりに独で生産再開 (ROBOTEER 2016年5月29日)
  • 米国の製造業回帰を検証する(日本貿易振興機構 2013年8月)
  • China’s robot revolution ( Financial Times 2016年6月)