Salesforce World Tour Tokyo 2016が、2016年12月13日、14日の2日間、東京・芝公園のザ・プリンスパークタワー東京と、虎ノ門ヒルズフォーラムを会場にして開催された。
今年の事前登録者数は1万1000人を超え、約120万人がインターネットを通じて参加。今回は国内最大規模のクラウドイベントであり、かつ新たなアイデアやイノベーション、インスピレーションを体感できる同イベントの基調講演を速報リポートとしてお届けする。
今回のテーマは、「Our Path Together―ともに進む。ともに目指す」。パートナー企業や大手/中堅中小企業、非営利団体、スタートアップ企業などから、経営トップをはじめ、ビジネスユーザー、マーケッター、ITマネジャー、開発者などが参加。200を超えるセッションやゲストを交えた講演などを行ったほか、展示会場では、Salesforce EinsteinやLightning、Mobile、Quipといった最新クラウドサービスや業種向けソリューションを一堂に展示。75社以上の企業が最新ソリューションを紹介した。
吉田兄弟による津軽三味線で幕を開けたSalesforce World Tour Tokyo 2016は、最初のイベントである初日午前10時からの基調講演において、セールスフォース・ドットコムの代表取締役会長兼社長の小出伸一と、米Salesforce.comのエグゼクティブバイスプレジデントのアダム・ブリッツァーが登壇。まず小出が強調したのが、セールスフォース・ドットコムがこれまで以上に日本に根ざした会社へと進化していることだった。
「CEOのマーク・ベニオフは日本が大好きであり、2000年の日本法人設立以来、日本市場に対して、積極的な投資を続けてきた。私が会長に就任した2年半前には、日本法人の社員数は450人であったが、今年11月には1000人を超え、倍増している。日本におけるパートナー企業は388社に達し、認定技術者は7400人を超え、ユーザーグループも5500人に増加。日本のベンチャー企業30社に対しても投資を行っている。来年には、東京に続き、関西に国内第2データセンターを稼働させる予定である。政府主導の地方創生プログラムにも取り組み、南紀白浜のテレワークオフィスでは、20%の生産性向上を実現し、このプログラムのモデルケースにもなっている。セールスフォース・ドットコムは、クラウドのパイオニアであり、エコシステムによって、日本の市場を拡大していくミッションを持っている。セールスフォース・ドットコムは、日本は重要な国に位置づけ、戦略的投資をしてきたが、今後10年、20年、30年と日本への投資を続け、日本の企業の成長を支援していく会社になっていく」と述べた。
また、企業がグローバルに展開する上では、「平等(Equality)」が重要な経営指標のひとつであるとの考え方を示し、米本社にチーフ・イクオリティ・オフィサーを設置したこと、日本法人では今年の新卒採用のうち、40%以上が女性であること、3人のパラリンピアンが正社員として採用されていることなどを紹介した。
日本法人を開設して16年を経過したセールスフォース・ドットコムだが、さらに日本に対するコミットメントを強めている。
写真:株式会社セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長兼社長 小出伸一
今回のSalesforce World Tour Tokyo 2016は、小出が、「今年秋に米サンフランシスコで開催し、17万人が訪れたDreamforce 2016の雰囲気、パッション、エネルギーを体感してもらいたい」と位置づけるように、基調講演においても、Dreamforce 2016で発表されたAI(人工知能)のパワーを提供する 「Salesforce Einstein」をはじめとする最新イノベーションの説明が行われた。
小出に続いて登壇した米セールスフォース・ドットコム Salesforce Sales Cloud GM & EVPのアダム・ブリッツァーは、「セールスフォースは、Einsteinによって、世界で最もスマートなCRMになった」と前置きし、「これにより、誰もがデータサイエンティストになることができ、顧客との関係を深めることができる」と説明。「いま、顧客の時代が訪れている。セールスフォース・ドットコムは、顧客との関係を深めるために、次々と革新に取り組んできたが、その旅路は、これで終わるわけではない。あらゆるものがつながり、あらゆるものがスマートになり、そこに我々のチャンスがある」などと語った。
講演では、エンタープライズソフトウェアの変革のためには、「インテリジェンス」、「スピード」、「生産性」、「モバイル化」、そして、すべてが「つながる」という5つの要素が必要であるとし、セールスフォース・ドットコムでは、Salesforce Customer Success Platformにおいて、Einstein がプラットフォームに新たに組み込まれるほかに、Lightning、Commerce Cloud、Quip、LiveMessage、Salesforce 1、Thunder IoT Cloudなどといったプロダクトの提供によって、これら5つの要素を包含し、変革を提案できるとした。
具体的なデモストレーションを交えて、最新技術を紹介したのはセールスフォース・ドットコム プロダクトマーケティングディレクターの田崎純一郎。
デモストレーションを行う前に田崎は、「我々が、複雑なものをシンプルにするために、参考にしたのがアインシュタイン博士。複雑な世界、複雑な宇宙を、『E=mc2』というシンプルな公式で表現した。それに対して、セールスフォース・ドットコムは、CRMをインテリジェントにするための公式を、『世界で最もスマートなCRM=顧客データ+AI+Salesforce Platform』と定義した」と述べ、「インテリジェンスを手に入れるためには、様々なデータを集めること、分析を行うための前処理や、構築するモデルを常に更新する必要があるといった課題がある。これを解決するのがEinstein。様々なデバイスからデータを集め、これを分析することで、発見、予測、推奨、自動化といったカテゴリーにわけてアウトプットし、ビジネスアプリに組み込んだ形で利用できる。データサイエンティストの不足を解消することも可能だ。これが、Einsteinの大きなポイントになる」と述べた。
今回の基調講演の「目玉」として、「顧客の時代」におけるリーディングカンパニーとしてソニーマーケティング株式会社と株式会社日立製作所の2社が登壇した。ソニーマーケティングは、BtoC分野における事例、日立製作所はBtoBの活用事例として紹介。
ソニーマーケティングは、ソニー製品の販売、マーケティングを行い、直営店であるソニーストアなどを運営する企業だ。Marketing CloudおよびService Cloudを活用することで、リアル店舗であるソニーストアでの顧客接点のほか、アプリやウェブ、Eメール、カスタマーサポートなどの様々なチャネルでの顧客接点を強化。プロダクト軸のマーケティングから脱却し、顧客視点でのマーケティングを行う「カスタマーマーケティング」に取り組んでいる。
ソニーマーケティングの河野弘社長は、「創造力と技術力を結集して、豊かなライフスタイルの創造に挑戦してきたソニーが、いかに感動体験を提供するか、好奇心を刺激する製品やサービスを提供できるかといった点に、ソニーマーケティングが取り組んでいるカスタマーマーケティングの存在がある。カスタマーマーケティングにおいては、購入前、購入時、購入後までのトータルなカスタマージャーニーを提供し、顧客の満足度を高めることで、新たなニーズへとつなげていくことを目指している」とし、「セールスフォース・ドットコムの設計思想と、我々が実践したいマーティングの考え方が合致している点が、セールスフォースを採用した最大の理由。メーカーの都合ではなく、顧客の状況、気持ち、行動を見極めた上で、顧客にとってタイムリーな情報が、タイムリーなタイミングで来る環境を構築できた。同時に、部門ごとに分断されがちだったコミュニケーション戦略も統合できた」とする。
会場では、デジタル一眼カメラのαシリーズのユーザーの利用状況などをもとにして、Einsteinが、センサークリーニングなどのサービスを提案することを推奨したり、ソニーストアに入ると、ユーザーに最適な情報を自動配信したりといった取り組みについても説明した。
写真:ソニーマーケティング株式会社 代表取締役社長 河野弘氏
一方、日立製作所では、同社のヘルスケア事業において、Sales Cloud EinsteinおよびSalesforce CPQ、Field Service Einstein、App Cloud Einstein、Analytics Cloud Einsteinなどを活用。各国における案件ごとの管理指標や受注確度指標などを統一し、グローバル共通の情報管理を実現したことを紹介した。ここでは、Einsteinを活用して、これまでの商談の傾向を分析することで、受注率を高める注力ポイントを提案。それを活用することで、商談を成功に導く事例を示した。日立製作所では、セールスフォース・ドットコムの導入により、ヘルスケア事業における売上高を25%拡大したり、受注に結びついた見積もりが30%向上したり、意思決定のスピードが38%向上したことなどを示したほか、機器に設置したセンサー情報をもとにした分析により、ヘルスケア機器の予防保全に活用している事例も紹介した。
登壇した日立製作所の執行役専務 サービス&プラットフォームビジネスユニットCEOの小島啓二氏は、「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニーを始めたいと考えている企業が多く、日立はそうした企業を支援したいと考えている。フィールドで働く人々にアクセスし、そのエクスペリエンスによって、改善することができるのがセールスフォース・ドットコムの特徴。日立のIoTプラットフォームであるLumadaとの組み合わせなどを通じて、デジタルによる業務プロセスの改善を促進していく。企業を変え、産業を変え、社会を変えるという点で、今後もパートナーシップを組んでいきたい」と述べた。
ビデオを通じてメッセージを寄せた日立製作所の東原敏昭社長は、「日立は、データとデータをつなぎ、人と人をつなぎ、ビジネスとビジネスをつなぐことで、新たな価値を創造し、人々のクオリティ・オブ・ライフを向上させたいと考えている。セールスフォース・ドットコムは、カスタマーとの連携に優れている企業。日立とセールスフォース・ドットコムの協創によって、顧客ニーズを満たすビジネスモデルが創出できる。この協業には期待している」と発言した。
写真:株式会社日立製作所 執行役専務 サービス&プラットフォームビジネスユニットCEO 小島啓二氏
最後に小出は、基調講演を皮切りに開催されるSalesforce World Tour Tokyo 2016の内容を紹介しながら、「社員一同、みなさんのビジネスに貢献できるように努力していく」と述べて基調講演は終了した。