日本でも小学校での必修化が検討されるなど、注目の高まる子どものプログラミング教育。早い時期からプログラミングを学ぶことは、これからの時代を生きる若い人材を育成するうえでどのようなメリットがあるのでしょうか?
日本のプログラミング教育に関する状況と世界各国での取り組みと小学校からプログラムを学ぶ意義、これからのプログラミング教育などをご紹介します。
文部科学省は2016年4月、小学校でのプログラミング教育の必修化を検討し、2020年度からの新学習指導要領に盛り込む方向だと発表しました。実際に導入された場合は、理科や算数の授業の一環として小学生がプログラミングを学ぶことになると考えられます。現在も小学校の課外活動としてプログラミング体験を実施することがあるものの、全員が学ぶチャンスはありませんでした。そのため、日本のICT教育における大きな変化になると注目されています。
中学校では、2012年度から「技術・家庭」でそれまで選択科目として扱われていた「プログラムと計測・制御」が必修化され、コンピューターを利用した計測や制御の基本的なしくみや情報処理の手順、簡単なプログラムの作成といった内容を中学生全員が学んでいます。しかし、必修科目とはいえ、中学校3年間で5〜6時間程度と非常に少ない授業時間数であるため、自らコードを書いてプログラミングを行う授業が実施されているケースは少ないのが現状です。
文部科学省では、これらの中学校でのプログラミング教育についても、現在の学習内容に加えて新たにアニメーション作りなどの追加を検討しているとのことです。
また、高校では選択科目としてプログラミングが用意されていますが、履修している生徒は2割程度にとどまっています。こちらについても文科省では、新学習指導要領で必修科目とする方針で検討がすすめられています。
では、諸外国では子どもへのプログラミング教育はどの程度実施されているのでしょうか?
文部科学省の平成26年度情報教育指導力向上支援事業として実施された調査によると、ナショナルカリキュラムにもとづいてプログラミング教育を独立した教科として実施している国はないものの、多くの国で情報教育やコンピュータサイエンスに関する教科の一環としてプログラミングの授業が実施されていることがわかりました。
このうち、日本の小学校にあたる初等教育でプログラミングを必修化している国には、英国やハンガリー、ロシアなどがあります。そして、日本の中学校にあたる前期中等教育でも、英国とハンガリー、ロシア、香港が必修科目としてプログラミングの授業を実施しています。また、韓国とシンガポールの前期中等教育では選択科目として取り入れられています。日本の高校にあたる後期中等教育ではロシアとや上海、イスラエルが必修科目としてプログラミングの授業を導入するほか、英国やフランス、イタリアなど多くの国で選択科目となっています。
では、各国の取り組みの状況を具体的に見ていきましょう。
英国では2014年より新教科「Computing」が導入され、義務教育にあたる初等学校および中等学校では、原則として全学年で必修となっています。この科目は、コンピュータサイエンス、IT、デジタルリテラシーの3つの分野で構成されており、プログラミングの授業授業はコンピュータサイエンスの中で実施されています。
具体的な学習内容は、アルゴリズムの理解やプログラムの作成とデバッグ、論理的推論によるプログラムの挙動予測などで、初等学校では年間30時間程度となっています。
ハンガリーでは初等教育および中等教育で、独立教科として「Informatika」が導入されており、このなかでプログラミングの授業を実施しています。この教科は、初等教育および中等教育の計12年間で連続して実施されるもので、このうち最初の10年が必修、残り2年間のみ選択教科となっています。
Informatikaでは、ITツールの利用法やアプリケーションの知識、インターネットの活用やセキュリティ、著作権などとあわせてプログラミングの授業が実施されます。
初等教育で簡単なアルゴリズムを習得し、前期中等教育では簡単なプログラムの実装と検証、ステップバイステップの計画手順を学び、後期中等教育では改良の原理も学習するなど、基本的な内容から高度なものまで段階的に学べるカリキュラムになっています。
ロシアの場合は、「連邦教育スタンダード」とよばれるナショナルカリキュラムがあり、各州がこのカリキュラムに準拠したカリキュラムを定めて教育を行っており、このうちサラトフ州では、2009年から初等教育でアルゴリズム教育を実施しています。
さらに、2010年からは中等教育で新教科として「インフォルマティカとICT」が実施され、そのなかでプログラミング教育が実施されています。
フランスの場合、現在は後期中等教育の一部のコースのみで数学の授業にプログラミングが導入されています。また、2014年に政府がアルゴリズムとプログラミング教育についての公式声明を発表し、その指針では「どのような職業を選んでも進化する市民として社会に参加するために必要な基本的な知識と技能、共通の文化を生徒に与える“技能と文化の知的共通基盤”」のひとつとして、プログラミングやアルゴリズムを含む科学的言語を位置づけています。
イタリアでは、初等教育および中等教育でコンピュータサイエンスについての授業が実施されています。また、2014年からは、教育省と大学研究機関が連携して小学校にコーディングを導入するプロジェクトも実施されています。このプロジェクトは任意参加のものですが、2014年9月の開始から3か月で全国の公立小学校の1割強が参加するなど高い注目を集めています。
意外なことに、IT産業で有名なカリフォルニア州は、州教育局(California Department of Education)のカリキュラムにプログラミング教育は規定されていません。同州は、慢性的な財政難に悩まされており、州教育局がプログラミング教育を必修科目としていないため、学校によっては指導者を雇えないということも発生しています。そのためSalesforceをはじめとするIT各社が草の根運動的にSTEM教育を提供する機会を設ける運動を行っています。例えば、サンフランシスコ教育学区との間で3年間のパートナーシップを締結し、600万ドル(日本円で約6億円)を寄付し、2015年から2016年にかけては10,000時間の社員ボランティアを行う予定です。
このように各国でプログラミング教育が注目される背景には、プログラミングによって身につけることができる論理的思考力や問題解決能力、情報活用能力などが社会に出たときに広く活用できるという点が挙げられます。また、創造力や自ら学ぼうとする意欲、数量的な感覚などを育てることにも役立つでしょう。
現在はどのような産業であってもITの活用が欠かせないものとなっています。直接プログラミングに携わる職種でなくても、システムを発注する際にシステム開発やプログラミングの知識が求められることもあります。そのようなときに、プログラミングを学んだ経験が役立つと考えられているのです。
プログラミングは、今後ますます教育において重要な存在となっていくのではないでしょうか?また、それにともなって子どもたちが質の高い教育を受けられるようにするための環境整備も欠かせないものとなります。
セールスフォース・ドットコムの社会貢献部門であるSalesforce.orgでは、日本国内でも、特定非営利活動法人CANVASと協働でSTEM(ステム:Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育を実施しています。STEM教育とは、科学、技術、工学、数学の各分野を統合した理数系教育で、子どもたちの科学技術への関心を高め、理解を促進するとともに科学リテラシーの向上をはかり、将来国際社会において新しい価値を創造する人材を育てることをめざしたものです(プレスリリースはこちら)。
活動の第一弾として、現在は東京都墨田区の小学校の総合学習の授業や足立区ギャラクシティで子どもたちにプログラミングを教えています。さらに今度は東京だけでなく大阪や白浜でも活動の拠点を広げていくことも検討しています。
参考文献: