Salesforce Summer 2016 Tokyoの2日目となる7月21日、開発者を対象にしたSalesforce for Developersが、東京・虎ノ門の虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された。(1日目の基調講演の様子はこちら

Salesforceの開発プラットフォームに関する最新技術や開発手法、実践的なノウハウを紹介することを目的に開催。最新技術動向に触れたいとする多くの開発者が参加した。

ローゼンバウムEVPがサプライズ登壇

基調講演は、当初は予定ではなかった米セールスフォース・ドットコム CRM Apps担当EVPのマイク・ローゼンバウムの登壇というサプライズから始まった。ローゼンバウムは、日本の開発者に対するお礼を述べたあと、「日本は、プラットフォームを活用する上ではリーダー的存在である。そして、変革を牽引する役割を担うLightningは重要な位置づけにあるプラットフォーム。日本の開発者に、ぜひLightningに触ってほしい」と述べた。

次にローゼンバウムとともに日本法人の最高技術責任者(CTO)である及川喜之も登壇。

セールスフォース・ドットコムは、カスタマーサクセスプラットフォームの提供を事業の軸に置いているが、「新しいカタチで顧客とつながる」、「モバイルアプリをスピーディに開発する」、「One to Oneのカスタマジャーニーを描く」、「顧客をより深く理解し、予測にもとづいて対応する」という4つのポイントがあることを示しながら、これらの考え方を実現している具体的事例として、確定申告アプリである米インチュイットのTurbo Taxを紹介。SOSを組み込んで、モバイルアプリにコミュニティ機能を追加することで、限界に近づいていた増加するコールセンターへの問い合わせを、1日1万5000件のビデオチャットで対応。ユーザーの画面を閲覧しながら、指示ができるといった効率化も図ることができたという。

さらに、「今後は、AIファーストの時代がやってくる」とし、AIのサポートにより、スマートな機能を提供することができることを示しながら、「MetaMindと呼ぶ、深層学習機能はさらに進化を続けている。AI機能については、近い将来に具体例を紹介できるようになる」とし、今後の進化の可能性を示唆した。

また、セールスフォース・ドットコムでは、HerokuやApexなどから、LightningアプリケーションビルダーやLightningツールまで、コードを書く手法からコードを書かない手法まで、Lightningをベースとした何種類もの手法を提供していることを説明。これらを、統一したユーザーエクスペリエンスと、デベロッパーエクスペリエンスによって実現していることを示した。

「あらゆるものがつながる世界でも、統一感のないユーザー体験、複数の開発環境、連携しないアプリはそのまま。PCやスマホ、タブレットなど、様々なデバイスに対応しつつ、簡単な操作で、誰もが使える環境を提案できるのがLightning。“Build Once, Run Everywhere(一回つくったらどこでも動く)”がコンセプトになる」と述べた。

コンポーネント(アプリケーション)フレームワークとしてのLightning

Lightningでは5つのステップを開発のライフサイクルとして定義している。

1.  設計/ Lightningコンポーネント

LightningコンポーネントとはHTML5をベースとしたコンポーネントフレームワーク。他のフレームワークと異なるのは、設計者が設計の時点で、パッケージ化や再配布を強く意識することにある。コンポーネントなので、独立性、セキュリティ、再利用性に優れている。

2. スタイル定義・リソース/ Lightningデザインシステム

開発者はLightningデザインシステム(公開リソース)を利用することで、コンポーネントをつなぎ合わせる際に、統一されたLook&feel(ユーザーエクスペリエンス)を担保することができる。

3.  デバッグ・チューニング/ Lightningツール

Lightningでは、オンラインIDEやクライアントサイドのツール、加えてCLIも提供している。これらにより、アジャイル開発に組み込むことも可能。

4.  共有(エコシステム)/ Lightning Exchange

Lightningコンポーネントに関しても、開発者はLightning Exchangeを通じて、自由に販売、配布することができる。これにより、標準コンポーネント、自作コンポーネントに加え、ダウンロードしてコンポーネントを利用できる。

5.  組み立て/ Lightningアプリケーションビルダー

最後に目的に応じてコンポーネントをドラッグ&ドロップで組み合わせるのがビルダーの役割で、ノーコードで行うことができる。プレビュー機能も提供されており、PC、タブレット、スマホにあらゆるデバイスでどのように見えるのかといったことを調整しながら開発を進めることができる。

Lightningを活用した「mitoco」とは?

ここで登壇したのが、テラスカイ 取締役執行役員 製品開発部 部長の竹澤聡志氏である。同社が7月4日にリリースしたグループウェア「mitoco」について説明した。

mitocoは、Lightningを活用したビジネスアプリのひとつで、コミュニティ、ワークフロー、ToDo、掲示板、カレンダー、文書管理、組織管理などの機能を搭載。Salesforceの社内SNS Chatterを活用しながら、社内のコミュニケーションを活性化し、同時に効率化することができる。

説明のなかでは、会議室に設置したセンサーデバイスを使うことで、スケジュール上では予約されているものの、実際に会議室が使われていない場合にはそれを判断。ほかの人に利用を促すといった「IoT」を駆使した使い方ができる機能を紹介した。

さらに竹澤氏は、「新しい機能をつくりたいなと思ってLightningコンポーネントを利用したら8割ぐらいできちゃうのではないの?と思う時がある。コンポーネントで開発しておくと、後々になって、開発の生産性向上につながると期待している。」と語った。

Lightningを構成する様々なツール群

続いて、セールスフォース・ドットコムのシニアデベロッパーエヴァンジェリストである岡本充洋は、Lightningのデモストレーションとして、不動産物件を管理している架空の会社:ドリームハウスの物件検索のページをLightningを使ってどのように容易に開発できるかを説明。コンポーネントを選択して簡単に設計ができることを実演した。「Lightningでは、コードを書いて開発したり、コードを書かない開発したり、あるいはそれを組み合わせて開発できるようになっている」と語った。

(写真)上記はLightningアプリケーションビルダーのデモ画面。左側に再利用できるコンポーネント群が並び、右側にあるようにフィールドやラベルを埋めていくことで検索ページを作成する

再び登壇したCTOの及川はさらにLightningのほかにCustomer Success Platformとして多様な機能を提供していることを追加した。Salesforceのコア機能をさらにコーディングで拡張するためのプログラミング言語APEXを提供。データベースのトリガーをつくる時などに活用できる。さらに特定のライブラリや言語を使いたいといった場合や、他のウェブサービスとの連携のために中間サーバーを用意したいといった場合に活用することができるHeroku Enterpriseを紹介した。

「これらはセールスフォース・ドットコムによるカスタマーサクセスプラットフォームの一部であり、Heroku Postgresデータと、Salesforceのデータを自動同期させることができるHeroku Connectも提供。Salesforce上のアカウントに対するシングルサインオンを簡単に実現できる」とした。

事例として、コンシューマ向けのウェブアプリケーションやモバイルアプリケーション、IoTのバックエンドサービスをHeroku上で開発。また、業務系システムをSalesforce上で開発し、これらのデータ同期をHeroku Connectによって行うといった使い方が増えている例にも触れた。

さらに、「Salesforce1によるモバイルアプリは、Lightningのコンテナと位置づけられる」とし、Lightningアプリケーションビルダーで開発したアプリは、即座にSalesforce1に反映することが可能だとしたほか、完全に独立したアプリとして開発したい場合には、モバイルSDKをオープンソースとして公開しており、これを活用することができるという。

Bot、音声認識、機械学習。最新技術にも柔軟に追随できる環境を実現

再び行われたデモストレーションでは、同様に不動産物件情報のサイトを使って、モバイルSDKを使って制作したwebページのユーザーエクスペリエンスが、PCにおいても同じUXを容易に提供できることを説明。またユーザーがお気に入りに登録した物件がアプリを閉じていても、Salesforce上のレコードが更新され価格が安くなった場合に、プッシュ通知でモバイルに知らせる方法についても実演した。さらに、こうした物件が更新された際に企業がFacebookで告知した際に、利用できるFacebook botとの連携方法にも触れた。

(写真左)Salesforce上で管理しているデータから、Facebook上でFacebook botを活用して検索したいものを(写真右)呼び出すことが可能になる様子

なお、これらの内容は、dreamhouseappjp.ioで公開されており、ソースコードを確認することもできるという。「中身をみると驚くほどコードが少ないことが理解できる」とした。

最後に、CTOの及川は、「カスタマーサクセスプラットフォームを中核において、システムを構築すれば、Botや機械学習、音声認識といった新たに生まれてくる技術、新たなトレンドに即座に追随できる」と語り、基調講演を終えた。