慢性的な貧困にあえぐBOP(Base of the economic Pyramid)層は、現在世界に40億人いるともいわれています。この社会的な問題は、さまざまな原因が複合的に絡み合っていることが多く、解決は容易ではありません。しかし、多くの人々が最新テクノロジーを携えて果敢にこの問題に取り組んでおり、BOP層の人々の生活を変えようとしています。
2010年時点の貧困率が44.9%、乳幼児死亡率も2008年のデータで1,000 出生あたり62と高い数値となっている、ルワンダ共和国。1990年代に多発した紛争は国家を疲弊させ、高い貧困率を引き起こした大きな原因のひとつとも言われています。現在では、2020年の経済成長の目標を描いたVISION2020の実現に向けて、汚職撲滅、投資促進などさまざまな政策が実行されていますが、その道のりは平たんなものではありません。
そんななか、シリコンバレー発祥のスタートアップ企業Ziplineは、ルワンダにおいてドローンを用いた医療品の配送サービスを立ち上げました。交通インフラが非常に脆弱であるルワンダでは、普段なら数時間で荷物が配送される所が、悪条件が重なると数日待たされることもしばしば。しかしドローンであれば、道路の寸断にも渋滞にも影響を受けず、安定的かつ安価にものを届けることができます。
このプロジェクトの第一段階として、パラシュートが付いた箱を上空100メートルあたりから降下させることによって、地方の医療施設に輸血用血液を届けるサービスが、2016年8月から開始されます。Ziplineが提供するドローンの航続距離は約75kmであり、複数の配送基地を配備することでルワンダ全域をカバーします。プロジェクト第一段階がうまく機能すれば、いずれはワクチンや他の医療用品などの用途に幅広く活用されていく予定です。いつの日か、ルワンダ上空を飛び回るドローンが人々の健康を支える、不可欠なインフラになる日も来るかも知れません。
発展途上国に住む人々の中には、しっかりとした家に住むことのできない人も多くいます。粗大ごみを寄せ集め、屋根をつけた簡素な作りの家に住む人々…はまだ良い方で、定住する場所を持たない、いわゆるホームレスも相当数存在しています。ホームレスの人々の正確な統計値を知ることは難しいのですが、参考値として、路上に住むストリート・チルドレンは世界中で数千万人に上ると予測されています。家は、人々が安全に生活していくための最も基礎的な要素ですが、貧困状態にある人々にとっては夢のまた夢の代物です。
しかし、そんな状況を3Dプリンターが解決してくれるかも知れません。3Dプリンターと言えば、手のひらサイズの小さなプロトタイプを「プリント」できる機械が思い起こされます。しかし南カルフォルニア大学のベロク・コシュヴェニス博士が主導するContour Craftingというプロジェクトは、セラミック素材をインクとして使用する、高さ4~5メートルにも達する巨大な3Dプリンターを使って「家」をプリントするという、壮大な目標を掲げています。ちょうどドーナツを縦に積み重ねていくと円柱状の柱ができるように、構造物を層状に積み重ねていくことで、家の構造物を形成していきます。作業はすべて自動で行われるため、専門技術を持った大工も不要で、通常のサイズの家であれば20時間程度で完成させることができます。コシュヴェニス博士は、この巨大プリンターを災害時の仮設住宅設営や、発展途上国の居住問題に役立てようと、日夜研究を続けています。
ルワンダ共和国でのドローン活用や3Dプリンターによる家の建設など、最新のテクノロジーは途上国に住む人々をより良い方向へと導こうとしています。では、このようなテクノロジーが描き出す未来は、いったいどのようなものになるのでしょうか。MIT スローンスクール、デジタルビジネス研究センター主任リサーチサイエンティストであるアンドリュー・マカフィー氏は、楽観的な未来を思い描いていると言います。
マカフィー氏による、Dreamforce 2015での講演の詳細はこちらをご覧ください。「第2の機械時代」人間がマシーンより優れている能力とは?
最近話題の人工知能やロボティクスは、将来的に多くの人の仕事を奪いに来るというネガティブな文脈で語られることが多くあります。しかし、マカフィー氏は、人口が爆発的に増え続けているにも関わらず、テクノロジーの進化によって貧困に苦しむ人々の数が減少している点に着目しているのです。人工知能vs人間という対立軸ではなく、人工知能と人間とがコラボレーションすることによって、新たな価値が生み出されるといった研究結果も発表されています。
いつの日か、地球上から貧困という文字が消え去る日が来るかも知れません。Salesforceも最新のテクノロジーと、社会貢献活動「1-1-1モデル」を通じて、その実現を支援してまいります。
参考文献: