今年も夏の年次イベント「Salesforce Summer 2016」が、7月20日、21日の2日間、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された。今回は、「顧客の時代へ  The Age of the Customer」をテーマに、最新テクノロジーや業界動向、お客様による成功事例、アプリケーション開発の手法などについても説明が行われた。事前登録者数は5,500人以上に達し、Salesforceに対するユーザー企業やパートナーの関心の高さを感じさせるものとなった。

「顧客の時代」を迎え、企業が行うべきこととは?

初日の午前10時から開催された基調講演は、500人以上が聴講する盛況ぶりとなった。

そして、この基調講演において、セールスフォース・ドットコム 代表取締役会長兼CEOである小出伸一が切り出したひとことは、今回のSalesforce Summer 2016の目的を象徴するものであったといえよう。

小出は、「センサーやデバイスによって、あらゆるヒト、モノ、コトがつながる時代が訪れており、その先にはお客様がいる。企業は、顧客を徹底的に意識したモデルへと変えざるを得ない状況にある。これが顧客の時代である」と前置きしながら、「だが、顧客の77%が、企業やブランドとのつながりを感じていない。しかも、大量の顧客データは1%以下しか使われていないというのが実態。つまり、理想と現実のギャップが存在している。それを埋めて、差別化戦略にできた企業だけが生き残ることになる。顧客の視点に立ったビジネス、顧客の視点に立った経営こそが、今後の成功要因になる」と語った。

これが顧客の時代に求められる経営手法であり、そこに貢献するところに、セールスフォース・ドットコムの存在価値があるというわけだ。

基調講演では、4つのユーザー事例を紹介してみせた。

ひとつめは、「新しいカタチで顧客とつながる」という切り口から、日本最大級の不動産・住宅情報サイト「HOME'S」で知られるネクストの事例だ。同社では、コンタクトセンターや不動産業者、営業部門といったすべての接点の情報を一元的に管理。「問い合わせた時点で、自分のことをすべて知っており、大切に扱ってくれている、と顧客が感じることができるサービスとして提供している」という。

2つめは、「スマートフォンからビジネスを探す」という観点で紹介した東京海上日動火災保険である。代理店にスマホ、タブレットを活用した保険契約手続きのツールを提供。「手のひらの上でビジネスを拡大している企業である」と表現した。熊本地震でも、タブレットを使った被害状況の調査、保険金の支払い業務を積極的に推進。同社が開発したモバイルエージェントと呼ぶスマホアプリでは、Marketing Cloudを活用。顧客自らが使用して、事故の際にレッカー車を手配したり、示談に関する情報を提供したりといった使い方ができるという。

東京海上日動火災保険の取締役 常務執行役員であり、東京海上ホールディングスの常務執行役員 グループIT統括の五十嵐芳彦氏は、「お客様や、社会のいざというときに、お役に立つ会社になりたい。それにより、社会から信頼される会社になりたいと考えてきた。エクセレントカンパニーではなく、グッドカンパニーになりたいというのが基本姿勢」と語りながら、「ITへの投資を積極的に進めてきたのは、お客様のために、ビジネスプロセスを洗練されたものに仕上げていく狙いがあるため。業界内ではいち早くモバイル戦略を打ち出し、タブレットを使って、代理店の業務を支援してきた。セールスフォース・ドットコムには、今後もオープンな仕組みを提供してくれることに期待したい」などと語った。

東京海上日動火災保険 五十嵐芳彦氏

今年4月には、米サンフランシスコのセールスフォース・ドットコムを訪問し、トップエグゼクティブと面談し、「そこで多くの気づきを得て、今後のアプリ開発にも生かしていくことができるようになった」というエピソードも披露した。

3つめに紹介したのが、ネットストリーミング事業を展開しているネットフリックス。「すべてのヒトとモノが、よりスマートに」と題して、顧客データを積極的に活用することで、成功している事例だとした。

同社の従業員の半分はデータアナリストであり、顧客の行動や嗜好、経験を分析し、最適な作品を提案し、ビジネスを拡大。視聴されている映像の75%が、データアナリストが分析した結果によって提案されたものだという。データをもとに顧客のニーズをがっちりと掴み、それをビジネスの拡大につなげている事例だといえよう。

そして、最後に紹介したのがセレクトショップを展開するビームスである。「One to Oneのカスタマージャーニーを描く」取り組み例として紹介。同社がスマホアプリなどを通じて実現している、一人ひとりの顧客に最適化した形で情報を提供する仕組みについて説明した。

ビームス 取締役 情報システム本部 本部長の清水伸治氏は、「ビームスが伝えたいことが、確実に顧客に伝えることができているのか、という疑問がある。また、企業視点のOne to One Communicationsであり、顧客視点のOne to One Communicationsには至っていないという反省もある。昨年から、顧客システムを刷新する大きなプロジェクトを開始し、Marketing Cloudを導入。顧客それぞれにあわせた情報提供を開始した」という。

今後、ビームスが取り組むOne to Oneのカスタマージャーニーが、どのような形で成果に結びつくのかが楽しみだ。

なお、基調講演の冒頭には、セールスフォース・ドットコムの設立以来17年間に渡る感謝を参加者に述べたほか、2017年度は80億ドルの売上高を目標としており、これを達成すれば世界第4位のソフトウェア企業になること、日本のベンチャー企業29社に投資していることや、今年、関西に国内2番目のデータセンターを開設したことなどに触れ、「引き続き、日本市場に対してコミットメントしていく」と語った。

CRMの再構築に挑んだセールスフォース・ドットコム

続いて登壇したのが、米セールスフォース・ドットコム CRM Apps担当EVPのマイク・ローゼンバウムである。

セールスフォース・ドットコムが、2013年から、CRMの再構築に取り組んできたことを振り返り、2013年にはSalesforce1によりモバイル対応を図ったこと、2014年にはSalesforce1 Lightningの提供により、プラットフォームを再構築したこと、さらに、2015年にはLightningを、すべての製品に反映して、すべてのユーザーエクスペリエンスをモダン化したことを紹介。次世代カスタマーサクセスプラットフォームである「Salesforce Lightning」を通じて、新しいカタチで顧客とつながるLightningを提供する地盤が整ったことを強調してみせた。

「Lightningによって、新しいエクスペリエンス、新しいビルダー、新しいエコシステムが提供できるようになる」とした。 

すでに、Lightningは10万人社以上が利用していること、100万人以上のSalesforce1 ユーザーがいること、Lightningに対応した65以上のパートナーコンポーネントが用意されていることに触れながら、「Sales Cloud、Service Cloud、Marketing Cloud、Community Cloud、App Cloud、Analytics Cloudといった業界ナンバーワンのアプリが、ひとつのプラットフォームの上で提供されている。Lightningによって、これが、さらに進化することになった」と語った。

講演のなかでは、営業担当者を支援する「Sales Cloud Lightning」や、リアルタイムに情報を分析し、入手できる「Analytics Cloud」、アプリ開発を容易にする「App Cloud Lightning」といったLightning対応アプリを紹介。新たなアプリである「Salesforce CPQ」と「Field Service Lightning」については、セールスフォース・ドットコム マーケティング本部の田崎純一郎が、デモストレーションを行ってみせた。

Salesforce CPQは、見積書や提案書、見積りから入金までを自動化することができるアプリであり、Field Service Lightningは、スケジュール調整や作業要員派遣の自動化、リアルタイムでの作業管理ができるアプリ。Lightningプラットフォームによって、作業状況を可視化する点でも高い効果が発揮できるようになっている。

企業のデジタルトランスフォーメーションを支援 

最後に登壇したのが、セールスフォース・ドットコム 取締役社長兼COOの川原均である。

IDC Japanの調査結果をもとに、米国に比べて、日本の企業はデジタルトランスフォーメーションに対する成熟度が遅れていることを指摘。「日本の企業は、半数近くがデジタル探索者といわれる領域に属しており、デジタルトランスフォーメーションに対して一歩引いたところにいる」と述べた。

ここでは、ゲストとして、アクセンチュア代表取締役社長 江川昌史氏を招き、デジタルトランスフォーメーションに対する考え方などについて触れた。

「顧客がデジタル化するデジタルカスタマーと、企業がデジタル化するデジタルエンタープライズという2つの観点から、デジタルトランスフォーメーションを捉えている。この2つのバランスが大切。デジタルカスタマーは進んでいるが、デジタルエンタープライズが遅れている実態がある」と、江川社長は語った。

アクセンチュア 江川昌史氏

最後に、川原は、セールスフォース・ドットコムが、今年後半に向けて様々な製品を国内に投入していくことに触れた。ここでは、見込み客の創出から受注、追加商談まで同じプラットフォームで、一気通貫で提供する「LEAD TO CASH」と、すべてのチャネルで顧客とつながりロイヤルカスタマを創出するための「ENGAGEMENT CENTER」という2つのカテゴリーにわけて説明。Pardotの新機能であるPardot Engagement StudioやService CloudのモバイルサポートソリューションであるSOSを6月に提供したこと、9月にはSalesforce CPQおよびField Service Lightningを投入する予定を公表した。

「こうした製品は、コンサルティングパートナー、ISV/OEMパートナー、システムインテグレータ、リセールパートナーなどとともに、カスタマーサクセスプラットフォームとして提供する。これは、『顧客の時代』において価値を提供するものになる」と語り、基調講演を締めくくった。