2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されてから、以前にも増して日本食への世界中の注目が高まっていますが、それが輸出額という形で日本の食産業に潤いをもたらしています。農林水産省は、2015年の農林水産物・食品の輸出額が昭和30年の統計開始以来、最高額の7,452億円となったことを発表しました。

農林水産物・食品の輸出額の推移を見てみると、東日本大震災や円高の影響が色濃い2011年・2012年を底に、2013年からは3年連続で前年比成長を実現しています。この背景には当時の円安の効果もさることながら、農林水産省が推し進めてきた「FBI戦略」の功績が大きく寄与していると考えられます。日本食ブームを支える舞台裏は、どのようになっているのでしょうか。

農林水産省のFBI戦略 包括的な取り組みと緻密な戦略立案

食文化・食産業のグローバル化に向けたFBI戦略は、2014年に安倍首相から林農林水産大臣に出された「攻めの農業政策を検討すること」という指示のもとに制定されました。具体的には、食文化・食産業のグローバル化を次の3つの視点から推し進めるというものです。

・Made FROM Japan ― 日本食・食文化の普及/世界の料理界で日本食材の活用推進

・Made BY Japan ― 日本の食文化・食産業の海外展開

・Made IN Japan ― 日本の農林水産物・食品の輸出

以前は食品の輸出促進といっても関税に関する交渉が中心で局所的な対応に留まり、立案された戦略も品目ごとの詳細なプランが無いために緻密とは言えないような代物でした。しかし、2011年に農林水産省に食料産業局が設立され、関税のみならず食品製造・卸・小売り・外食・知的財産まで包括的に取り扱う体制が整えられました。また戦略においても、輸出額の大目標とともに品目ごとに詳細な目標と計画が立案され、ターゲット国に対する施策と予算も細かに煮詰められるなど、より精度の高い内容となりました。

FBI戦略においては、農林水産物・食品の輸出額を2016年に7,000億円、2020年までに1兆円とするという目標が掲げられていましたが、冒頭で紹介した通り2015年にはすでに7,000億円を超えており、中間目標を1年前倒しで達成しています。

こんにゃくの食べ方が分からない!?胃袋をつかむにはまず顧客ニーズをつかむ

FBI戦略のもとに打たれた施策は、ビジネス環境の整備や出資などの金銭的支援、日本食ブランドの地位向上など、すでに進出している事業者はもちろん、これから海外進出を検討する事業者にとっても追い風になるものばかりです

では、海外における食ビジネスの成功のポイントはどこにあるのでしょうか。

ひとつには、現地の顧客ニーズを正しく把握することが挙げられます。食文化はその国が持つ歴史や宗教、文化に深く結び付いており、日本人の感覚からすると当たり前で親しみのある食べ物でも、外国人にとっては全く不可解な食材に見えることもあります。このギャップに気づくことができなければ、いかに日本で売れている商品でも外国では鳴かず飛ばず、という状況に陥りかねません。

福岡でこんにゃくを製造している農家がこんにゃくをそのまま輸出したところ、外国人からは「食べ方が分からない」「調理方法が分からない」といったような、美味しい・美味しくない以前の評価を受けてしまいました。日本の食文化を知らない外国人にとって、こんにゃくをどのように扱っていいか分からず、購入意欲がわかなくなってしまったのでしょう。こんにゃく農家は外国人シェフに相談し、海外の方でも食べ方がイメージしやすいこんにゃくを使った麺を作ってリベンジした所、20か国を相手に輸出を行うまでになりました。

またシンガポールで和食レストランを経営するマネージャーは、日本人と外国人が持つニーズの違いを目の当たりにしたと語ります。「シンガポールでは日本食がブームとは言え、やはり現地のお客様の求めるものは大きく異なります。例えばシンガポールの串焼き専門店において、現地のお客様が“寿司”が提供されていないことにガッカリして帰ってしまった、という光景を何度も見てきました」外国人は日本食のカテゴリを詳細に理解していないことが多く、串焼き専門店に対して「メニューには串焼きしか無く、レパートリーが少ない」という評価を下す方もいるのだそうです。その後この串焼き屋では、寿司やうどん、そばといったオーソドックスな日本食を提供することで、日本食に馴染みが薄い外国人のお客様にも楽しんでもらえるようになりました。

「胃袋」をデジタルで把握する?市場はB2CからMe2Bの時代へ

これまで見てきたように、外国人の持つ食へのニーズは日本人のそれと大きく異なり、ビジネス成功のためには現地の顧客ニーズを正確に把握することが重要なポイントになります。これまでの「国別・地域別」などの大きな括りや、「何がいつ売れたか?」ということだけではなく、Webサイトを見て来店したのか、ソーシャルメディアの口コミで来たのか、店頭でどんな会話があったのか、といった情報を横断的に把握できたとしたらどうでしょう。

Salesforceではこのような顧客ニーズを詳細に把握して、“個客”として統合的に理解するためのソリューションを提供しています。文化の異なる地でビジネスを行う際には、ひとりひとりのちょっとした気づきがビジネスに大きなインパクトを与えることもしばしば。これらの小さな気づきを顧客データとして管理し、共有することで大きなビジネスインパクトに変えることができます。加えてSalesforceのクラウドソリューションは利用期間や内容に応じて料金を払う、サブスクリプションモデル。スモールスタートで海外展開を実現することができます。“個客”ニーズを統合的に把握するためのソリューションについては、下記eBookをご覧ください。

参考:

  • 農林水産省 -農林水産物・食品の輸出促進について
  • NHK - なぜ今、農産物の輸出なのか!? 輸出戦略の専門家が語る
  • 一般社団法人 日本貿易会 食文化・食産業のグローバル展開について