朝食のお供に、仕事前や仕事の合間の一息に、今やコーヒーは人々にとって欠かせない飲料と言っても過言ではありません。そんな飲料の代表格をめぐるビジネスは熾烈を極めていますが、今もっともコーヒーを提供しているお店はどこかご存知でしょうか?それはコーヒーショップチェーンではなく、実はコンビニチェーンなのです。
コンビニコーヒーの猛攻は既存の飲食店への影響はもちろんのこと、コンビニにて同じく商品棚に並ぶペットボトル飲料や缶飲料にとっても非常に大きな脅威になっています。そのため各飲料メーカーは特定のコンビニ向けのオリジナル商品を企画するなど、戦略を転換して生き残りを図っています。
このように、既存のビジネススタイルに固執しない新しい発想や未知の脅威に対応するスピーディーな思考の転換、つまり企業に新しい価値をもたらす「イノベーション」が、これからの企業には欠かせないものとなっています。本記事では、そんなイノベーションの重要性や実現に向けて取り組むべきことについて解説します。
デジタル化が進む現代社会におけるイノベーションとは、ITの力で新たなものを生み出し変革を起こすことによって、社会的、経済的な価値を生み出すことを意味しています。
イノベーションの定義については、下記の記事も参照ください。
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イノベーションの定義とは?これから目指すべきイノベーションを考える
では、そもそもなぜイノベーションが重要視されているのか。それは、国や社会、企業においてこれまでの価値観が限界を迎え、現状を打破する必要があるからに他なりません。
各企業にとって現行方式で行われるビジネスは改善を繰り返してたどり着いており、今後改善によって大きな変化は望めないところまで到達していることも少なくありません。そのような場合に、従来の改善とは違った創造性がビジネスに変化をもたらす契機として望まれているのです。
今後の労働人口の減少はもはや避けられない問題となっています。企業はこれまでと同様のリソース配分をすることが難しくなり、より効率的にビジネスを成り立たせる必要があります。その実現方法としてイノベーションが必要とされています。
IT技術の発展は現在も急速に進んでおり、多くの恩恵をもたらしてくれています。ビジネスにおいてはそのサイクルの速さに対応する必要があり、スピードに遅れないように新たな価値を生み出さなければ競争力の低下へとつながってしまいます。この観点からも、IT技術を取り込み、変化をもたらすイノベーションが望まれるのです。
ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏は著書『イノベーションのジレンマ』の中で、「持続的イノベーション」「破壊的イノベーション」という概念を提唱しています。
持続的イノベーションとは原文の「Sustainable」を翻訳した言葉で、既存の顧客のニーズに合わせて製品やサービスの価値を高め、継続して改善していく形のイノベーションを指しています。
破壊的イノベーションは原文では「Destructive」と書かれており、持続的イノベーションの対となる概念です。「市場競争のルールを根底から破壊し、既存企業のシェアを奪うほど革新的なイノベーション」という意味を持ちます。ここで破壊されるのは、既存のルール、仕組み、考え方であり、ネガティブなイメージの「破壊」ではありません。
企業にとって持続的イノベーションは業務の改善そのものであり、取り組むべきとされている重要なミッションです。しかし、持続的イノベーションには限界があり、破壊的なイノベーションに取って代わられてしまう未来が想定されているところにジレンマがあります。
クレイトン・クリステンセン氏は、持続的イノベーションがもたらす問題点をこのように語っています。
イノベーションを実現するための一つの対策として、イノベーションが起き得る組織、体制づくりが挙げられます。
組織作り・体制
イノベーションが実現できない企業では、既存の組織、体制がその実現を阻んでしまっているケースがあります。既存事業には最適化されているものの、新たなイノベーションが生まれるための組織にはなっていないということです。
イノベーションを起こすことができる組織、体制づくりのポイントには以下の点が挙げられます。これらを備えたイノベーションを専門としたチームを企業内に作るケースも多くなっています。
「イノベーション」などと言葉にするのは簡単なことですが、それを成し遂げることは並大抵のことではありません。近年注目を集めている「デザイン思考」という思考プロセスは、イノベーションをマネジメントするための強力なサポーターとして広く認知されています。
デザイン思考はデザインコンサルティングファームの IDEO 社のノウハウから発展したプロセスで、Apple や P&G、GE、ノキアなどそうそうたる大企業が事業戦略に導入しています。デザイン思考の特徴は、まず「共感」というプロセスによって、どこに問題があり、なぜ問題なのかを特定する点にあります。思い込みや拙速な判断をせず、徹底的にユーザーを観察し、ユーザーすら気づいていない本当の目的や本当の課題をあぶり出していきます。本当の課題が判明してはじめて問題を設定し、プロトタイピングを繰り返してアイデアを具現化していきます。
コンビニコーヒーの例にとると、コーヒーショップの持っていた強みは、コーヒーの味といった商品力もさることながら、「おしゃれで居心地の良い空間」にもありました。しかし休日や仕事後であればいざ知らず、忙しい平日の朝にコーヒーショップに立ち寄りソファ席でくつろぐことは、全ての人に当てはまるわけではありません。もちろんテイクアウトもできますが、本格的なコーヒーを手に入れるためにはそれなりの待ち時間ができてしまいます。つまり、ユーザーは美味しいコーヒーを飲むためには、ある程度の時間を犠牲にするという「問題」を抱えていたとも言えます。
コンビニ各社はここに目をつけ、徹底的なプロトタイピングを通じて美味しくかつ速やかにコーヒーをいれるコーヒーマシンを開発しました。コンビニのレジはもともと徹底的な効率化が図られており、コンビニは通常オフィスの近くなど立地条件の良いところに建っているため、いれたてのコーヒーをオフィスに持っていって飲むことが可能になります。ユーザーの「コンビニエンスストアに求める体験」を徹底的に観察してきたからこそ完成したサービスと言えるでしょう。
以前は、新しい IT システムの導入となればオンプレミスが一般的で、構築にかかる費用が数千万から数億円もかかり、システムの設計から構築、導入まで数年かかるといったこともありました。その点、Salesforce は SaaS 型で IT システムを、「使いたいときに使いたいだけ」というサブスクリプションモデルで提供してきました。
IT システムを提供する企業は、新しい技術や仕組みを追求しがちです。しかし、セールスフォース・ドットコムではこうした技術発想ではなく、顧客の成果を達成することを目標とするビジネス発想こそがイノベーションを生むと考え、レピュテーションをマネジメントし、顧客志向を徹底しています。
クラウドという新しい技術モデルや、サブスクリプションという新しいビジネスモデルも、こうした顧客志向からきたものであり、セールスフォース・ドットコムの成功の鍵はここにあるとも言えます。
また、「総務省 令和 2 年度情報通信白書」によると、国内におけるクラウドサービスの利用動向として、一部でもクラウドサービスを利用している企業は 64.7% に上り、情報通信業においては9割を越え、金融・保険業および不動産業でも80%近い利用率となっています。企業におけるクラウドサービスは日本においても必須レベルのサービスとなってきていることがわかります。
このようにセールスフォース・ドットコム自身も、「クラウド」や「サブスクリプションモデル」という新しいルールをIT業界に持ち込んだゲームチェンジャーであると言え、設立 16 年目で Fortune 500 にランクインするソフトウェア企業へと成長することができました。
このようにイノベーションを起こすには、「イノベーション=技術志向」という考え方から脱却して、顧客志向で考える必要があります。今話題となっている IoT(Internet of Things)も概念自体は昔からあるものでした。現在 IoT が再び注目されるのは、センサーなどの技術的な参入障壁が少なくなったことも否めませんが、様々な情報を入手できるようになることで、それを利用する顧客の動向を可視化できることが大きな理由でもあります。ところが、こういった技術を「技術先行で」サービスを提供しても、必ずしも顧客に価値あるサービスを提供できるとは限りません。そこでセールスフォース・ドットコムでは、IoT ソリューションを、IoC ソリューション(Internet of Customers)と呼び、提供しています。モノと人(ユーザー)をつなげて顧客志向のサービスとして転換できるように支援しています。技術発想ではなく、ビジネス発想こそ、新しい価値を生むイノベーションの源泉となるからです。
デザイン思考のような洗練された思考プロセスと、Salesforce の IoC ソリューションを組み合わせて顧客と真摯に向き合えば、あなたの企業がゲームチェンジャーとして歴史に名を残す日も遠くないかも知れません。
日本のビジネスにおいても、企業の大小を問わずイノベーションが必要とされている状況です。特に破壊的なイノベーションを生み出せなければ、大きな企業でも力を失っていくと考えられています。
イノベーションを起こすためには、既存の組織・体制を見直し、デザイン思考、顧客志向、ビジネス発想に思考を転換していかなければなりません。貴方の企業をゲームチェンジャーにするためにも、今こそ大きな発想の転換を図り、イノベーションが生まれる環境の構築を推進することを推奨します。
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