日本が国を挙げて観光立国を目指していることは多くの方がご存知だと思いますが、「観光立国推進基本法」という法律の存在はあまり知られていないのではないでしょうか。1963 年に制定された「観光基本法」のすべてを改修する形で 2006 年に成立した本法案は、前文において観光立国の実現を「21 世紀の我が国経済社会の発展のために不可欠な重要課題」と位置付けています。文字通り、観光業は我が国にとっての大事業のひとつなのです。
これまでに具体的な政策も数多く行われてきており、主だったもので 20 の重点市場を対象に海外でのマーケティング活動、旅行博の実施、在外公館等連携事業、官民連携事業、地方連携事業が挙げられます。また、ビザの緩和も段階的に実施しており、2013 年にはタイ、マレーシアへのビザ免除、2014 年にはインドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、ブラジルへのビザの緩和を行っています。タイ・マレーシアからの訪日旅行者数は、ビザ免除後に 2 倍程度増加しました。
訪日外国人の増加の理由として昨今では円安ばかりがクローズアップされておりますが、上記のような戦略的・包括的な取り組みの賜物と言う方が正しい理解でしょう。政府発表の『日本再興戦略 改定 2014』においては 2020 年に 2,000 万人の訪日外国人客を目指すとしており、2014 年の 1,341 万人の 1.5 倍という意欲的な目標が掲げられています。
観光業や周辺の産業に携わる方々にとって、これほどの大きなチャンスを逃す手はありません。ではどのように商機をつかめばいいのでしょうか。
観光庁の発表している「訪日外国人の消費動向」を詳しく見てみると、実は半分以上の方々が複数回訪れています。
※国土交通省 観光庁「訪日外国人の消費動向 平成 27 年 4-6 月期 報告書 P9」を参考に作成
海外旅行が身近になった今、上記グラフに見られるように複数回訪問者の存在は当たり前になっています。そのため、マルチ言語対応の Web サイトや外国語が堪能なスタッフを雇うなど「一回目」に来てもらう施策は、いわば商機獲得のスタートライン。本当の闘いは、訪日外国人にとって高い満足度を感じてもらい、いかにリピーターになってもらうか、という点になるでしょう。顧客満足度向上のためにも、リピーターであることを即座に把握できるような顧客管理体制が必要になります。
そして、リピーターには、前回満足度が高かったものを提供したり、体験できなかったことを体験させてあげたりすることで、再来訪につなげることができるのです。
顧客満足度向上のためには、顧客管理などのサービスそのものの改善と並行して、より良い従業員による対応が欠かせません。そこで近年、特にサービス業において、インターナルマーケティングの重要性が叫ばれています。
インターナルマーケティングとは、顧客に対する社外(エクスターナル)マーケティングと異なり、企業が従業員に対して施すマーケティング施策を意味します。顧客に良いサービスを施すためには、直接顧客と関わる従業員が会社の目標や夢にコミットしてこそ、良いサービスが提供できるという考え方です。平たく言い直すと、従業員満足度の高い組織こそ、より良いサービスが提供できるというものです。そのため、従業員の会社に対する満足度やエンゲージメントの向上を図るマーケティング施策がインターナルマーケティングと呼ばれ、認識されるようになりました。
では具体的にインターナルマーケティングとはどのような施策を指すのでしょうか。主には、会社からの円滑な情報共有や適切な教育、従業員同士のコミュニケーションの活性化、従業員から会社へのアウトプットなどが挙げられます。つまり情報やコミュニケーションをいかに活性化させるかが鍵となっているのです。観光業のように、ホテルが複数拠点あったり、同時期に休みを取らせて研修を受けさせたりという条件では、インターナルマーケティングを適切に行うのが難しいのが実情です。そこで、米国のある航空会社では、社員間のコミュニケーション活性化や、煩雑な社内手続きをいつでも、どこでもできるように、マルチモバイルに対応した Salesforce の HR ソリューションを導入しました。
煩雑な社内手続き業務を効率化や、いつでもどこからでも手軽に社内手続き業務を行える手段を提供することで、従業員の満足度向上に寄与することができます。また社内 SNS を利用することで、普段はなかなか顔を合わせることのできないマネジメント層と現場スタッフとをつなぐことも可能です。
訪日外国人の増加による商機を一過性で終わらせないためにも、ITによるサポートで顧客満足度と従業員満足度を高めることで、一歩先をいく「おもてなし」を提供していくことができるのです。
参考: