「テレビ離れ」「新聞離れ」が叫ばれて久しくなりました。これらの言葉を聞くと、若者についての話だと思いますが、最近は上の世代のメディアに対する接し方にも変化が出てきています。
NHK放送文化研究所による世論調査の結果を 2010 年と 2015 年とで比較すると、テレビに毎日接している人は、20 ~ 50 代と幅広い年代で減少しており、新聞に毎日接触する人は 60 代以下のすべての年齢層において減少しています。代わりに支持を集めているのはインターネットで、若者のみではなく 60 代においても毎日接触する人が増加しています。また「1 番目に欠かせないメディア」としてテレビや新聞を挙げる人もここ 5 年で減少しており、代わりにインターネットを選ぶ人が大幅に増えています。特に「新聞離れ」は勢いを増しており、世代ごとに見ても、50 代以下のすべての年齢層において新聞よりもインターネットを欠かせないメディアとして選択する人が多くなっています。
2015 年 7 月 24 日、日本経済新聞社がイギリスの名門新聞社フィナンシャルタイムズの買収を発表し、業界を驚かせました。買収額も約 1600 億円と、日本のメディア企業における海外企業買収事例としては過去最大級です。
フィナンシャルタイムズは、いち早くデジタル化へ取り組んだメディアです。2014 年のフィナンシャルタイムズの購読者の約 72 万人のうち、オンラインでの購読者は 50 万人ほどで、全体の 70% にもなります。「新聞離れ」は日本に限った話ではなく、世界中の名門と呼ばれる新聞社にも襲い掛かっている問題です。そんな中でフィナンシャルタイムズ は、巧みな IT 戦略により電子版を成功に導いた稀有な存在として知られています。
フィナンシャルタイムズの電子版推進戦略は 2007 年に始まりました。今では当たり前に利用されている「メーター制」(会員登録をすれば、一定数の記事までは無料で読むことができ、それ以上の記事を読みた い場合は有料登録が必要なシステム)をいち早く導入しました。メーター制は読者の反応と収益性を見ながら綿密に微修正が繰り返され、2015 年 2 月に発表された新制度においては、テスト段階ながらも最大 30% の購読率向上(有料会員化)を果たせたと言います。また徹底した読者の属性分析を駆使し、潜在顧客への効率的なアプローチを確立しています。2013 年には IT 戦略をさらに加速させる「デジタルファースト」構想を発表し、電子版専任要員の増強や、電子版から紙版を作るなど、次々に施策を実行していきました。
これらの努力が見事に実を結び、CEO の John Ridding は 2014 年の TheMediaBriefing からの取材において「紙版の発行部数が落ちていく中で、新しい戦略を実行することは困難を極めた。しかし、ようやく利益を稼ぎ出すために十分な有料会員の 基盤を構築することができた」と語っています。
フィナンシャルタイムズの成功を陰で支えたのが、Salesforce です。電子版フィナンシャルタイムズである FT.com 上のすべての購読者のデータを Salesforce 上で集約し管理することにより、有料会員獲得に大きく寄与しています。顧客を獲得しても継続的なフォローをしなければ、ユーザーはすぐに他社のサービスに 乗り換えかねません。フィナンシャルタイムズのコールセンターでは Service Cloud を通じて顧客の問題を迅速に解決し、ユーザーになった後も顧客ロイヤリティを高め続けるための仕組みを構築しています。加えてソーシャルメディア上にいる 顧客の活動を Marketing Cloud で追跡し、フィナンシャルタイムズと顧客とのつながりをさらに深いものにしています。
ユーザーのメディアへの接触目的に変化が生まれている今、既存のメディアも、ユーザーが何を求めているか、ユーザーの期待を先回りして提供すること ができるかが、成功のカギとなります。過去の成功体験に縛られず、新たなメディアの形を模索し、改善し続ける姿勢がフィナンシャルタイムズに大きな成功を もたらしました。セールスフォース・ドットコムではユーザーの期待に応えるための、そして積極的なサービス改革のための強力なパートナーとなるために、「メディア購読者管理ソリューション」を提案しています。
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