「顧客の声」で企業再生 老舗バス会社の戦略とは?

情報が氾濫し顧客の嗜好が多様化していくなか、顧客の声に耳を傾けアプローチすることが、企業に益々求められています。

とは言え、様々な顧客の声を相手にするのは莫大な費用がかかり、一部の大企業しか実施できない施策に思えるかも知れません。しかし、小回りの利く中小企業の方が顧客との接点を持ちやすく、スモールスタートで大きなリターンを得やすいという側面もあるのです。

「顧客の声」を聞くために一軒ずつ訪問、十勝バスの事例

少子化が進む現代では、地方の公共交通機関の経営はどこも苦境に立たされています。そんな中で、地方路線バスとして唯一利用客減少を食い止め、黒字成長を達成した会社、それが十勝バスです。悲願の増収増益を成し遂げた施策は、顧客の声を聞くことでした。

大正15年(1926年)に創業した、バス会社の中では老舗企業とも言える「十勝バス」。同社は昭和44年の2,300万人をピークに利用者は減り 続け、ここ数年では400万人と5分の1以下まで減少しました。人件費の削減、経営の合理化でしのいできた十勝バスの経営ですが、コストカットにも限界が あります。そこで十勝バスは、利用者増を目指して住民を一軒一軒訪問し、顧客の声を吸い上げてサービス向上へと還元していきました。

例えば行先や運賃の支払い方が分かりづらいという声に対しては、住民訪問時に丁寧に説明したり、パンフレットを作成して配布したりしました。また高 校生向けチラシ、通勤利用客向けチラシなど、対象者を絞った情報発信は、顧客との関係性を大きく向上させることができました。観光などの特定の目的を持っ ている顧客向けには、満足度向上を狙って日帰り路線パックなどの企画商品を充実させていきました。

ポイントは、これら施策のどれもが、従来型のマスマーケティングでは成しえなかった効果を生み出したことです。大々的に打ち出すテレビCMなどの マーケティング手法では、一方通行のメッセージを発信するのみで、行き先や運賃支払いの不明瞭さという顧客の声に気づくことはできなかったでしょう。また マスマーケティングでは、打ち出すメッセージは顧客すべての最大公約数的なものになりがちで、通学に用いる高校生や通勤利用者など、高いロイヤリティを持 つ顧客とピンポイントに関係性を維持することは難しくなります。従来にはなかったバラエティに富む商品開発も、顧客の声を活かした成果と言えます。当初は 住民への訪問について反対意見もあったそうですが、結果として大成功を収めるにいたりました。

直筆のお礼状などの「顧客の声」もクラウドで管理

「マーケティング予算は限られている上、顧客が全国に散らばっている。」
そのような企業でも、最近ではICTを利用して、顧客の声を吸い上げシステム化している事例がみられます。

創業155年の老舗企業である、輪島塗の「しおやす漆器工房」。輪島塗は、非常に長持ちするため、10年後、20年後という単位で修理や塗り直しの 注文が入るそうです。ここでは、Salesforceの顧客情報管理システムでお客様の情報を一元管理して、アフターケアのご提案や関連商品のご案内に役 立てています。これにより注文を受けた以外の人も、「個人で注文された方か、観光などの団体の方か、昔からのおつきあいの方なのか」と言ったことが瞬時に わかるようになったのです。またお礼状などが届いた際も、顧客情報とともに閲覧できるようにしており、社員のモチベーションアップにも顧客の声を活かして います。

しおやす漆器工房事例

参考:

  • 公益社団法人 日本バス協会 全国バス事業者大会資料 「お客さま密着!で地域に貢献する十勝バスの取組み」~40年ぶりの利用者増加の実例~