あらゆるモノがインターネットにつながるIoTの時代が到来しつつあります。 留まるところを知らないICTの進化は、消費者だけでなく、企業のビジネス環境にも大きな変化をもたらしています。その典型例が、スマートフォンやタブ レット、ウェラブル端末などのモバイルデバイスの業務利用です。これに関連して、個人所有のデバイスを業務にも利用するBYOD(Bring Your Own Device)という概念も広まりつつありますが、そこには企業による温度差も見られます。進化し続けるモバイル関連テクノロジーを、企業はどのように捉 えて活用していくべきでしょうか。
世の中に存在するあらゆるモノをインターネットにつなぎ、遠隔からの制御や状況の把握を可能にする「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」に大きな期待が寄せられています。考え方自体はかねてからありましたが、モバイルネットワークなどのインフラが進 化し、膨大な量のデータをさばくことができるようになったことにより、ここにきて急速に現実味を帯びてきたのです。
様々なデータがインターネットを通じて手に入る時代になった今、ビジネス環境も大きく変化しています。多様なワークスタイルや生産性向上・業務効率 改善を求めて、モバイルを利用して自宅で作業を行い、必要な時だけオフィスに出勤するという方法を導入する企業も今では珍しくはありません。この背景に は、モバイルデバイスやインターネット環境の進化のほかに、クラウドサービスの普及などが影響しています。
IoT時代の到来により、モバイルを積極的に活用できているか否かが、企業業績にも影響してきています。日本アイ・ビー・エムの調査によれば、モバ イルITに積極的に取り組む「モバイル・テクノロジーをリードする組織」は49%が「同業他社と比べて業績がよい」と回答したのに対し、「ほかのすべての 組織」では「業績がよい」は26%に留まりました。また「前の年に比べて収益が10%以上増加」したと回答した企業は、モバイル・テクノロジーをリードす る組織が26%、それ以外の組織は14%と、ここでも明確な差が現れました。
出典:モバイル活用度の違いでビジネスの成長に大きな差が! 戦略的なモバイルIT導入に必要な視点とは? (ビジネス+IT)
さらに興味深いのはモバイル活用による最大のメリットとして感じていることの違いです。「モバイル・テクノロジーをリードする組織」が最も多く回答 したのは「顧客との対話の強化および改善」でしたが、「ほかのすべての組織」で最も多かったのは「従業員の生産性向上」だったとしています。つまりモバイ ル活用に積極的な企業は、モバイルを社内の生産性向上のみに利用するだけでなく、顧客やパートナーとの緊密な連携やそれによる売上の増加など、対外的に企 業成長を促すためのツールとしても活用しているようです。
また最近では、企業によるモバイルデバイス導入方法として、従業員が個人で所有しているデバイスを業務にも利用する「BYOD(Bring Your Own Device)」と呼ばれる方法が注目されています。
一般にBYODは企業と従業員の双方にメリットがあるとされています。企業側にとっては各従業員が使用するデバイスを購入する必要がなくなることか らコスト削減になり、従業員にとっては自分の好みのデバイスを業務に利用でき、会社から貸与された端末を我慢して使う必要がありません。
実際、NTTデータ経営研究所が公表した資料によれば、BYODで個人所有デバイスの使用を許可している組織は約43%、実際に何らかのデバイスを利用しているユーザーは約47%ということで、すでにBYODは浸透してきていることが伺えます。
出典:NTTデータ経営研究所 私用端末の業務利用(BYOD)動向調査
このBYODの普及を後押しする技術も登場しています。たとえばMDM(Mobile Device Management)は、ネットワーク経由で複数のスマートデバイスを一元的に管理する仕組みであり、遠隔操作でOSの設定を変更したり、インストール できるアプリを制限したりできます。またMCM(Mobile Contents Management)には、たとえば個人のデータと業務用データを分離し、適切なセキュリティ対策が施された領域で業務用データを扱えるようにする機能 があります。
このようにBYODのメリットや、BYODを後押しするテクノロジーが登場する一方で、多くの日本企業は未だ導入に対して消極的な状況です。先の NTTデータ経営研究所の調査結果によれば「ルールとして許可」する企業はわずか約12%で、「ルールとして禁止」している企業が約29%と、許可してい る企業の2倍以上に達しています。
業務で利用するアプリケーションのモバイル対応も視野に入れるべきでしょう。スマートフォンの小さい画面でも快適に利用できるアプリであれば、外出先で作業できる内容の幅が広がり、生産性の向上だけに留まらない、さまざまなメリットを企業にもたらします。
ここで注目したいのは、ユーザー企業自身でモバイルデバイス向けアプリを開発するための環境が整い始めた点です。従来、パソコン上で動作する業務ア プリケーションの開発やカスタマイズを支援するソリューションはありましたが、最近ではモバイルデバイス向けアプリを手軽に開発できる製品やサービスが登 場しています。
具体的なサービスの1つとして挙げられるのが「Salesforce1 Lighting Builder」です。オブジェクト、フィールド、レポート、パートナーコンポーネント、ページレイアウトなどのコンポーネントをドラッグ&ドロップする だけで、タブレットやスマートフォン、そしてウェアラブル端末といったモバイルデバイス向けのアプリを開発することが可能です。
いずれにしてもテクノロジーの進化は急速に進んでおり、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTが本格化すれば、これまで以上にビジネスに大きなインパクトを与えるのは間違いありません。
このような進化のメリットを積極的に取り入れず、旧態依然としたビジネスを続けていれば、成長企業との差は開く一方でしょう。企業として生き残り、 さらなる成長を続けていくためには、新たなテクノロジーに真摯に向き合い、時代にあわせて柔軟に活用していくという考え方が必要です。