IoT Japanピックアップ:3社が語る、ビジネスを変える「IoTスタートアップ」の実際

パネリスト
テラスカイ 代表取締役社長 佐藤 英哉 氏
ウフル 代表取締役 園田 崇 氏
フレクト 代表取締役 黒川 幸治 氏
モデレータ 日経BPイノベーションICT研究所 主任研究員 井上 健太郎 氏

IoTに興味を持っている企業は多いでしょう。しかし、実際にどうIoTを実践し、それによって自社にどんなメリットが生まれるのかなど、悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。
テラスカイ、ウフル、フレクトの3社によるIoTプロジェクト構築の実際を3社の経営者語ったパネルディスカッションです。

日本でも増加中のIoT事例

テラスカイの佐藤氏は三つの事例を語った。事例1は大手の製造機械メーカーが製造機器の稼働データを収集し、故障などのトラブルの予防保守に活用。事例2は外資系企業による出荷点検時のエビデンス画像データの自動収集。
「1と2の例は、同じ機械からのデータ収集といっても、機械が全く異なります。1で利用しているのは大きな機械で、色々なデータを取ることができます。2 で使われているのは電子レンジ程度のサイズの機械で、通信ポートもRS-232Cポートがあるくらいで、取得できるデータが限られています。マシンから データを取ると一口に言っても、取得できるデータの種類や、環境が全くことなるのがIoTの一つ実態だと言えます。」
三番目の事例は、店舗ごとの電力消費量を観測するためのIoT。各店舗の消費電力をリアルタイムに本社側で把握することでコスト削減することを狙ったもの。いずれの事例も構想一年、実際の開発にかかった期間は三ヶ月程度だという。


テラスカイ 代表取締役社長 佐藤 英哉 氏

ウフルの園田氏は 「IoTは大きなビジネスの変革期。自分たちがなにをやったらいいのか?という相談から始まることも多いです。これまで物を作ってきた事業者が、サービスで何をやったらいいのか?という相談が多いですね」と話す。
事例1は、風力発電管理会社が行った、IoT/M2Mの事例。世界各国にある物件からあがるマシンからのデータを複数のクラウドを介して集め、そのデータを使ってビッグデータ分析、CRMとして活用するなど様々に活用することを狙ったもの。
事例2はマーケティング活用の例で、ソーシャルのデータとWebサイトに集まるデータ、機器のログデータ、マーケティング活動を行った際に集まる顧客行動 といったデータを紐付けし、それを製品開発、マーケティング活動の最適化させることを狙ったもの。自動車周りの商品を作っていた事業者の初めてのサービス ビジネスだ。
予算はそれぞれ300万円、500万円程度、開発期間は数ヶ月。

フレクトの黒川氏が語ったのはエネルギー会社の事例。「エネルギー自由化により過当競争が起こる可能性があることから、ユーザーエンゲージメントを 高め、ユーザー囲い込みを実現するサービスが必要ということでした。すでに検診機器はインターネットにつながっているが、どうサービスに使ったらいいのか わからない。そこでサービス全体のデザインを当社が行い、それに併せたシステム構築を行いました」現在、プロトを作って地域全体で活用中。プロトタイプコ ストは300万円程度。新たなリクエストを含め、約1000万円で提供しているという。

課題はモノ作りからサービスへの転身

パネルディスカッションでは、IoTスタートにおけるユーザーが抱える課題、そしてそれを解決する道筋も明らかになった。
黒川氏は、「お客様から、IoTは構成分野が広すぎて、全体のサービスデザインを行うのが容易ではないと言われました。特に製造業の人は、サービス事業の経験がないだけに、社内の認識合わせを行うだけでも容易ではなかったそうです」と指摘した。
解決策として黒川氏は3ヶ月以内という短期間にプロトタイプを構築し、サービスとはどんなものか実感を持ってもらうスタイルを採用した。Salesforceを活用することで、低コスト、短期間にプロトタイプを作ることができるからだ。
園田氏は、「IoT関連の事業は新規事業と捉え、新たにどんな競争相手がいるのか分析することから始めるべきでは」と提案する。サービスビジネスでは従来の競争相手が競争相手になるとは限らない。新たな競争相手が登場する可能性があるからだ。
そのため大プロジェクトではなく、小さなプロジェクトから始め、状況に応じて結論も変化させるくらいの柔軟さが必要であるとも指摘している。
佐藤氏は、「大企業の場合、色々なデータは持っている。ただ、そのデータをどう生かすのかがわからないというので、データ活用方法を提案しています。大手 製造機械メーカーの場合には、機械からこういうアラートが出ると、30時間以内に壊れるというデータがあるというので、そのデータをフィールドサービスの 人と共有し、予防や早い段階で保守に向かう体制を作れないか?という提案を行い、新しいサービスモデルを作りました」と話す。
店舗の電力削減事例では、電力削減を上手に行っている店舗のノウハウを他の店舗でも共有するようになった。こうした事例からは、データを持っていてもその活用方法がわからない企業が意外に多いことがわかる。 


ウフル 代表取締役 園田 崇 氏

情報システム部門ではなくユーザー部門が主導

今回あがった事例は、ほぼ現場のエンドユーザー部門が主導している。情報システム部門はIoT事例にどう関わっているのだろう。
佐藤氏は、「昔は、道具立てだけでIT部門の協力が不可欠でした。ところがクラウドになると、IT部門が関与しなくても、最初から道具立ては揃っていま す。そうするとIT部門、エンジニアがいらなくなってしまう。現場と我々外部業者だけで連携が出来るからです。実際にプロジェクト動き始めてから、IT部 門がプロジェクトの内容を初めて聞いたというケースも多いようです」と実態を明らかにする。
園田氏は情報システム部門から、「IoTの標準技術を見極めた後で、プロジェクトをスタートするべきでは?」といった声があがることに次のように反論する。
「誰が、どうスタンダード取るのかを見極めるのではなく、少しでも前に進むというマインドセットもつ会社が勝者になるのではないでしょうか。実際に標準化も色々と進んでいますが、まずはオープンなもの、すでにあるものを使って、手を動かすことが大事ではないかと思います」
黒川氏も、「小さなサービスを作り、それを部品として疎結合していく。標準技術がどうなるかはわかりませんが、部分的に手を入れるだけで済むよう、影響を 極小にするというのがやるべきことではないでしょうか。むしろ、標準技術を待ってビジネスを動かさないことの方が企業にとって大きなリスクとなります」と 話す。
実際にプロジェクトを進めながら、課題をみつけて、PDCAを回しながら改善していくというスタイルを提案している。


フレクト 代表取締役 黒川 幸治 氏

待つよりも先に取り組んだものが勝者に

プロジェクトを進める中で起こる見直しは、「取ろうと思ったデータが実際に取れないケースは、当然、再定義と修正が必要になります。また、課題とし ては、モノとつなげるにあたり、組み込みのプロフェッショナルとの協議が必要な場面も出てきます」(園田氏)と実行してみて初めて明らかになることもある ようだ。
「一つの課題はUI部分です。どう見やすいUIにするのか、取得したデータを見やすいグラフで確認するといった作業が第二ステージでは必要なります」(佐藤氏)とやはりプロジェクトを進行していくことで、新たに必要になるものもある。
こうした実情を踏まえながら。「製造業皆さんにとっては、2020年以降、よりシビアなアジアの競争相手との戦いが待っていますが、ピンチこそチャンスに なります。モノ作りだけではない、サービスを絡めたビジネスの戦いに挑んで、勝者となって欲しい」(園田氏)といった声があがった。
「IoTはバズワードのように流行っているが、実態も出てきていて、環境は整ってきています。課題はシステム構築の環境ではなく、どうビジネスにつなげていくのか」(黒川氏)とビジネスにつながる視点をもつべきという意見もあがった。
最後にIoTを始める人への一言では、「ベンチャースピリットを持って参加して欲しい」、「IoTは製造業のためのものだけではない」、「大手企業でなく てもクラウドを活用することで、IoTをスタートできる」などの意見が挙がり、パネルディスカッションは締めくくられた。