ジェネレーションYが拓くレンダーシップ・エコノミー

Uber(ウーバー)やRent the Runway、あるいはAirbnb(エアビーアンドビー)など、モノをシェアすることを主眼に置いた「レンダーシップ」と呼ばれるビジネスが広まってい ます。背景にあるのは、消費者として存在感を増している「ジェネレーションY (Generation Y)」と呼ばれる世代の、「できるだけモノを持たずに生活する」という考え方であり、クラウドやモバイル技術の進展が追い風になっています。

続々と登場するレンダーシップ・ビジネス

デジタル戦略コンサルティングを行っているウェブメディア・グループによれば、2015年のトレンドの1つが「レンダーシップ」、つまり貸し手にな ることだとしています。具体的な例としては、アメリカでサービスを開始し、日本でも展開しているUberが挙げられます。スマートフォン・アプリを使って いつでもタクシーやハイヤーを呼び出せるUberは、いつでもインターネットを利用することができて、なおかつGPSを内蔵するモバイルデバイスであるス マートフォンのメリットを最大限に活かし、必要とする利用者に対して自社が管理している車両を迅速に提供するシステムを整えました。このシステムでレン ダーシップ・モデルを実現した同社のサービスは、50カ国、250都市以上に広まっています。

Uberに先立ち、レンダーシップ・モデルで急成長を遂げたのがNetflixです。インターネットで見たいDVDやBD(ブルーレイ・ディスク) を指定すると、それが郵送で届けられるというだけでなく、延滞金がかからない定額制の料金体系が多くの消費者に受け入れられ、新たなビデオレンタルサービ スとしてアメリカ市場で定着しています。2007年からはストリーミングサービスも提供しており、今年(2015年)の秋に日本でもそのサービスを開始す ることが発表されています(2月4日付け同社リリース)。

ユニークなレンダーシップ型のビジネスとしては、アメリカでサービスを展開しているRent the Runwayや、日本を含めた世界190カ国以上でサービスを利用できるAirbnbが挙げられます。

まずRent the Runwayは、高級ブランドのドレスやバッグ、アクセサリーをレンタルするサービスです。「豪華なドレスを着てパーティに行きたいが、着る機会がそれほ どないドレスのために大金を支払うのはもったいない」、そんな場面で使えるのがRent the Runwayであり、実際に購入するよりも大幅に支出を抑えて着たい服を着られることから、人気を集めています。

一方のAirbnbは、貸したい人と借りたい人を結びつけるビジネスを展開しています。ここで貸し借りされるのは宿泊場所(一般の人の空き部屋な ど)です。貸し手には空き部屋から収益を得られるメリットがあり、借り手にも長期滞在ができるアパートや豪華なお城など、通常では泊まれない場所に宿泊で きる利点があります。このようにAirbnbでは、貸し手と借り手を仲介することで新たな価値を創造しています。

消費に慎重なジェネレーションY

レンダーシップ・ビジネスが広まる背景の1つとしては、1975年から1989年までに生まれた「ジェネレーションY」や「ミレニアルズ (Millennials)」と呼ばれる世代が、アメリカをはじめ世界各国の消費者層の中で大きな勢力となりつつあることが挙げられます。

彼らの生活の中にはインターネットが深く浸透しており、情報収集や友だちとのコミュニケーションなど、さまざまな用途で利用しています。このような背景から、スマートフォンやタブレット端末の普及において、彼らは大きな役割を果たしました。

一方、彼らは消費には慎重であり、身の丈にあった生活、できるだけモノを持たない生活を好みます。たとえばVisaが実施した「ミレニアルズ世代を 知ろう(Connecting with the Millennials)」という調査は興味深い結果を示しています。アジア太平洋、中央、中東およびアフリカのジェネレーションYについて調査したとこ ろ「若者の10人中6人は借金なしで暮らしている」、「83%の若者が平均すると収入の32%を貯金している」などが明らかになりました。

ジェネレーションYの消費に慎重な傾向は、日本市場においても見受けられます。たとえば単身世帯における年代別の自動車保有率を1999年と 2004年、そして2009年で比較したグラフを見ると、ジェネレーションYを含む30歳未満、そして30~39歳の単身世帯において、1999年 /2004年よりも2009年は保有率が下がっています。

出典:総務省「全国消費実態調査」

これに対して40歳以上の世帯では、過去の調査よりも2009年の方が自動車を保有率が高いという結果になりました。この結果からも、ジェネレーションYに属する世代は「車を持たない」という選択をする人が増えていることが分かります。

レンダーシップ・ビジネスを支えるクラウド、モバイル

このように無理な消費をせず、倹約を好む彼らにとって、「必要なときに必要なだけ」借りることができるレンダーシップを活用するのは自然な流れで す。たとえ自動車や高級なドレスを持っていなくても、必要なときにUberやRent the Runwayを利用すれば、支出を抑えつつその場の欲求を満たせることになります。

このようなビジネスを後押ししているのが、クラウド、モバイルの力です。従来からレンダーシップに類するビジネスは数多くありましたが、課題となっていたのは即時性や利便性に欠ける点でした。

たとえばドレスをレンタルするサービスを営んでいても、どのようなドレスがあり、今すぐに借りられるのはどれかを顧客に伝えるのは容易ではありませ ん。しかしクラウド上でドレスの在庫を管理し、顧客がドレスのラインナップやその在庫状況をモバイル上で確認できれば、すぐにレンタルすることができま す。すきま時間をつかってモバイルからチェックしたい顧客にとって、大変好都合なのです。

またUberのようなサービスでも、先に見た通り、スマートフォンを利用すれば、内蔵されているGPSを使うことにより、タクシーやハイヤーを配車 してほしい場所を明確に示すことが可能です。このようにモバイルの機能を最大限に活用した使い勝手のいいアプリの提供によって、貸し借りやサービスの依頼 に伴う手間が省かれ、より利用しやすくなったこともレンダーシップ・モデルが広まった理由です。

そしてビジネスの提供者側にとっても、時代に即したモバイルアプリなどの開発がスピーディにできる環境が整ってきていることが挙げられます。オープ ン化したクラウドの開発プラットフォームを活用することにより、開発スピードが飛躍的に向上し、商機を逃すことなくモバイルアプリを提供できるようになっ てきています。これらもレンダーシップ・ビジネスを加速していると言えるでしょう。

Salesforce1Platform

所有せず、共有することで豊かな生活を送る

過去、所有することと豊かであることは密接に結び付いていました。しかし世界中で経済情勢や商品価値がめまぐるしく変わり、人の価値観も多様になり ました。まさに、所有することより活用することに意義が置かれ始めています。 そもそも社会全体の効率化の観点から考えれば、買ったけれど使わないモノが大量に増えることよりも、誰かが持っているものを大勢の人で共有する方が効率的 です。これはまさに、クラウドコンピューティングの「リソースを共有する」という考え方そのものです。レンダーシップビジネスは、クラウドやモバイル技術 を背景としつつ、さらにビジネスモデルとしても今後も確実に広まっていくでしょう。

 

参考:

  • 2015年の注目すべきデジタルトレンドーアルゴリズムに説明責任?(THE WALL STREET JOURNAL/ELIZABETH DWOSKIN)
  • Uber
  • Rent the Runway
  • Airbnb
  • ユーチューブを凌ぐ、ネットフリックスの今(東京経済ONLINE/瀧口範子)
  • Netflix to Launch in Japan This Fall
  • しっかりもののジェネレーションYは年間3,000億ドルを貯蓄(VISA)