すでにクラウドは社会のさまざまな領域で使われていますが、その1つとして今後より広まっていくと考えられるのが医療現場です。ここでは、特に在宅医療においてクラウドがどのように活用されているのか、そして実際に生み出しているベネフィットについて解説します。
2025年には人口の30.3%、2055年は39.4%が65歳以上と、超高齢化社会に進んでいる日本において、環境の整備は極めて重要な問題と なっています。その際、特に重要視されているのが在宅医療です。高齢者が何らかの疾病を抱え、医療機関に赴くことが困難になったとき、医師の方から患者宅 に来てくれる在宅医療のための環境が整っていれば、余計な不安を覚えることなく治療や療養に専念できます。
在宅医療では従前と同様に家族と生活できることもメリットです。厚生労働省が発表した資料によれば、「自宅で(家族と)生活できることについての満足度」について、8割以上の患者が「とても満足」、「やや満足」と回答しています。
こうした在宅医療のための環境整備に、官民を挙げた取り組みが始まっています。総務省は「超高齢社会を見据えた安心・安全な医療ICTサービスの実 現」を目指して、厚生労働省と連携して、在宅医療・介護分野の異なるシステム間で情報共有する際の課題解決に向けた実証などを開始しています(総務省「平 成26年版情報通信白書」)。民間企業においても、在宅医療の現場を支えるシステム、とくに情報共有のためのしくみを提供する動きが見られます。
在宅医療においては、在宅医や看護師、薬剤師に加え、介護施設や病院などの間での情報共有がポイントとなりますが、これまでそのために使われていた のは紙のノートが主で、そこに患者の容体やバイタル情報(体温や心拍数、血圧など)を手書きしていました。しかしこの方法では、紙のノートが置いてある患 者宅でしか見ることができず、記録の手間も大きく、また情報の二次活用もできません。
このような課題を解決するべく、在宅医療の現場で広まっているのがITの活用です。たとえば患者の病状や治療記録、介護状況などをシステムに登録 し、それを主治医や訪問看護師、薬剤師、ケアマネージャーやホームヘルパーで共有するといった形が考えられます。これにより、さまざまな関係者が必要なと きに必要な情報を参照することが可能になり、あたかも一つの大病院内での連携のように、迅速な対応を行うことができます。
実際に、ITを活用して在宅医療を行っている組織の1つが医療法人社団プラタナスで、東京および神奈川で在宅療養支援診療所を運営しています。ここ では、医師やケアマネージャー、看護師、介護ヘルパーなどとの情報共有にITを活用することで、患者宅へ訪問して滞在する時間が約50%向上したと、その 効果を説明しています。
プラタナスでは、株式会社エイルが提供する、クラウド型地域連携システム「エイル」を使用しています。患者を取り巻く各スタッフがスマートフォンや タブレットを使って入力した情報が集約され、それら最新情報を遠方に住む患者の家族も含め、関係者がすぐに閲覧でき、医療の質向上につながっています。
在宅医療を手がける医療法人には、地域に根ざした、比較的小規模な医療機関が多くあります。在宅医療に必要な機能をパッケージ化した使いやすいサー ビスがクラウド上で提供されていれば、システム構築や運用における負担を大幅に軽減でき、小規模な医療法人でも導入しやすくなります。
在宅医療のための情報共有をクラウド上で行うシステムとして、コニカミノルタ株式会社が提供しているのが「在宅メディケアクラウド」で、 Salesforceをプラットフォームとして利用しています。在宅医療に関わるチーム内での情報共有をサポートするためのシステムであり、在宅療養支援 診療所や後方支援病院、訪問看護ステーション、薬局などが在宅患者の情報をリアルタイムに共有できます。
コニカミノルタ株式会社 ヘルスケアカンパニー 医療IT・サービス事業部 開発部長の上田豊氏は、「看護師さんやヘルパーさんが申し送り事項や各種バイタルデータをクラウド上(のシステム)に入力することで、先生はいつでも最新 の情報を見ることができる」「患者の方々が安心して暮らせる社会作りに少しでも貢献していきたい」と述べています。
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一方、このシステムの導入支援を担当した株式会社テラスカイの佐藤秀哉社長は、「扱うデータは、個人情報の中でも特に機密性が高い医療情報」とした 上で、ネットワークとセキュリティが必須となるが、これらをゼロから開発するのではなく、クラウド上のプラットフォームを活用することで大幅にシステム構 築の敷居が下がると述べています。
詳しくはこちら(テラスカイ・佐藤社長に聞く コニカミノルタ ヘルスケアカンパニーの在宅医療支援システムをクラウドで)
これらのクラウドサービスを利用することにより、関係医療機関にとっては、患者と向き合うという本来の役割により時間を割けるようになるため、満足度の高い医療の提供につながります。
在宅医療を含む、遠隔医療全体においても、ICTやクラウドには大きな期待が寄せられています。たとえば在宅で療養を行っている患者に対して主治医が遠隔診断を行う、あるいは主治医と特定の疾病についての専門医がクラウド経由で情報連携するといった形が考えられています。
今後、超高齢化社会が実際に到来したとき、現状では認識されていない医療環境における新たな課題が表面化することは十分に考えられます。そうした課 題を解決する上で、クラウドが果たせる役割は決して小さくありません。それによって医療が発展すれば、私たちの生活に大きな安心が生み出されることになる でしょう。
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