コーポレートベンチャーキャピタルが育むビジネスエコシステム

大企業がベンチャー企業やスタートアップ企業に出資・支援する、「コーポレー トベンチャーキャピタル」が広まっています。Googleなど米国勢のほか、日本のNTTドコモ、TBSなど、さまざまな企業が積極的に投資を行っていま す。その背景にあるのは、イノベーションの促進と、ビジネスエコシステムの輪が大きく広がることへの期待です。

イノベーションを取り込む

企業が大きな成功を勝ち取る上で、イノベーションが不可欠です。ただしイノベーションの方法論は確立されておらず、簡単に起こせるものではありませ ん。多くの企業が日夜、研究開発を続けていますが、その投資やかけた時間に見合った成果が必ず得られるわけではないことも明らかです。

一方、市場を見渡すと革新的な製品・サービスが続々と登場しています。いくつか例を挙げましょう。米国のWoodman Labsが開発した「GoPro」は、小型の筐体にビデオカメラの機能を詰め込んだアクションカメラです。サーフィンやスキー、モータースポーツなどの機 材や選手に装着することで、迫力のある映像を手軽に撮影できることから、世界中で大ヒットしました。

他方、家全体の温度を自動的に調整するサーモスタット、そして火災報知器とITを結びつけたことで注目を集めたのが米国のNestです。このNestはGoogleによって約32億ドルで買収されており、同社の評価が極めて高いことが分かります。

また、日本では、ソーシャルゲームが大きなイノベーションを興しました。完成したゲームをパッケージとして販売するのではなく、ゲーム内で利用するアイテムやカードを販売してマネタイズするソーシャルゲームは、あっという間に普及しました。

注目したいのは、これらのイノベーティブな製品やサービスがベンチャー企業によって生み出されるケースが多い点です。大企業では一般に、失敗を避け る方向に意識が向きやすいため、思い切った挑戦が難しい傾向がありますが、ベンチャー企業には、既存の枠組みにとらわれず、ドラスティックなチャレンジが 可能なことが多いのです。

このような背景から、大企業が自社内だけに閉じてイノベーティブな製品・サービスの開発に取り組むのではなく、外部のベンチャー企業に資金を提供してイノベーションにつながる活動を支援する動きが広まっています。

一般的にベンチャー企業の資金調達は、資金を持つ投資専門の企業(ベンチャーキャピタル)がベンチャー企業に出資し、ビジネスが成功したタイミング で株式の売却や他社へのM&Aの売却益で収益化を図るモデルとなっています。しかしコーポレートベンチャーキャピタルでは、自らも事業を行っている企業が ベンチャー企業に出資することで、そこで生まれたイノベーションを自社の製品やサービスと組み合わせる、あるいは自社の新たな収益源として育てることを大 きな目的としています。

ベンチャー企業の成長を促す

コーポレートベンチャーキャピタルは、大企業にとってメリットがあるだけではありません。出資を受けるベンチャー企業側にもさまざまなメリットがあります。

通常のベンチャーキャピタルの場合、出資するとともに経営に参画したりして、ビジネスをサポートする体制を整えるケースが一般的です。これに加えて コーポレートベンチャーキャピタルでは、出資元の企業が持つ、資金以外の潤沢なリソースを活用できる大きなメリットがあるのです。

たとえば製品やサービスを開発する際、出資元企業と協業するといったことが考えられるでしょう。また、開発した製品やサービスを販売する際、出資し た企業が持つ顧客基盤(ユーザーベース)を利用したり、出資企業のテクノロジーを安価で利用したりする例も少なくありません。それによって、ベンチャー企 業の成長が早まる(促進・強化される)といった効果があります。このようにコーポレートベンチャーキャピタルには、資金と人だけを提供する通常のベン チャーキャピタルとは異なる魅力があるのです。

ビジネスエコシステムの輪を広げる

コーポレートベンチャーキャピタルには、もうひとつ狙いがあります。
先に挙げたNestの買収にも見られるように、自身のビジネスエコシステムを拡大していく上でカギとなる技術をもつ企業に戦略的に投資を行っているのです。

Googleは「Google Ventures」というファンドを通じてベンチャー投資を行っており、投資先は250社以上にのぼります。NestもGoogle Venturesで投資したのちの買収でした。投資実績には、他にスマートフォンを使って気軽にタクシーやハイヤーを呼べることで世界中で人気を集めてい るUber(ウーバー)などがあり、いくつもの成功例を積み上げています。

日本では携帯キャリア大手のNTTドコモが、「革新的なアイデア・技術・サービスを持つベンチャー企業とドコモがパートナーシップを築き、イノベー ションを実現するプログラム」として「ドコモ・イノベーションビレッジ」を運営しています。そこでは、協業することを前提に投資を行う姿勢を打ち出してい ます。

大きな可能性を秘めた新たな投資モデル

このように、従来のベンチャーキャピタルではない事業会社である大企業が、チャレンジ精神豊かなベンチャー企業への投資・支援に乗り出すことは、資金の受け手、出し手双方にとってメリットのある新たな投資モデルとして注目されています。

Salesforce.comにおいても「Salesforce Ventures」としてコーポレートベンチャーキャピタルを行っており、世界各国のベンチャー企業に投資を展開しています。2009年以降の投資実績は 100社以上。イノベーションの起爆剤という意味に加え、日本のクラウドマーケットを成長・発展させるというミッションのもとに、日本においても2014 年末時点で20社のベンチャー企業に出資しています。

Salesforce Venturesの概要

大企業にとってはイノベーションの獲得、ベンチャー企業にとっては顧客基盤の利用などによる成長、さらには、両者の協業などを通じてビジネスエコシ ステムの輪が大きく広がっていく。それを可能にするダイナミックなしくみとして、コーポレートベンチャーキャピタルに今後ますます注目が集まることは間違 いありません。

参考:

  • Google Ventures
  • Google Ventures、世界で最も注目を集めるコーポレートベンチャーキャピタル(グーグル)
  • NTTドコモ・ベンチャーズ
  • ドコモ・イノベーションビレッジ
  • TBSイノベーションパートナーズ