あらゆるモノがインターネットを通してつながり、新たな価値を創造する。こう した考えの下に、多くの企業が積極的に取り組み始めているのが「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」です。新たなビジネスの創出や我々の生活に役立つソリューションの実現など、IoTには大きな期待が寄せられてい ます。
インターネットに接続される端末の種類は年々増えており、元来のパソコンやサーバーに加え、スマートフォンやタブレット端末もインターネット利用の デバイスとして広く普及しています。さらに液晶テレビやデジタルビデオレコーダー、デジタルカメラなど、ネットワークに接続するためのインターフェイスを 持つ情報家電も続々と登場しています。
今後は、自動車や照明器具、電力を制御するスマートメーター、あるいは農業で使われるビニールハウスのセンサーなどもインターネットにつながる 「IoT(Internet of Things)」時代が、本格的に到来すると予測されています。離れた場所にあるモノの状態の検知・分析や、インターネット経由での遠隔操作により、新た な価値が生み出されることが期待されます。
昨今話題となっているウェアラブルコンピューター(ウェアラブルデバイス)も、IoTの一部だと捉えられます。すでにメガネ型コンピューター(ス マートグラス)や腕時計型コンピューター(スマートウォッチ)が登場しています。これらにより、必要な情報のリアルタイムでの取得やコミュニケーションの 迅速化、活動量や脈拍などの計測・分析による健康の維持管理などが期待されています。
モノをインターネットにつなげるというIoTは汎用性の高い技術であり、なおかつ大きなメリットを実現すると考えられていることから、極めて大きな 市場になると調査会社は予測しています。たとえば2014年11月18日にIDC Japanが発表した資料によれば、世界IoT市場は2013年の1兆3000億ドルから2020年には3兆400億ドルに拡大し、IoTで接続されるシ ステムやデバイスの数は300億台に達すると予測しています。
実際にモノをインターネットに接続する一般的な方法としては、無線通信があります。たとえば何らかのセンサーに無線通信を行うためのモジュールを取 り付け、取得したデータをインターネット経由でサーバーに送信することが考えられます。これをサーバー側で分析し、センサー周辺の状況を読み取ったり、環 境の変化を計測したりします。
このようにIoTには大きな期待が寄せられていますが、こうした仕組みを可能にする技術の1つがクラウドです。たとえば何らかのセンサーで情報を取 得し続ける場合、そこから得られる情報は極めて膨大になり、その蓄積や分析には莫大なリソースが必要となります。しかしクラウド技術が発展、浸透したこと により、多数のデバイスから情報を収集したり、いわゆる“ビッグデータ”解析の技術を用いて適切に加工したりすることを低コストで実現できるようになりま した。
IoTを使った取り組みは、産業界ですでに始まっています。たとえば、あいおいニッセイ同和損害保険は、トヨタ自動車と連携して「新しい自動車保 険」を2015年度に発売する予定です。これは自動車の走行情報をリアルタイムに収集し、毎月の保険料を1km単位の走行距離に応じて計算する保険商品で す。自動車というモノから得られたデータをクラウドに収集し、そのデータを使って保険料金を算出する新しい自動車保険は、保険商品の新たな形として注目を 集めています。
また、自動車を利用した別の事例としては、ドイツのハノーバー大学の研究者チームが研究を進めている、局地豪雨のポイントを割り出す仕組みが挙げら れます。自動車のワイパーにセンサーを取り付け、その動作間隔を収集することによって局所豪雨が発生している場所を特定します。日本においても局所豪雨は 大きな被害をもたらす自然災害となっており、その的確な場所の測定は重要視されています。もちろん、既存の雨量計などを使った観測は現在も行われています が、IoTの技術を利用すれば、リアルタイムかつ、より正確に局所豪雨が捕捉できる可能性があります。
もう1つ注目したいのは、自動認識技術を活用したソリューションビジネスを手がける、サトーグループのIoT技術の活用事例です。同社は世界ではじ めてバーコードラベルを自動で発行するバーコードプリンタを開発したメーカーであり、現在では業務で利用する多種多様なラベルプリンタを販売しています。 サトーグループでは、顧客企業に設置したラベルプリンタの稼働状況をリモート、リアルタイムで把握し、プリンタの安定稼働、最適稼働をサポートすること で、お客様のビジネスに貢献するサービスの開発を進めるとしています。
2014年12月4日のSalesforce World Tour Tokyoで登壇したサトーホールディングス代表取締役執行役員社長兼最高経営責任者(CEO)である松山一雄氏は、「日本には200人以上、海外には約 100人のカスタマーエンジニアがいますが、お客様の現場は何万とあります。そこで、すべてのお客様の現場に我々のセールスエンジニアがいるような『バー チャルエンジニア』というコンセプトを作ったのです」と述べています。
プリンタから収集したデータを分析するための基盤として使われているのがSalesforce1 Platformの一環であるHerokuで、プリンタの状態を表す情報はここに逐一集められます。そのデータを分析し、何らかの問題が生じる恐れがある と判断すれば迅速に対応することで、プロアクティブなサポートを実現します。
サトー、Salesforce Customer Success Platformを導入(2014年12月4日 セールスフォース・ドットコム)
http://www.salesforce.com/jp/company/news-press/press-releases/2014/12/141204-5.jsp
他方、IoTの一つであるウェアラブルデバイスにも、従来のイメージを超えるものが登場しています。それが、リストバンド型のウェアラブルデバイス である「Puls(パルス)」です。これはアメリカのミュージシャンでありファッションリーダーとしても注目されているwill.i.amが開発を陣頭指 揮したものです。初めに機能ありきではなく、「ヒト」を中心に据えた発想で生み出された、身につけていること・持っていること自体がわくわくするようなデ バイスです。スマートフォンなどを介さなくてもインターネットに直接接続して電話やメールができるほか、音楽プレイヤーやフィットネス用としても利用でき ます。will.i.amならではのセンスでファッショナブルな外観を与えられたPulsは、IoTの大きな可能性を感じさせます。
このようにIoTの裾野は広がっていますが、実際にソリューションを考える上で重要となるのは開発の負担を軽減するための方法です。あらゆるモノが インターネットにつながるとき、それぞれのモノに合わせてアプリケーションを作り込んでいては、莫大な開発リソースを費やすことになりかねません。複数の モノで共通して利用できる部品(コンポーネント)を作り、それを有効活用することで、開発の負担を大幅に軽減して各々のモノ向けに最適なアプリケーション を開発することが可能になります。IoTをビジネスに活用する上では、使い勝手のよいコンポーネントを備えたプラットフォームの選定が大きな鍵を握りま す。
なおセールスフォース・ドットコムでは「IoC(Internet of Customers)」という考え方を提唱しています。これはIoTの先にヒト(カスタマー、顧客)がいるという考え方です。
The Economist による調査 顧客主導型経済の台頭 - インフォグラフィックで見る
http://www.salesforce.com/jp/socialenterprise/social-media-intl/customer-led-economy.jsp
モノを使うのはカスタマーであり、さらにIoTによって得られたメリットを享受するのもカスタマーです。つまり、カスタマーに対して何を提供すれば彼らが持つ課題を解決できるのかという視点でIoTを捉え、モノではなくヒトにとって役立つものにすべきだという考え方です。
前述したサトーグループの事例は、まさにプリンタの利用者(カスタマー)のためのIoTであり、それによってプロアクティブなサポートなど、新たな ベネフィットを生み出すことでカスタマーとの関係強化に結びつけています。21世紀の大きな潮流であるIoTをビジネスにつなげるとき、モノだけでなくそ の先にいるヒトに思いを寄せることができれば、カスタマーとの絆をより確かなものにできるのです。
参考: