本格化するテレワーク、クラウドで実現する在宅勤務

2020年までにテレワーク導入企業を3倍に

柔軟な働き方の実現が社会的に求められるようになったことから、オフィスではなく自宅で業務を行う「在宅勤務」制度の導入に積極的に取り組む企業が増えてきました。この背景にある要素として、「テレワーク」のための環境が整ったことが挙げられます。

テレワークとは、ITを活用して遠隔地で業務を行うことを指します。現在、多くの家庭に高速なインターネット回線とパソコンが普及しており、これらを利用すれば自宅でもオフィスと同様に作業ができるというわけです。

テレワークによる在宅勤務は多様な働き方の選択につながるとして、安倍政権も積極的に推進しています。2013年6月に策定された「世界最先端IT 国家創造宣言」では、「就業継続が困難となる子育て期の女性や育児に参加する男性、介護を行っている労働者」などを対象として、テレワーク推進モデルを産 業界と連携して支援すること、そして2020年までにテレワーク導入企業を2012年度比で3倍、在宅勤務者の数を全労働者数の10%以上にするといった 目標が盛り込まれています。

この流れを受け、総務省では「長時間労働が当たり前となっている国家公務員像」を改めるために、在宅勤務の対象をそれまで幹部を除く本省職員約 1600人に限っていたのを、管理職や出先機関を含む全職員約5000人にまで広げています。また、消費者庁では、全管理職26人が7月から週1日、在宅 勤務を行うと発表しました。育児や介護を行っている職員が在宅勤務を選択しやすくなるように、管理職の理解を深めることが狙いとしています。

株式会社シード・プランニングでは、テレワークに利用できるソリューションの市場規模は、2020年には1068億円に達するという予測を発表して います。企業にとっては離職率の低下などのメリットがあり、従業員にも柔軟な働き方の選択ができる在宅勤務は、今後ますます広がる気配をみせています。

在宅勤務の推進はワーク・ライフ・バランスの改善にも有効

スマートフォンやタブレット端末、あるいはモバイルインターネット回線とノートパソコンを組み合わせて活用する「モバイルワーク」にも、多くの企業 が取り組んでいます。こちらは外出先や移動中の空き時間に業務を行うスタイルを指し、時間の有効活用による業務効率の向上が主な目的となります。

テレワークによる在宅勤務、あるいはモバイルワークは、「ワーク・ライフ・バランス」の改善にもつながります。仕事に割く時間が長くなれば、心身の 健康にとってマイナスであるだけでなく、家庭や地域での生活にも影響が生じるでしょう。そこで、労働環境の改善などにより、仕事と生活のバランスを取ろう というのがワーク・ライフ・バランスの考え方です。

在宅勤務によってオフィスへの移動時間が不要になったり、モバイルワークによる作業の効率化で帰宅時間が早まったりすれば、プライベートに割く時間 が増え、ワーク・ライフ・バランスの改善につながります。これによって従業員の満足度が高まれば、企業にとっても大きなメリットを享受できます。

在宅勤務環境の構築に欠かせないクラウドの活用

実際に、多くの企業や団体がテレワークや在宅勤務を導入しています。例えばパナソニック株式会社では、「e-Work」という名称でモバイルワー ク、在宅勤務を実施しています。同社のサイトによれば、「e-Workとは、自宅で仕事をすることで家庭生活との両立や通勤時間の削減を図ったり、モバイ ル活用によって会社に行かずに顧客訪問の時間や件数を増やすなど、情報・通信技術を駆使したユビキタスでフレキシブルな働き方のこと」。そして「現在、多 くの社員が『月に一回ほど』『週に一度は』など、自分の働きやすさや能率をふまえ、在宅勤務制度を活用」しているとのことです。

ここでポイントとなるのが、IT環境です。業務に利用するためのシステムやアプリケーションがオフィスの中でしか使えないようなIT環境では、テレワークやモバイルワークに対応できないからです。特に重要となるのがクラウドの活用です。

具体的には、インターネットを介してどこからでも利用できるクラウド上のサービスを業務に利用すれば、オフィスだけでなく、自宅や外出先でもその サービスを利用して作業を進められることになり、大きな手間をかけることなくテレワーク/モバイルワーク環境を実現できます。さらにそのサービスがスマー トフォンやタブレット端末に対応していれば、たとえば移動中の電車の中でも利用可能となるため、より利便性が向上するでしょう。

このようにクラウドを活用して在宅勤務やモバイルワークを実践している一社が、埼玉県坂戸市に社屋を構えるマーキュリープロジェクトオフィス株式会 社です。同社はセールスフォース・ドットコムのクラウドでプロジェクト管理を行っています。また社内情報共有のSNSである「Chatter」も活用して います。マーキュリープロジェクトオフィスでは、海外など遠方で在宅勤務をするスタッフとの連絡も停滞することがなくなり、場所や時間に制約されないこと で仕事の質も効率もあがったといいます。

マーキュリープロジェクトオフィス

マーキュリープロジェクトオフィス 事例

同様に、在宅勤務を積極的に活用しているのがアップル正規プロバイダーのグローバルソリューションサービス株式会社です。同社は店舗とコールセン ターにおける混雑状況や在庫情報などの情報のやり取りに前述の「Chatter」を活用しているほか、コールセンターの人員確保のためにセールスフォー ス・ドットコムのクラウドサービスを利用して、在宅でもオペレーターとして働ける環境を整えました。「育児などの理由によりフルタイムで働くことは難しい が、数時間程度の空いた時間で仕事がしたい」と考える人は少なくありません。同社ではクラウド活用の結果、すでに2名の社員が埼玉県と長野県でオペレー ターとして働いています。

グローバルソリューションサービス

グローバルソリューションサービス 事例

社内SNSが在宅勤務のコミュニケーションに向く理由

このように、在宅勤務やモバイルワークなど場所にこだわらない働き方を実現していく上で、大きなポイントとなるのが従業員間のコミュニケーションで す。たとえば仕事を進める上でちょっとした疑問が生じた際、オフィスであればすぐに周りのメンバーに話しかけられますが、1人で作業を進めることになる在 宅勤務ではそうはいきません。人によっては、1人で作業することに孤独や不安を感じるケースもあるでしょう。

もちろんメールや電話を使えば、オフィスと自宅など離れた場所にいてもコミュニケーションすることが可能ですが、一対一でのコミュニケーションが前提となるため、気軽なやり取りには不向きです。そこで活用したいのが、社内SNSです。

一対多で従業員同士がつながる社内SNSには、情報が共有しやすい、発信された情報が集約されるのでノウハウを蓄積できるなどといったメリットがあ りますが、それらと同時に注目したいのが情報の発信のしやすさです。わざわざメールで送るまでもない内容でも、社内SNSであれば気兼ねせずに“つぶや く”ことが可能であり、在宅勤務であってもオフィスと同様、あるいはそれ以上に他の従業員とコミュニケーションが図れ、ビジネスに好影響をもたらすことが 期待できます。

この社内SNSの特性を生かし、従業員間のコミュニケーションの活発化に利用しているのが日産自動車株式会社です。同社では、仕事と育児の両立を支 援するための情報交換コミュニティとして、社内SNS上に「両立パーク」を設置し、育児をしながら働いている女性、男性が同じ境遇の仲間とコミュニケー ションするための仕組みとして活用しています。限りある時間の中で仕事も育児も頑張っている人にとって、同様に両立を目指している人たちと気軽にコミュニ ケーションができる「両立パーク」はとても心強い存在でしょう。

少子高齢化時代に求められる“新しい働き方”

テレワークによる柔軟な働き方の実現は、労働力の確保という観点において大きなプラスになるだけでなく、モバイルワークの実現による生産性向上にもつながるでしょう。さらに国境を越えて共同で作業することができれば、海外の人材を活用することも可能になります。

少子高齢化が進む日本では、労働力の減少によって人材の雇用がますます厳しくなっていくことが予想されており、実際に人手不足から事業が思うように 展開できない企業も現れています。このような問題の解決の一助としてもテレワークは有効です。いかに、現在の人材の離職を防ぎ、有効な働き方ができるよう に支援するか、ITを活用したテレワークの実現を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

参考:

  • 管理職含む全職員、在宅勤務可能に…総務省(Yomiuri Online)
  • 全管理職、週1在宅勤務に 消費者庁7月から試行 「霞が関から手本を」(産経ニュース)
  • e-Workの取り組み(パナソニック株式会社)
  • 多様な働き方ができるように(日産自動車株式会社)