6月に開催された「Salesforce1 World Tour Tokyo」で公開された、コニカミノルタ ヘルスケアカンパニーの在宅医療支援システムは大きな反響を呼んだ。Salesforceをプラットフォーム として利用し、医師をはじめ、看護師、介護に携わる人、病院、地域のクリニックなど患者を取り巻く医療情報を、クラウドを通じて共有する。今後ますます需 要が高まる、在宅医療の質をあげるためのシステムである。
このシステムの構築支援を行ったのが株式会社テラスカイだ。2006年に設立した同社はクラウド専業でユーザーのシステムを構築。特にSalesforceのシステム構築に関しては国内トップクラスの技術力、経験を持つ。
パートナー企業を紹介する連載の第二回目は、テラスカイが導入支援を行ったコニカミノルタの在宅医療支援システムをご紹介する。日本でもまだ事例が少ない、クラウドを介した医療支援分野。テラスカイでは、今回のシステム開発はどのように行っていったのか。
株式会社テラスカイ 代表取締役社長 佐藤 秀哉氏
「システムインテグレーターを"SIer"と呼びますが、当社はクラウドインテグレーター、"CIer"だと言っています」-―テラスカイの佐藤秀哉社長は自社のことを笑顔でこう説明する。2006年の設立以来、クラウド専業でユーザーのシステム開発支援を行ってきた。
「クラウドは従来のシステムインテグレーションに比べ、収益が少なく、システム開発業者にとっては厳しいビジネスだと言われています。しかし、私は 決してそうだと思ってはいません。古くからシステム開発をされてきた会社にとっては従来ビジネスに比べ厳しいところがあるのかもしれません。当社のように クラウドの時代になってビジネスをスタートした企業にとっては、むしろチャンスがある時代だと思っています。我々のような新しい会社にとっては、クラウド に切り替わったことでビジネスチャンスが生まれたと思っているのです」
特にセールスフォース・ドットコムのプラットフォームに関しては、間違いなく日本トップクラスの技術力をもつ。1500案件の実績を持ち、認定 Sales Cloudコンサルタント、認定Service Cloudコンサルタント、認定デベロッパー、認定アドミニストレーターの合格者数ではいずれも日本で1位。さらに国内で4人しかいない Force.com MVPのうち3人が在籍し、国内で6人しかいない認定テクニカルアーキテクトのうち2人が在籍する。
それだけにセールスフォース・ドットコムからの信頼も厚い。「導入が難しい案件になると、セールスフォースさんから声がかかるのです。単純な設定を行うという依頼は、当社には来ません」と佐藤社長も話す。
佐藤社長が話す、「難しい案件」とは3種類あるという。ひとつは規模が大きい、大企業向けシステム。Salesforceのエンジニア数が多いテラスカイの強みが発揮できる。
もう一つは、外部とのシステム間連携が必要になるケース。この分野でも実績は多く、「実は、なんらかのシステム連携を行いたい、というところが発端になって、当社に声がかかることが多くなっています」という。
そして数は少ないが、エンジニアの質が求められることになるのが、三つめのケースである。「"限界挑戦プロジェクト"と呼んでいるのですが、セールス フォース・ドットコムにとっても初めての挑戦となる分野の案件です。新しい分野だけに、まさに挑戦的な要素があり、従来の経験工学を駆使しながら、稼働ま で実現していくタイプのプロジェクトで、当社の経験と技術力が求められるのです」
今回のコニカミノルタの案件は、まさにこの"限界に挑戦"に該当する。日本でもあまり導入例がない、クラウドを活用した在宅医療分野での情報共有だったからである。
今回の案件の要件定義がスタートしたのは2013年春のことだ。従来、在宅医療を受けている患者の情報は、患者の枕元に置かれているノートに記帳さ れ、訪れた医師や看護師、介護士、ケアマネージャーなどが閲覧する仕組みとなっていた。このノートをクラウド上に置くことで、患者のところに行かなくて も、情報共有が可能となる。クラウドの強みが生かせるシステムである。
佐藤社長は、コニカミノルタが在宅医療の情報共有にSalesforceのプラットフォームを選択した理由をよく理解できるという。
「遠隔地医療を支援するシステムですから、ネットワークとセキュリティは必須要素となります。その二つをゼロから開発するのではなく、Salesforceのプラットフォームを使えば、大幅にシステム構築の敷居が下がることになります」
とはいえ、在宅医療支援システムとなると扱うデータは、個人情報の中でも特に機密性が高い医療情報。システムを操作するのは、パソコンの操作に慣れたビジ ネスパーソンではなく、看護師や介護士。実現まで越えなければならない壁も高かった。最初の要件定義だけでも、通常のシステムに比べ時間がかかった。
コニカミノルタ側の要望は、「Salesforceが前面に出てこない、在宅医療に関するポータルサイトを構築して欲しい」というものだった。UIについても、iPadを使って行う操作画面は、できるだけシンプルであることが求められた。
「年齢が高い人でも直感的に操作できる、わかりやすい画面にして欲しいという声がありましたので、出来上がったプロトタイプをコニカミノルタ側と検討し、見直しを何度も行いながら開発を進めました」
セキュリティについては、血圧などバイタル情報を含む医療データの取り扱いは、厚生労働省によるガイドラインがあり、それに基づいたものでなければならない。
さらに医療行為は、医師だからできること、医師が依頼して看護師が行えること、介護士が自己判断でできる領域など、それぞれが細かく決まっている。また指示したことや実施したことをきちんと記録し、残していく必要がある。
「幸いなことに、当社では医療向けシステムを構築した経験がありました。この経験が大きなプラスとなりました」と佐藤社長は振り返る。
要件定義から約半年、実証実験がスタートした。実際に在宅医療を行っているクリニックが、実際にこのシステムを利用した在宅医療を行ったのだ。
「実証実験でわかったのは、サービスを利用する医療機関によって、重視するバイタルのポイントが異なるということでした。我々はバイタルといえば、血圧、 体温といったものが頭に浮かびます。しかし、実証実験に参加されたクリニックでは担当患者の持病が消化器系だったこともあって、排便の量と回数を重視され ているということでした。そこで、正式リリース版では重視する項目を、医療機関ごとに変更できる仕組みへと変更しました」
このプロジェクトに対して、コニカミノルタ側は6人のスタッフが、テラスカイでは十数人の体制でシステムを開発。実証実験を経て2014年8月末から、いよいよ正式サービスとして提供が始まる。
「通常のサービスの正式稼働まで、ハードルは3つ、4つですが、今回のプロジェクトに関してはハードルが10、20と存在した感があります。それだけに苦労は多かったですが、当社としても得るものは大きかったと思います」
特にモバイル+医療は、「高齢者が増加する時代では、従来の来院型医療体制ではカバーしきれないケースが多くなるでしょう。そこで在宅型医療が必要 になってくる。その時代に向け、モバイル+医療の必要性は大きく高まっていくことになります。今回の案件は、その先進的な事例といえるでしょう。当社に とっても、非常によい経験となりました」と今後ニーズがある分野だと佐藤社長は振り返る。
さらに佐藤社長は次のように指摘する。
「セールスフォース・ドットコムの進化の方向性には、共感できるところが多いです。例えばクラウドERPのように、既存のITでやってきた領域、さ らに従来のITでは実現できなかったもの、これを追及していくという点です。これは当社の目指す方向と共通するところであり、ビジネスチャンスがある領域 だと思っています」
テラスカイではこうしてクラウドのシステム構築に加え、オリジナル製品を開発。現在では売り上げの25%をオリジナル製品が占めるなど、新しいビジネスへのチャレンジを積極的に行っている。
「当社には素晴らしいエンジニアが多数揃っています。しかし、さらにビジネスを拡大していくためにはそれだけでは駄目で、常に新しい挑戦を行う、尖った企業でなければいけないと考えています。CIerとしてのものづくりも新しい挑戦の一つです」
佐藤社長はこう話す。テラスカイの挑戦は続いていこうとしているようである。