インターネット、モバイルデバイスの普及により、企業は顧客に対して様々なアプローチをすることが可能になりました。 誰もがすぐに情報を得ることができる時代になったことで、企業へのサービスの質に対する顧客の期待値も上がってきています。その結果、どんなに優れた商品 を提供してもサービスが期待を下回れば、顧客ロイヤリティを失ってしまうでしょう。
企業にとって既存顧客が離れてしまうことは大きな損失につながります。新規顧客の獲得には、既存顧客を維持するより、はるかに大きなコストがかかる からです。「企業の売上の65%は既存顧客がもたらし、1人の新規顧客を獲得するコストは、1人の既存顧客をつなぎとめるコストの5倍かかる」(ガート ナー)という計算もあります。
では、何が顧客ロイヤリティを失う原因になっているのでしょうか? ソーシャル・モバイル時代に有効なカスタマーリテンション(顧客維持)とは何でしょうか。
顧客ロイヤリティとは、顧客が商品やサービス、ブランドに対して持つ「信頼」や「愛着」を表す言葉です。ロイヤリティは英語の「Loyalty」がその由来であり、忠誠心という意味をもっています。
ビジネスシーンでは、長らくカスタマーサティスファクション=「顧客満足」を重視し、商品やサービスを使用した際の顧客満足度がその成功の指標とされてきました。お客さまの感情に注目した調査が可能なため、現在も多くの企業で実施されています。
ただ、顧客満足度を調査するにつれて明確になってきたことは、商品やサービスが気に入っていても、購入するまでの過程や販売後のサポートなどに不満があると顧客は離れていってしまうということです。
そこで、一度の購入だけにスポットを当てて顧客満足度を知るだけでなく、長期的に信頼や愛着を持ってくれることを目指すため、顧客ロイヤリティという考え方が生まれました。
顧客ロイヤリティを高めることにより、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。3つ紹介します。
インターネットが身近な存在になったことやソーシャルメディアが浸透していることから、消費者の口コミが大きな力を持つようになりました。
ロイヤリティの高い顧客が積極的にポジティブな情報を発信することで、顧客間のやりとりにより商品やサービス、ブランドの認知が広がるケースも珍しいことではなくなりました。今や新規の顧客はポジティブな口コミによって獲得できる時代となってきているのです。
新規顧客へ販売するコストと既存顧客へ販売するコストを比べた場合、既存顧客への販売コストは新規販売の5分の1で済むという提唱があります。
これは、アメリカの大手コンサルティング会社「ベイン・アンド・カンパニー」の名誉ディレクターであるフレデリック・F・ライクヘルド氏が立証したもので、『1:5の法則』と名付けられました。新規顧客の開拓は販売活動において重要な役割を持っていますが、既存顧客に対する販売活動は企業にとってより大きな効果をもたらすと提唱されています。
似たような商品やサービスが多く展開される現代の市場では、競合との差異化が難しくなっているのが現実です。そのため顧客は、不満を感じると競合他社にすぐに乗り換えてしまう可能性が十分にあります。
顧客ロイヤリティを高めることは、激しい市場競争のなかで既存の顧客を定着させることにつながるのです。
顧客ロイヤリティを高めると、アップセルやクロスセルの提案が通りやすくなり、1回あたりの購入金額がアップする傾向にあります。
実際にアパレルブランドの購入単価で見ると、ロイヤリティの高い顧客は、ロイヤリティの低い顧客と比べ、平均にして1.3倍の金額で顧客単価が向上していることがわかっています。
このように、顧客ロイヤリティは単価の上昇にも関わりがあることがメリットとして挙げられます。
顧客が企業と接点を持つチャネルは、少し前までは、電話によるお問い合わせ、Webサイトのお問い合わせフォーム、eメールが主流でした。しかし FacebookやTwitterなどソーシャルメディアが普及し、顧客はあらゆるチャネルで企業と接点を持つことができるようになっています。
「商品をすぐに届けてほしい」、「返品したいのですぐに対応してほしい」、「問い合わせたがすぐに返事がこない」など、顧客が要求するスピードも高まって います。こうした顧客の要求に迅速に対応できなければ、顧客満足を得ることができず、顧客ロイヤリティを失う原因になるのです。
さらにサービスの品質が悪いとすぐにインターネット上で伝わり、顧客に不信感や混乱を与えかねません。ネガティブな評価は企業にとってマイナス評価となり、ブランド価値を損なうだけでなく、顧客ロイヤリティを失う原因にもなります。
受けたサービスが期待値と合わない場合、人はそれが良くても悪くても、誰かに話したくなるものです。サービスに不満を持った顧客は9~10人に話 し、13%の人は20人以上に話してしまうといわれています。一方で、不満が解決された顧客は5~6人に話し、56%~70%は再びその企業から商品を購 入したり、サービスを受けたりするリピーターとなるそうです。
また、Echo Researchが実施した調査において、55%の人が、「商取引または購入をしたいと思っていたにもかかわらず、カスタマーサービス対応が悪くて取りやめた経験がある」という回答をしています(図参照)。
それでは、既存顧客をつなぎとめてロイヤルカスタマーにするために、どのようなカスタマーリテンション施策を行えばよいのでしょうか? 3つの観点から考えてみましょう。
ソーシャルメディアを活用しようと思うあまり、FacebookやTwitterで一方的に情報を配信してはいないでしょうか? 顧客の投稿に対して適切な対応を行っているでしょうか?
ソーシャルメディアは、情報をダイレクトに伝える訴求力の高いツールですが、顧客がどんな情報を求めているのか、商品やサービスに対してどのように 感じているのかを知ることができるツールでもあります。顧客の声に耳を傾けてコミュニケーションを取り、リアルタイムに対応することによって、良好な関係 を築き維持することができます。
無印良品ブランドを提供する株式会社良品計画では、
オフィシャルの問い合わせ窓口などでは聞けない率直な意見を聞ける気軽さがあることをソーシャルメディアの大きな価値ととらえています。また、お客様の声を社内にフィードバックすることで社員のモチベーションアップにつながる効果もあるとのこと。
ただ闇雲に新商品やニュースなどのお知らせを配信しているだけは、顧客は離れてしまいます。一方的な情報配信ではなく、ソーシャルメディアを顧客とのコミュニケーションの場ととらえ、双方向のコミュニケーションを取っています。
一人ひとりの好みやニーズに合わせて、よりパーソナライズされたOne to One施策に取り組むことで、満足度の高い「おもてなし」を実現し、ロイヤリティを高めている企業もあります。
世界規模でホテル・チェーンを展開するザ・リッツ・カールトンは、ホスピタリティの高い接客で有名なホテルです。接客から知り得たお客様の情報を漏 らさずメモし、従業員が情報を共有するよう徹底されています。そして、そのお客様が再度宿泊される際は、愛読新聞、好きな食事メニューやお酒の銘柄、枕の 素材や固さの好みなどの情報をもとに、万全の準備をして迎えるそうです。
また、全国でリゾート開発・ホテル等の運営を行っている株式会社星野リゾートでは、リピートしている顧客のデータを詳細に分析しています。その結 果、リピーター顧客から「部屋のCDを増やして欲しい」といった要望があれば個々に検討しているそうです。「それによって『年に2~3回は国内旅行をす る』なかの、星野リゾート内のシェアを高めてくれるのであれば、それこそが安定集客を可能にする仕組みとなる」と、星野佳路社長はインタビューの中で述べ ています。
一方、神奈川県秦野市の「元湯陣屋」は、囲碁や将棋の対局でもよく知られる老舗温泉旅館です。同館では、Salesforceを活用して、お客様情 報を一元化し、それをスタッフが共有することにより、顧客の満足度を高めています。「リピーターの方がいつどんなときにご利用いただいたか検索しやすく、 前回の内容を把握した上でお迎えすることができます」(同館女将の宮﨑知子さん)。また、予約しているお客様の個々の情報がすぐに出てくるので、好きな食 べ物、苦手なものがすぐにわかり、お客様一人一人に細かいサービスができるようになったそうです。
陣屋:予約状況のリアルタイムな把握と、 ソーシャルメディアの活用で
きめ細かな社内連携およびお客様へのサービスが可能に ›
One to One施策に取り組む企業に、株式会社バーニーズ ジャパンがあります。同社はセレクトショップ「バーニーズ ニューヨーク」の衣料品やグッズを、1990年の新宿店オープン以来、日本で展開しています。
バーニーズ ジャパンでは、一人の担当者が抱えるお客様の数は50人から100人にも及ぶそうです。そのなかでもロイヤルカスタマーと呼ばれるよう なお客様については、クローゼットに何をお持ちなのか、また、週末や休日はアウトドアで過ごすのか、あるいはインドア派なのかなど、ライフスタイルについ ても心得ているといいます。来店時の会話から得た情報なども記録にとどめ、担当者が交代する場合も引き継いで、信頼関係を築き上げているのです。その結 果、お客様の好きなファッションスタイル、色、素材に基づいて、シーズン別にお薦めコーディネートなどを提案しています。
Marketing Cloudが可能にするバーニーズ ジャパンのOne to Oneマーケティング ›
ロイヤリティプログラムとは、一定期間忠実に愛用してくれた顧客に対し、特別なサービスを行うプログラムのことを指します。事前に詳細な顧客データ が把握・管理できていれば、例えば入学式や卒業式などのイベント時にアプローチしたり、好きなアーティストの情報をリアルタイムに発信したりと、顧客に とってベストなタイミングでロイヤリティプログラムを実施することができます。
会員限定の特別クーポンやサービス券が定期的に送られてくるだけでは、あまり興味を引きませんが、愛用しているブランドから自分の誕生日にクーポン付のバースデーメールが送られてきたらどうでしょうか? そのブランドに対するロイヤリティが高まるのではないでしょうか。
限定された顧客に「特別な体験」をプレゼントするという方法もあります。家具やインテリア雑貨を販売するイケア・ジャパン 株式会社(IKEA)では、実店舗にIKEA FAMILYメンバーを招いた「お泊まり会」を開催しています。2013年10月の場合は、船橋店、港北店、新三郷店、神戸店、鶴浜店、福岡新宮店の6店 舗で開催されました。閉店後の店舗に泊まれるというだけでも非日常的体験ですが、夜のストアツアーに加え、商品の中から好きな寝具が選べるなど盛りだくさ んのイベントであり、回を重ねるごとに人気が加熱しています。
こうした「特別な体験」は顧客の心に感動を与えます。よりよいサービスを受けた時や「特別な体験をした」と感じた時の感動が、ロイヤリティを高めるのです。
これまで見てきたように、ソーシャルメディアを有効活用し、パーソナライズを意識したOne to Oneマーケティングを実行してロイヤリティプログラムを魅力的なものにすることが、カスタマーリテンション戦略です。
顧客ロイヤリティを高めるポイントは、顧客の声に耳を傾けること。商品の販売時や利用時だけではなく、顧客との接点を持つ部分から販売後のサポートも含めたユーザー体験の全体を見渡すことが重要です。それが、1回のお客さまを一生のお客さまとしていくための秘訣といえます。
顧客が期待しているレベルを超えていくことで顧客ロイヤリティは高まる傾向にあるため、まずはそれぞれの過程で顧客が期待しているレベルを把握することが大切です。そのためにも、顧客の声を丁寧に聞き、顧客ロイヤリティの向上を目指しましょう。
参考: