昨今のインターネット/ソーシャルメディアの普及によって、我々消費者の商品/サービスの購買方法は激的に変化している。たとえば日用品を購入する 場合、ECサイト上で購入しようと考えている製品を検索し、パッケージ内容や価格の比較を行い、お薦め商品(レコメンデーション)を見て、ソーシャルメ ディアでユーザーの評判を確かめる。リアル店舗に実物を見に行くこともあるだろうが、店舗に行く前に買うものの候補は決まっているのが現実だろう。この購 買方法変化は、インターネット/ソーシャルメディアの普及だけによるものではなく、スマートフォンなどのモバイルデバイスから簡単にECサイトへアクセス し、セキュアな購入ができるようになったことも理由の一つである。考えてみると、我々は、モバイルデバイス、ソーシャルメディア、ECなどのITを駆使し た買い物をするようになったと言えよう。
購買行動の変化は、消費者だけではなく、ビジネス(B2B)領域でも現実のものとなりつつある。ある調査では、米国企業のITバイヤーの50%以上 が、セールスを呼ぶ前に購入するものを決めているという結果が出ている。我々のような消費者と同様に、企業のITバイヤーも購入する機材やサービスをソー シャルメディア上のユーザー評価や信用のおけるインフルエンサーの情報をインターネット経由で下調べし、価格情報まで取得している。セールスを呼ぶタイミ ングでは、実際の機材/サービスの検証や価格交渉の段階にいる。こうなると、商品/サービスを顧客訪問して紹介するセールスの仕事の一部は、次第に価値が 低下するだろう(下図1参照)。セールスの仕事は、ITを利用して自社の製品/サービスをターゲット顧客に紹介する方法やコンテンツの考案にシフトしなけ ればならない。そして、この状況は遅かれ早かれ、日本国内でも起きる。
このような顧客の購買行動の変化は、必然的に販売する側、すなわち企業側にも変化を要求する。もし、企業が顧客に対してより良い購買体験を提供する ことでリピート顧客になってほしいと考えるなら、顧客がどこで自社の商品を知ったのか、実際の商品をどこで/いくらで購入したのか、クーポンやポイントは 使ったのか、販売した商品に対するクレームや質問が購入後にこなかったのか、などの顧客に関する情報を知りたいと思うのは自然なことである。まして、今後 顧客になり得る潜在顧客に対して、どのように商品を知ってもらうのが効果的か、現在の商品で大半の顧客が満足してくれるのか、はセールス/マーケティング 担当者や商品事業を行う人にとって重要事項であろう。
顧客のIT活用によって購買行動が変化したことによって、企業が顧客ロイヤルティを高め、競争力を強化するためのデータ利用の方法や、必要なデータ そのものも変化していることにお気付きであろう。顧客の購買履歴やソーシャルメディア/ブログなどに投稿された評判、コールセンターに届いたクレームや質 問などは、企業にとって貴重な「顧客データ」になっている。そして、製造業ならば製造プロセス/在庫情報などは、顧客の気が変わらないうちにできるだけ早 く商品を届けるための有益な情報となるし、サービス業ではサービス価格や利用時間などの情報は大変貴重な情報である。流通業では、最近よく聞くようになっ た、デジタルとリアルの流通融合(オムニチャネル)によって、顧客に商品を届ける仕組みをさらに便利にし、より良い顧客体験の提供を目指している。オムニ チャネルの実現には、より詳細な顧客の嗜好や行動をデータとして把握する必要があるであろう。さらには、こうしたデータを次の販売に生かして、顧客のパ ターンを知ることや、製品/サービスの強化のための評価、キャンペーンなどを含む販売の予測は、顧客に現在よりもっと良い体験を提供できる。このように、 顧客と相対しているすべての企業は、データの活用方法を変えていかなければならない。下図2に製造業を例にして、カスタマーを中心としたバリューチェーン の中で、各段階で必要な情報の例を示すが、多くのデータは顧客情報を参照できるものである。
振り返って考えた時に、企業のITシステムはこのような顧客データが入手できるようになっているであろうか。入手できているとしても、正しく顧客に 関わるデータを分析して、次の販売を予測できているであろうか。多くのITシステムでは答えは「ノー」であろう。その理由は、今までのITは「効率と統 制」が主な目的であったからである。つまり、ルール通りに効率良く業務が遂行できることがITの価値であった。しかし、これからのITは、顧客に良い体験 をしてもらい、どのように販売を増やすか、すなわち「顧客と業績」のためのITである必要があるであろう。この変化はすでに到来している。従来の「コンベ ンショナルなIT」から「第3のプラットフォーム」への変化は現実に起こっている。第3のプラットフォームとは、顧客と業績のために、ソーシャル/ビッグ データ分析/クラウド/モビリティを活用したITシステムを指しているが、市場はすでに「第3のプラットフォーム」への移動を開始しており、従来型ITシ ステム(第2のプラットフォーム)は次第に市場を失い、第3のプラットフォームに取って変わろうとしているのである(下図3参照)。この変化の波に乗り遅 れることは、企業競争力や顧客ロイヤルティに決定的なダメージを被る事態となる可能性が高いのである。