コンシューマユーザーをターゲットとしたLINEと、企業ユーザーをターゲットとしたセールスフォース・ドットコム。 同じクラウドサービスながらターゲットが異なるサービスを行ってきた両社だが、Salesforce1 World Tour Tokyoの当日、両社がパートナーシップを結ぶことが発表された。新しいマーケティングツールSalesforce ExactTarget Marketing Cloudによって、両社のマーケティング活動はどう変化していこうとしているのか。
Salesforce ExactTarget Marketing Cloud SVP & ジェネラルマネージャーであるリー・ホークスレイが聞き手となって、LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当の田端 信太郎氏との特別セッションを紹介する。
Salesforce ExactTarget Marketing Cloud SVP & ジェネラルマネージャー リー・ホークスレイ
LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当 田端 信太郎氏
セールスフォース・ドットコムのリー・ホークスレイは、普段はオーストラリア在住。日常的にLINEを利用しているわけではないが、「日本に来る度、LINEはやっていないのか?絶対にLINEはやった方がいい!と周囲の複数の人からアドバイスされた」という。
すでにLINEのユーザーはグローバルで4億5000万存在する。LINEの森川亮社長は年初に5億ユーザーという目標を掲げていたそうだが、現在のペー スで進めば、秋までにこの目標を達成する見込みだ。田端氏は「スタート前には全く想像できなかった」というが、その一方で、「数字だけを追いかけても意味 はない」とも指摘する。
「アプリビジネスを行う際、累計ダウンロード数だけを追いかけても意味はない。各自のスマートフォンには、30、40のアプリがダウンロードされているの ではないか。しかし、日本語で幽霊部員という言い方をしているが、そのほとんどのアプリは利用されていない。LINEの本当の価値は、毎日、LINEを 使っている人が日本だけで3000万から5000万存在することにある」
毎日LINEを使っている人が、日本だけで5000万人存在するという実績にはホークスレイも驚いた様子を見せた。そして、「これだけ成功した理由はどこにあるのか?」とビジネス成功の理由をあらためて問いかけた。
「理由を一つに絞り込むのは難しい。ちょうどスマートフォンの普及期にあたって、これが成功を呼ぶきっかけとなっていることも確か。新興国に進出した際に は、安いスマートフォンが爆発的に普及する際、LINEがキラーアプリとなっている。世界でビジネスをしてみて学んだことは、広く薄く入っていくというの はダメだということ。雪だるまの芯になる部分をしっかりと作り、それが出来上がってから拡大のためのCMを打つなどの施策を打つ」と田端氏は闇雲にキャン ペーン活動を行うのではダメだと考えているという。
「マーケットとして大きい北米への進出計画はどうなっているのか?」という問いかけに対しては、次のような答えが返ってきた。
「海外戦略の基本となるのは、スマートフォンの普及が進んでいる地域に転換すること。マーケットとして大きい北米、中国をどう攻めていくのかについてはま だ検討を行っている段階。それ以外の国でもホワイトスペースといえるところがあるので、そうした地域を攻めながら北米、中国戦略を考えていく」と慎重なと ころを見せた。
LINEが新たに狙っているのは、スポンサーとなる企業との連携をコンシューマユーザーのコミュニケーションと絡ませていく戦略だ。今年2月、公式 アカウントの各種機能を拡大するため企業向けにAPIを提供する「LINEビジネスコネクト」を発表した。その後、田端氏は約100社の企業をまわった。
「反応は悪くないのだが、実際にどう展開していくのか、開発のための予算、スケジュール、部門の壁といった現実的な問題が立ちはだかりあまりうまく進んで いなかった。今回のセールスフォース・ドットコムとの提携によって、そうした問題点があらかじめ埋められることになるので、今後の展開に期待している」 と、セールスフォース・ドットコムとの提携により、LINEビジネスコネクトが大きく進展する可能性があるという。
さらに、Salesforce ExactTarget Marketing Cloudが志向している顧客の動向を見きわめた上で、最適なメッセージを顧客別に送っていく発想には、田端氏も共感したようだ。
「企業の公式アカウントは、日本だけで100社以上が存在し、のべで3億5000万人のユーザーが企業と友達という関係をもっている。ただ、企業は登録し たユーザーに一律で同じメッセージを大量に送るのか、それが正しいのかについては疑問を持っていた。Salesforce ExactTarget Marketing Cloudはカスタマージャーニーを追って、そのユーザーのためのメッセージをOne to Oneで送るという。まさに(我々も)一律のメッセージではなく、個々のユーザーに向けたメッセージを送ることが必要なのではないかと考えていた」
ホークスレイはこの意見に対し、次のような意見を述べた。
企業からユーザーにメッセージを送る際、重要なポイントとなるのが、それがユーザーから許可されたものであるのか、否かという点でも重要となる。
「LINEでやり取りされているメッセージは、プライバシー性の高いものばかり。また、LINEにはないが電子メールにあるものがスパムで、スパムなしに やり取りができるからこそLINEでのコミュニケーションは心地よい。今回の提携によって、企業との連携ビジネスが増えていったとしても、この環境は守っ ていきたいと考えている」
ホークスレイは、「今後、新しいサービスをどんどん展開し、マネタイズしていくためには、今のお客様に真摯に向き合うこと。マネタイズをする際には、ユーザーから許可を得た上で展開していくことも重要だ」と指摘した。
田端氏はデジタルマーケティングのみならず、マーケティングが少しずれているのではないかと指摘する。若者向けビジネスを成功させた経験から、企業に意見を求められることも多いのだが、そこではこんな話しをするのだという。
「例えば若者の自動車離れといったことが言われているが、若者が最も多くの時間をスマホに割いているにもかかわらず、企業がスマホを使ってアピールする割合は依然として低い。きちんと若者に向き合っていない以上、若者の自動車離れが起こっても当然ではないのか?」
ではターゲットである若者の気持ちを知るためにはどうすればいいのか?
「会社内では組織の論理を優先してしまいがちになるが、週末にスーツを脱いで感じたことを、そのまま企業内にフィードバックできるかどうかが最も重要では ないか?自分が1ユーザーの立場になれば、『こんなアプリはいらない』、『新しいものはあらためて開発する必要はない』と思うのに、会議になると前例を打 ち破って、本音で語ることができない。そういうところに問題があるのではないかと感じている。自分が年齢を重ね、冒険ができないのなら、冒険ができる若者 を支援するパトロン的な立場に立ち、若者が失敗をしたらバックアップするぐらいの立場で考えるのが良いのではないか。社内の若手とそういう関係を築くのが 難しいのであれば、自分の娘や息子が何を言っているのかを聞くところから始めても構わない。コンサバな世界では、失敗は格好悪いと考えがちだが、失敗を否 定することの方が格好悪いと考えてもよいと思う」
ホークスレイも失敗を織り込んで、活動を行っていくことは重要だと指摘する。「アメリカの企業で、常に自分達の時間の30%は実験に費やすという黄金律を 作っている企業があった。当初、実験には資金がかかったが、デジタルの世界であれば、もっとローコストで実験ができる」とデジタルの特性を活かして、どん どんチャレンジを行っていくべきだと話した。
Salesforce ExactTarget Marketing Cloudが重要だとする、オンライン、対面販売など異なるチャネルでの接触を全てフォローするマーケティング活動も企業の重要な課題である。
田端氏は、「オンライン販売の売上を、リアルビジネスの売上と別換算として、両者は競争関係にあると捉えている企業は依然として多い。これはユーザーはオ ンラインとオフラインを区別していない。オンラインとオフラインを区別しているのは、まさに企業の会議室の論理だ」とチャネルをまたいだユーザーフォロー を行うことは必須だと指摘する。
ホークスレイも、「現在は縦割りのサイロ状態となっているかもしれないが、ブランドをより強くしていくためにはオンラインとオフラインの融合が必ず日本で も起こるだろう」と断言する。そして田端氏に、「我々は3年後にはどんなマーケティング活動を行っているのだろうか?」と問いかけた。
これに田端氏は、「回答が難しいが…」としながら、すでに起こりつつあるマーケティングの新しい方向性としてリアルタイム性をあげた。
「LINEの強みはリアルタイム性。Eメールが読まれるまでには半日かかるといわれるが、LINEはほぼオンタイムで読まれている。レストランがランチタ イム用プロモーションとして、11時59分にメッセージを送り、それがビジネスへとつながっていく。企業が朝のテレビでランチ用プロモーションを仕掛けた としても、時間が経つうちにその有用性は薄れてしまう。さらに、リアルタイムであることから、PDCAをもっと早く回すことができるようになる。これまで 数ヶ月単位で予測、行動、結果というサイクルが、LINE+Salesforce ExactTarget Marketing Cloudであれば大幅に期間を短縮して実施することができるようになる。これまで企業が一方通行で送っていたメッセージが、即、顧客からレスポンスを得 ることで会話となって展開されていくようになる」
ホークスレイは、「ワークショップを行うと、マーケティングに大切な三つはタイミング!タイミング!!タイミング!!!だとお話している。まさに、これか らは最適なタイミングに合わせ、無駄のないマーケティング活動が行える時代になったのではないか」と対談を締めくくった。