ソーシャルの重要性をどれだけの人が認識しているでしょうか?ソーシャルメディアマーケティングが必要であるいうマーケティング担当者は数多くいま す。Twitterアカウントをつくって店舗やサービスに関する情報発信をしている企業が増えてきました。Facebookページを作って、同様に情報を 発信する企業も増えてきました。自社メディアとしてのコーポレートサイトやホームページ以外に、メディアが増える、露出が増える、顧客接点が増えるわけで すから、正しいマーケティング活動です。しかし、ソーシャルの性格を考えるとこれだけではあまりにもったいない。私が第一回の「Webマーケティングからデジタルマーケティングへ」 で、デジタルマーケティング時代に取得できるデータの重要性の話を思い出してください。以下の4つが、デジタルマーケティングによってマーケティングの世 界に革新をもたらしたとお話したのですが、この4つのうち、特に2と3は、ソーシャルデータなしでは、なしえなかった革新です。
インターネット前には、Aの顧客が買った製品から、Aの顧客の好みを推測したり、Bの顧客の行動が、CやDの行動と似ていることから、Aの顧客の購 買行動を推測したりしていました。これらは、あくまで、購買以降のデータから分析されたものでした。しかし、今はソーシャルのおかげで、Aの顧客がいい ね!と言ったデータから顧客の好みを推測したり、Bの顧客が購買したものが、自分用だったのか、プレゼント用だったのかまでわかるケースも増えてきまし た。Bの顧客が「購買したので、次に買うものは購買したものと異なるものである」と、発言することで、2)の購買前のデータがとれ、3)の気持ちが把握で きるようになったのです。つまり、CRMという(購買した)顧客との関係性を管理するだけでなく、潜在顧客や顧客の購買前の行動という関係性に、私たちは ソーシャルデータを通じて踏み込んだのです。
これは、FacebookやTwitterという手段の問題ではなく、ソーシャルデータを、何のマーケティング活動に役立てたいのか、という目的を 考えなくてはいけません。ゆえに、今回は、「どんな企業活動がしたいから、ソーシャルを使うのか」という問いに答えるために、いくつかの事例をお話したい と思います。
共創マーケティングは、顧客と一緒に商品開発をするという意味です。もちろん、プロダクトマーケティングにしても商品企画にしても、顧客のニーズを 調査して、ソフトウェアであれば、βサイトの人たちにβ版を使ってもらって仕様を直しながら製品づくりをするわけですから、今までの製品開発も「共創」と 言えないことはありません。しかし、昨今、耳にする「共創マーケティング」は、今までの2時間のグループインタビューではなく、企業が意見を聞いてみま しょうという上下関係ではなく、1)中長期的な時間軸で、2)あくまで企業とユーザーは対等な関係であり、3)継続的に話し合いの場を設け、4)有名人や インフルエンサーというより、ブランドの支持者とともに5)「イノベーション」を見つけるための活動です。
市場の競争は激しくなり、商品のライフサイクルもますます短くなっています。マーケティング予算は膨らむばかり。それでも、1年以内になくなってい く短命の商品がふえています。DVDプレーヤーは2.8年で店頭価格が半額になりました。ノートPCも8年で半額になりました。コマーシャルを見ると、虫 歯予防、歯周病予防、ホワイトニングなど、歯磨き粉メーカーは様々なベネフィットを打ち出していますが、消費者の多くは、同じ技術を違うストーリーで差別 化しているように感じています。様々な消費財が、同様です。もう、ポジショニングマップに、空白地帯はない。技術革新で差別化ができない時代です。
だからこそ、今までのマーケティングリサーチに限界が訪れたのです。マーケティングのリーディング企業P&Gのジョーン・ルイス氏は 「2020年までに市場調査の重要性は劇的に低下する」と発言し、調査業界に「P&Gショック」を巻き起こした。今までのやり方では、新しいベネフィット もヒット商品も生まれないのです。
そこで、共創マーケティングです。キリンビールのカンパイ会議(図1)は、この共創マーケティングの先駆けです。昨年9月に、キリンビールの Facebookの40万人のファンの中から、横浜在住もしくは横浜出身のファンたち2400人に、「ココスクエア(図2)」という共創マーケティングプ ラットフォームに集まってもらい、徹底的に議論を重ね、試飲会やビール作りを経て、完成にこぎつけました。大企業のFacebookページには、すでに何 十万というファンが集まっています。ここから、上位数%の人たちをこの共創コミュニティに誘導するのです。キリンビールのカンパイ会議の場合は、 Facebookのファンの中でもよりすぐりのキリンブランド好きのはまっ子でした。今までのように影響力があるブロガーというよりも、ブランドを愛して くれている人たちが集まることで、消費者との共創が生まれます。
この共創コミュニティでは、MROC(Market Research Online Communities)という、ネット上にファンが集まって商品開発や新商品の仮説導出を行なう定性調査を行ないます。次に、その仮説を評価するアン ケートなどの定量調査を行ないます。また、MROC。また、定量調査。このマーケティングリサーチのためのPDCAを、ブランドを愛する人たちと一緒にぐ るぐる回していくというのが共創マーケティングの手法です。企業の上から目線のマーケティング調査では、もう新しいコンセプトは生まれません。共創コミュ ニティから得られるのは、答えではなく、ヒントなのです。
(図1)
(図2)
11月11日は「ポッキー&プリッツの日」です。江崎グリコは、ポッキーとプリッツの形が「1」と似ていることから、1が並んだ平成11年 (1999年)11月11日を「ポッキー&プリッツの日」として提唱したのです。その年に、日本記念日協会の認定を受け、同年より毎年キャンペーンを実施 しています。当初は、マス広告やリアルなイベントを中心に展開してきましたが、2011年は「ポッキー&プリッツの日」がある種の“ネタ”として Twitterで話題が大きく拡散しました。その影響力を感じ、2012年はTwitterを使ったイベント「TRY WORLD RECORD」を開催しました。24時間内にもっとも多くツイートされたブランドとしてギネス世界記録に挑戦するという大胆なキャンペーンです。
これが、なぜ大胆なことなのか?日本人がポッキーとツイートする際に、多くの人はカタカナでポッキーとツイートします。一方、たとえばiPhone の発売日には、世界中の人々が英語表記でiPhoneのツイートをします。こういったブランド名のツイートにも日本語のみで勝たなければいけません。しか し、このキャンペーンは大成功をおさめ、184万3,733ツイートという世界記録を樹立したのです(図3)。このキャンペーンで、ポッキーは世の中の共 通アイコンとして共有されるという目的を達成しました。世界記録を記念して、11月16日に公式アカウントから“金箔ポッキーケーキ”を投稿したところ、 これもまた、約2万5,000件もRTされたのです(図4)。ユーザーからも温かいコメントが多く寄せられ、「がんばれ」「達成おめでとう」だけでなく、 「ポッキーありがとう」という内容もあり、ユーザーとの一体感が生まれています。
ちなみに、江崎グリコは、翌年の2013年11月11日にも同様のキャンペーンを行いました。今度は、自分たちが樹立した前年の世界記録を超えなけ ればなりません。途方もない挑戦に思えましたが、結果は3,710,044ツイートで、2年連続ギネス世界記録を樹立。売上の成果も、しっかりとついてき ました。ソーシャルがマーケティングプロモーションの中心的な役割を担ってくれる。ぜいたくなキャンペーンですね。
(図3)
(図4)
コールセンターには届く不満は氷山の一角です。むしろ、不満がある人の多くは、我慢していると言っても過言ではありません。しかし、Twitter というメディアが流行するにつれ、これら不満が、ここに書き込まれるようになったのです。それは、不満でないこともあります。なんとなくつぶやいてみる、 でも、不満といえば、不満だろう、そんな風に思えるツイートが世の中にあふれています。これら潜在的な不満を、企業側から救済していこう、さらに、それら のタイムリーな顧客の声を活かし、Q&Aの拡充や業務改善に繋げよう、それがアクティブサポートの目的です。
仮に、Twitter上で「AA」というワードは、簡単に検索することができるとします。「AA」単体での検索では、あまりに多くのツイートが表示 されてしまう。そこで、ネットイヤーグループの開発した「Social Voice for Support」を使って、通常の検索のように、たとえば、「iPhone」や「アイフォン」を入れて、ツイートを絞り込みます。また、あらかじめアプリ ケーションに入っている辞書機能に「わからない」などの単語を入れておきます。そうすると、今日は、「AA」のiPhoneを使っているが、使い方がわか らないと、つぶやいているお困りのお客様のツイートを抽出することができます(図5)
従来のコールセンターには届きにくい、Twitter上に散在する顧客の疑問や不満の声を抽出し、お困りの方に、自ら声をかけ、サポートをする。そして、 その声を、各部門に共有するのです。コールセンターにかかってくる氷山の一角の声は、極めてクリティカルな声ですが、顧客満足度を高めるためには、それだ けでは不十分。なんとなくつぶやく声にこそ、業務改善のヒントが隠されています。組織に合ったワークフローの構築やKPIレポートを作成し共有していきま しょう。こんな効用が生まれています:
ソーシャルは神の声ですね。
(図5)