Salesforce1 は、プラットフォーマーとしてのセールスフォース・ドットコムのビジネスを拡大する大きな一歩となった。2013年12月12日に、対応アプリケーション を発売することを10社が表明。2014年3月末時点で全てのアプリケーションが製品としてリリースされている。これだけ早期にアプリケーションが出揃っ た要因はどこにあるのか。セールスフォース・ドットコムでアプリケーションを担当するアライアンス本部 シニアディレクターの御代茂樹は、「アプリケー ション開発プラットフォームとして、Salesforce1が高い価値を示すことができた結果ではないかと思います」と分析する。Salesforce1 が示した、プラットフォームとしての価値とはどんなものなのだろうか。
アライアンス本部 シニアディレクター 御代 茂樹 氏
「2013年12月時点で開発意向表明された10本のアプリケーションが、2014年3月末時点で全て製品として揃い、提供されている。この事実 に、アプリケーション担当者として心から嬉しく思っています」--セールスフォース・ドットコム アライアンス本部 シニアディレクターの御代茂樹は笑顔 でこう話す。
Salesforce1は、2013年11月20日、米サンフランシスコで開催されたセールスフォース・ドットコムのイベント 「Dreamforce 2013」の会場で正式発表された。御代は日本のアプリケーション担当者として、メーカーの開拓に取り組んできた。それだけに短期間にアプリケーションが 揃ったことに喜びを隠さない。
「実は正式発表前、日本で同じ年の10月30日に開催されたイベント、『Customer Company Tour Japan』の会場で、マーク・ベニオフがSalesforce1の概要を発表しました。その時から、Salesforce1登場を待っていました。しか し、アプリケーションベンダーの皆さんがSalesforce1をどう評価するのか、実際のアプリケーション開発がスムーズに進むのか、担当者としては一 番気になるところでした。それだけにサンフランシスコで日本のアプリケーションベンダーの皆さんの興奮した声を聞いて、本当に嬉しかったですね」
Dreamforceに参加した日本のアプリケーションベンダーの数社は、発表直後からSalesforce1対応アプリケーションの開発を始めた という。最初に登場した10本のアプリケーションのうち、株式会社オークニーの地図アプリケーション、株式会社チームスピリットの勤怠管理のアプリケー ションなどの数社は、発表の夜からすぐに開発を始め、ほぼ次の朝には、完全なものではないものの実験ベースのものであれば、すでに動くアプリケーションが 出来上がったのだという。
「これまでとは段違いに、ファーストステップが早かったのです。オークニーさんはSalesforce1以前からモバイルアプリケーション開発に取 り組んでいました。しかし、工数と手間がかかり、どうモバイル対応していくのか、悩まれていたようです。それに対し、Salesforce1は発表直後に エンジニアが開発を始め、一晩ですでに動くレベルのものが出来上がった。この結果を見て、基調講演での翌日にはオークニーの森社長は、 Salesforce1用アプリケーション開発を決断してくれました。セールスフォース・ドットコムの内部の人間ではなく、外部のアプリケーション開発企 業の皆さんが評価してくれたのは有り難いことでした」
12月時点で対応アプリケーション開発を表明した10社は、いずれもSalesforce1を高く評価した。
アプリケーションベンダーは、Salesforce1のどんな部分を評価したのか。
「やはり、モバイル対応という点だと思います。これまでにもセールスフォース・ドットコムではモバイルアプリケーション開発のための施策を提供してきまし た。しかし、アプリケーションを開発される皆さんの課題を完全に解決できていない部分がありました。Salesforce1は、モバイル対応アプリケー ション開発にまつわる課題を解決するプラットフォームだった点が高く評価されたのです」
モバイルには、iPhoneのiOS、Androidと二つのOSがあり、それぞれ別のアプリケーションを提供する市場が存在する。開発を行う側は 二つのOS用それぞれに開発を行わなければならなかった。さらに、iOSの場合には、アップルの審査を受けないとiOSの市場であるApp Store ℠ に商品を出すことができない。これまでSalesforce用アプリケーションであっても、iOS用アプリケーションは審査を受けなければならなかった。
Salesforce1は1回の開発で、Android、iOSの両方で動作する。アプリケーションの提供も、セールスフォース・ドットコムの AppExchangeを介して行うため、これまでのようにiOS用審査を受ける必要がない。アプリケーションを開発してきたベンダーにとっては開発の工 数、アプリケーションを提供するための手間が大幅に削減されることになる。ユーザーにとっても、自分が欲しいモバイルアプリケーションを手に入れやすい環 境が整った。
しかも、開発意向表明を行った10本全てが数ヶ月のうちに製品としてリリースされている。新しいプラットフォームが登場し、スタート段階で開発意向表明し たアプリケーションが、様々な不具合によって製品としてリリースすることが遅れることもある。だが、Salesforce1についてはそういった事態が起 こらなかった。
「発表段階での評価だけでなく、実際にアプリケーションを開発するプラットフォームとしてSalesforce1は実用の価値があることを示すこと ができたと思います。発表されている10本以外にも開発されているアプリケーションが多数存在します。アプリケーション開発を支援してきた私としては、こ れが一番喜ばしい点です」と御代は話す。
プラットフォームとしてのSalesforce1の価値は、開発だけにとどまらない。利用する際にもこれまでにはなかったメリットを生んだ。一度の ログインで、Salesforceが提供するもの、アプリケーションベンダーが提供するものの境なく、アプリケーションを利用することができるからだ。
「一度のログインで複数アプリケーションを利用することができます。アプリケーションを利用する度にログインしなければならなかったこれまでと比べ、大幅に利用しやすくなります」
しかも、一度のログインで複数のアプリケーションが利用できることで、アプリケーション間の連携という単品アプリケーション利用にはなかったメリットを生 み出しやすくなった。例えば会計アプリケーションとBIツールのように、セールスフォース・ドットコムの基盤を通して繋がっている複数アプリケーションを 利用するというスタイルだ。
「もっと複数のアプリケーションが出揃うことで、アプリケーションはコンポーネント化していくようになるだろうと思っています。セールスフォース・ ドットコムという企業を選択してSalesforce1を使われる方もいますが、『このアプリケーションが使いたい!』という理由で利用される方も出てく るのではないでしょうか。その際にはSalesforce1は、バックエンドで動いている。セールスフォース・ドットコムの製品を使っているという意識な しに、利用されるお客様も出てくるのではないでしょうか」
また、御代は複数アプリケーションの利用を推進するために、アプリケーションライセンスのリセラーや、コンサルティングビジネスを行う事業者が活躍するようになるのではないかと見込んでいる。
「複数のアプリケーションを組み合わせることでどんな価値が生まれるのか、それを見越す力をもった事業者が活躍するようになるでしょう。ユーザーごとに最適なアプリケーションの組み合わせを勧める、新しいコンサルティングが必要になるからです」
様々なアプリケーションが揃っていくことで、新しい価値とビジネスの可能性が生まれようとしているのだ。これはアプリケーション開発会社、アプリケーションを利用するユーザーにとってもメリットとなる。
しかも、すでにSalesforce1自身の強化も始まっている。「開発ベンダーの皆さんから要望が多かった、オフラインの時にも入力できるように して欲しいという点については、すでに米本社で対応すると言っています。オフラインで入力し、オンラインになった時点で同期される。それができるようにな ればいつでも、どこからでも入力ができるようになります。こうした機能強化は、これからも継続敵に行っていきます。Salesforce1はこれからさら に発展していくプラットフォームなのです」
御代のことば通り、Salesforce1は、プラットフォームとして第一歩を踏み出したにすぎない。これからさらにビジネスを広げるプラットフォームとして進化を続けていくことをセールスフォース・ドットコムでは確約している。
また、Salesforce1はプラットフォームとして、これまでセールスフォース・ドッドコム製品を使っていなかったユーザーにアピールする可能性を持っている。それはどんなものなのか。後篇ではその可能性についてご紹介しよう。
* App Store は Apple Inc. のサービスマークです。